REDMPTION12






 医務室に横たえられたマリア。
 きちんと普通に呼吸しているのに、目を覚ますことはない。全てはアドレーの策略。
「いったいアドレーさんはどうしてこんなことを」
 フェイトが言うと、同じく医務室に来ていたクレアとネルが目を合わせる。
「まあ、お父様のことですから」
「何か分かるのかい、クレア」
「ええ。多分──決勝戦にふさわしい演出のため、とかではないでしょうか」
 クレアが申し訳なさそうに言う。
「え、演出って、それだけのために!?」
「お父様ならやりかねません」
 はっきりきっぱりくっきりと答えるクレア。
「じゃあ、戦いさえ終わればきちんと起こしてもらえるのかい?」
「いえ、お父様に限ってそれはありません。たとえ女王陛下に命令されても決してマリアさんを元通りにすることはないでしょう。こうなった以上は、フェイトさんがジャンケンキングになって命令しない限り、マリアさんを元通りにする方法はありません」
「それも演出だっていうのか?」
「はい」
 クレアがため息をつく。
「お父様は、やるといったら必ずやりとげる方です」
「すげー迷惑なんですけど。ていうか、たかがジャンケンでそこまでする必要あるんですか」
「それこそ、今さら何を、っていう話だね」
 ネルがマフラーに顔を埋めながら言う。
「それで、フェイトさん。お父様を倒す手段はもう決まってるんですか?」
「え、うん。まあ、さっきのマリアの試合で、タイタンボイスは何とかなると思ってるけど」
 しれっと答えるフェイト。
「本当かい?」
「お父様のタイタンボイスを?」
「うん。まあ、ぶっつけ本番だけど、何とかなると思う。ただ、マリアもそう言って挑んで負けた。油断はできないけどね」
「そうだね。それに、おそらくアドレー様の隠し技はそれだけじゃない。フラガラックを使い切ったとはいえ、いったい何を隠し持っているやら」
「とにかく、何とかしてみるよ。マリアをこのまま眠らせておくわけにもいかないしね」
 うーん、と寝返りをうつマリア。ただ寝てるだけなのに、絶対目覚めない眠り。
「それにしても捕らわれの姫君なんて、どこのヒロインだい、いったい」
 ネルがマリアの頬を、ぷにっとつつく。
「まったくです。フェイトさんに助けてもらえるなんて、うらやましい」
 クレアも反対側をぷにっとつつく。
 それから二人で何度も頬をつつきあい、マリアがしかめつらで「うーん」とうなる。何だその構図。
「さあ、いこうか」
 フェイトは気合の入った顔でリングに向かった。






『さあ、いよいよ決勝戦の始まりです! 青コーナー、挑戦者、フェイト・ラインゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッド!』
 フェイトが颯爽とリングインする。ここまでシーハーツの猛者を相手に全勝。ネル・クレアといったクリムゾンブレイドはもとより、ラッセルまで打ち破ったのだから、最後の砦アドレーを打ち破れば、まさにシーハーツを全て敵に回して完全勝利することになる。
『対しまして赤コーナー、前回キング、アドレー・ラーズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアドオオオオオオオオオオオオオオオ!』
 そしてアドレーもリングイン。既に上半身裸で戦闘体勢。お互い最初から本気モードだ。
「アドレー、最初に聞いておきたい」
「おお、なんでもいいぞ、婿殿」
「どうしてマリアを人質にしたんだ?」
「決まっておるだろう。お主が本気を出せばどれほど強いか、確かめるためよ」
「僕はいつだって本気だった。それなのに、人質なんて無意味だ」
「違うな。お主は今までに本気になったことなどない。ルシファーとの戦いもそうだった。お主は常に、自分の力をセーブしている。その紋章遺伝子の力をな」
「アドレー」
「ワシはお主のその、本気の力を見たいのだ。我が娘の婿にふさわしいかどうかを確かめるためにもな」
「もしお前が勝ったら、マリアはどうなる?」
「無論、決まっておる。未来永劫、二度と覚めぬ眠りにつくだけのことよ」
「アドレー! それが仲間に対する態度か!」
「仲間?」
 ふふん、とアドレーは笑う。
「勘違いしておるようだから言うがの、婿殿」
 アドレーは凶悪な笑みと共に言う。
「お主が勇者ならば、ワシはラスボスじゃ。ラスボスにはラスボスに相応しい振る舞いというものがあろう」
「意味分からないし!」
「いずれにしてもワシを倒さねばお主に未来はないということよ!」
 アドレーの気が高まる。
『決勝戦、はじめぇぇぇぇぇっ!』
 グレイのコールと共に、アドレーの施術と、フェイトの紋章遺伝子が輝く。
「ジャンケン!」
 先制は、アドレー。

「ぱーっ!」

「来た、タイタンボイスだ!」
「フェイトさん、しっかり!」
 ネルとクレアの声が重なる。が、フェイトはしっかりと相手の動きを見て応じる。

「ぱーっ!」

「な、フェイトもタイタンボイスを!?」
「これなら確かに、お父様の技を封じることは可能!」
 お互いの手が合わさる。第一手はあいこ。
「なるほどな、婿殿。やるではないか」
「アドレーのタイタンボイスの正体はマリア戦で見せてもらった。なんとかあいこに持ち込むことは可能だというのはもう分かっている」
「ふん、千日戦争にはさせんぞ」
 アドレーはそのまま飛び上がる。この体勢はアドレーの最強奥義、スピキュール。
「その程度の技で僕を倒せると思うな!」
 フェイトの姿が消える。これはクレア戦でも使ったストレイヤーヴォイド。

 ──勝負は、一瞬。

『ぽんっ!』
 落下してきたアドレーのグーと、現れたフェイトのグーが接触する。激しいスパークを生じ、二人の体はロープへと弾き飛ばされる。
「さすが、アドレー」
 拳が痛む。だが、アドレーも同じように負傷したに違いない。
「馬鹿め! その体でワシのタイタンボイスに耐えられると思ったか!」
 アドレーは左手で攻撃を繰り出す。

「ちょき!」

 だが、フェイトは天使のごとき笑顔で応えた。
「その攻撃は、僕には通じません♪」
 その口調は、確かにどこかで聞いたことがある。
 そしてフェイトは、アドレーの繰り出すグーを、パーで迎撃した。
「ぬう!?」
「タイタンボイス、敗れたり!」
 先制。フェイト、一ポイント。ついにここまでパーフェクトできたアドレーに初めての土がついた。
「婿殿、今のは」
「ちょっと知り合いの技を借りたんだよ。まあ、アドレーに何度も通用するとは思ってないけど」
「なるほど。自分の擬似人格を作り、タイタンボイスの影響を防いだということか。なかなかやるではないか、婿殿」
 だが一ポイントは一ポイントだ。そしてフェイトがリング外を見ると、小柄な少女がぱたぱたと手を振っている。
「クレセント、君のおかげで先制できたよ」
「気になさらないでください♪ フェイトさんが勝ってくれた方が私にとってもありがたいですから♪」
 だがその笑顔の裏で、勝手に技を使った怒りが渦巻いているのだろう。後で丁重に謝らなければならない。
「さすがに本気になってきたようだな、婿殿。駄菓子菓子!」
 アドレーは下袴から何か可愛げなコンパクトを取り出す。
「アドレー・ラーズバード、メイークアーップ!」
「なっ!」
「アドレー様の姿が変化していく!?」
 姿というよりは服装か。その体に装着された服装は、なんと。
「4P裏カラー! ソフィアモード!」
「な、なんだってー!?」
「見よ、この神々しい姿を!」
 それは、セーラー服。
「愛と正義の美壮年戦士セーラーアドレー、見参! 娘にかわって、おしおきじゃ!」
「後生だから止めないで、ネル!」
「やめるんだ、クレア! アレを殺したってアレがあんたの父親だった事実は変わらないんだ!」
 思わずリングインしかけるクレアをネルが全力で止める。
「……で?」
 フェイトはセーラー服に身をつつんだアドレーに素で尋ねる。
「ふっ、このセーラーアドレーの力、甘く見るでないぞ!」
 確かに甘くは見ていない。というより、この格好が素でできるこの人物の精神力は見事としか言いようがない。
「アドレー・スパイラル・ハートアタック!」
 アドレーから放たれる光がフェイトに注がれる。
「この技は、まずい!」
 必死によけるが、遅い。その光を正面から浴びる。
「うわあああああっ!」
 それでも手を出す。フェイトの出したパーを切り裂くように、その光はチョキの形をとってフェイトの体をリング外に弾き飛ばした。
「フェイトオオオオッ!」
「くっ、なんて力だ」
 これで一対一。振り出しに戻った。
「さあ、早く上がってこい、婿殿」
「アドレー」
 リング上のアドレーは余裕の表情。タイタンボイスを破っても、今度はセーラー戦士として立ちふさがる。
「だったら、こっちもそれに相応しい手段をとるだけだ!」
 フェイトが飛び上がる。そして、コーナーポストの上に着地。
「セーラー服は、可憐なる乙女が着るもの。それをこともあろうに五十になる男が着るとは言語道断!」
「ぬう!?」
「くらえ、アドレー・ラーズバード!」
 紋章遺伝子の力を高めて、一気に放出する。それがジャンケンのチョキの形をとる。
「ぬおおおおおおおっ!」
 その勢いに負けてパーを出したアドレーが今度は反対側のコーナーポストに弾き飛ばされた。
「二対一。これで勝利は、僕のもの。アデュー」
 そしてひらりとリングインする。
「さあ、アドレー! 僕がリーチだぞ!」
 会場が一気に盛り上がる。ここまではフェイトが優勢。だが、前回キングがこの程度で終わるはずがない。
「さすがだ、婿殿。このワシから二ポイント取ったのは、我が妻以来じゃ」
 アドレーは立ち上がると、ふう、と大きく息を吐く。
「ならば、亡き妻の技を使うしかあるまい」
「ぬう!?」
 それを貴賓席から見ていたラッセルが立ち上がって叫ぶ。
「それはならんぞ、アドレー!」
「だまっとれ、ラッセル!」
 むう、と黙り込むラッセル。
「このワシを本気にさせたからには、その報いを受けてもらわねばなるまい!」
 渦巻く瘴気。そして、アドレーの周囲に輝く金色の光。
「破壊神、降臨!」
「くっ、引け! フェイト! お主のかなう相手ではない!」
 ラッセルの声が飛ぶ。が、フェイトはリングを下りない。というか、たかがジャンケンで命かけるっておかしいだろ。
「ファイナルフュージョン!」
 そのラッセルの両腕を取り巻く風。二つの竜巻が、アドレーの二つの腕に生じる。
「ゆくぞ、婿殿!」
 その竜巻を両方、フェイトに向かって放つ。
「ヘルアンドヘヴン!」
「くっ!」
 その竜巻に向かって、フェイトは渾身のグーで闘気を放つ。が、ラッセルのパーがフェイトを飲み込む。
「うわああああああああっ!」
 そのまま天高く放り上げられたフェイトは、はるか上空からリングに叩き落された。
「あの技を使いこなせるとはな、アドレー」
 ラッセルが歯を食いしばる。
「執政官、ご存知なのですか」
「うむ。先々代キング、奴の妻が使った大技だ。必殺技コードはGGG。技を受けた者はもちろん、技を放った者の寿命を縮めさせる、禁断の技だ」

 GGG……
 勇者王と称された初代ジャンケンキングが使ったとされる大技。この技を放てばジャンケンに負けることはまずないとされる。ただし、その技は自らの寿命を縮めるため、過去幾人ものジャンケンキングがこの技を使用し、そして短命に散っていった。
 技の正体は両腕に生じさせる竜巻で、右手に地獄(ヘル)、左手に天国(ヘヴン)、それを同時に相手にたたきつけることから『ヘルアンドヘヴン』と呼ばれる。二つの竜巻が生じる気圧の変化が相手の手を読み取り、カウンターで確実に勝利をおさめることができる。だからといって手を出さなければ気流は勝手にいずれかの形を取るため、何もしなければ遅出しとなってしまうので、技をかけられた方は負けると分かっていながらも手を出す他はない。
 なお、この技の由来は初代ジャンケンキングの名前である『顔・害・我』という異国の戦士の名前から来ている。また、このキングには宿敵『蘭・蘭・流』がおり、こちらの使う技はRRRと呼ばれる。
──アペリス書房刊『禁断のジャンケン』


「これで二対二じゃぞ、婿殿。じゃが、もはやこれで勝負は決した」
「くっ」
 震える足で何とか立ち上がる。
「フェイト!」
 ネルがリングサイドから声をかける。
「大丈夫だよ、ネル」
 それをフェイトは手で制した。
「僕は必ず勝って、マリアを元に戻すんだ」
 最後の一撃。
 このGGGを打ち破ることができれば、アドレーを倒せるのだ。
「覚悟は決まったか、婿殿」
「アドレー。マリアを犠牲にし、また自らの寿命まで縮めて、この大会に勝つ理由がお前にあるのか」
「無論」
 にやり、とアドレーは笑う。
「娘のクレアのため、最高の婿を用意するのが親の務めじゃ」
 迷惑千万。
 だが、さすがのクレアもそこで口を挟むことはできなかった。アドレーが何を考えていようとも、自分のためを思ってくれているのは間違いのないことだからだ。
「なら、僕もこの命をかける!」
 紋章遺伝子の力を収縮する。
「そう、それでいい。婿殿とは本気でやりあいたかったからのう」
 その両腕に再び竜巻が生じる。
「さあ、ゆくぞ婿殿! これが最後じゃ! ヘルアンドヘヴン!」
 アドレーの最後の技が放たれる。これを受ければフェイトの負け、打ち破ることができればフェイトの勝ちだ。
(僕にできるか?)
 フェイトは手を握り締めたまま、その竜巻に飛び込む。
「ぬう!?」
「いくぞ、アドレー! これが最後だ!」
 タイミングを測る。一瞬でも遅ければ、ルール違反でポイントを奪われる。ぎりぎりだ。そのぎりぎりまで見極めて、紋章遺伝子の力を解き放つ。
「遅い! そのスピードではワシの手の方が速いぞ!」
 アドレーの放った風が、形作られていく。
(いまだ!)
 フェイトはリフレクトストライフの要領で、思い切り足を振り上げた。

「足転闘気法!」

 アドレーの風が手を読むのならば、こちらは足。
 マリアの得意技だった足転闘気法のグーで、アドレーのチョキを、粉々にする。
「馬鹿な」
 そして、その力の直撃を受けたアドレーは、体中の神経がずたずたに引き裂かれる。
 ごふっ、と血を吐いたアドレーが、ついにリングに倒れた。
『それまで! 勝者、フェイト・ラインゴッド!!!!!!』

 その日一番の歓声が、会場を響かせた。

「やるではないか、婿殿」
 もはや立つこともできないアドレーがか細い声で言う。
「約束だ。マリアを元に戻してくれるんだろうな」
「うむ。既に目が覚めておるだろう。だがな、覚えておくがよい、フェイトよ」
 くっくっく、とアドレーが笑う。
「光ある限り、闇もまたある。たとえワシを倒しても、第二、第三のアドレーが」
「いいからちょっと黙ってなさい」
 瞬間的にアドレーが石化した。
「マリア!」
「心配かけさせたわね、もう大丈夫よ」
 さっきまで意識のなかった眠り姫の登場だった。
「助けてくれてありがとう、フェイト」
「なに、当然のことをしたまでさ。なにしろ、僕にとって、マリアは……」






























「たった一人の姉だからね」
 くす、とマリアが笑う。
「そうね。私も助けてもらえて嬉しいわ。でもよかったの?」
「何が?」
「せっかくの命令、誰にでもできるんだったら、ネルに『結婚してくれ』って言えばよかったのに」
「そんな強制された結婚なんて、嬉しくないだろ」
 フェイトは笑顔でリング下にいるネルを見つめる。
「僕がキングだろうとそうでなくても、大切なのはネルだけさ」
「ふん」
 ネルは微笑んでマフラーに顔を埋める。
「あまり恥ずかしいことを言わないでもらいたいね」
「あら、まんざらじゃなさそうよ、ネル?」
「まあ、悪い気がしないのは確かだけどね。ほら、フェイト。表彰式だ」
 そうだった。いつの間にか貴賓席から降りてきたラッセルが表彰状を手にしている。
「よくぞこの戦いを勝ち抜いた、フェイトよ。お主の力がこのシーハーツで誰よりも強いことは完全に証明された」
「……」
「どうした、お前は優勝したのだ。もっと喜ぶがいい」
「こんな、ジャンケンなんかで強さを競うことに、何の意味があるんですか」
「なに?」
「ジャンケン一つで他人の運命を決めたり、自分の寿命を減らしたり。そんな戦いになるのは間違っている!」
 キングが。
 全ての戦いを勝ち抜いたジャンケンキングが、その大会の存在意義を否定した。
「不満だというのか」
「当たり前だろう! いったいこの戦いで、どれだけの人間が苦しんだと思っているんだ!」
「まてい!」
 が、その言い争いを止めたのは、倒れて石化していたはずのアドレーだった。
「な、アドレーがまだ動けるっていうの!?」
 マリアが驚く。決して手加減してはいない。その石化を破るだけの力をアドレーがまだ持っていたということか。
「ラッセルよ、ようやく分かったぞ。お主がいったい何をたくらんでいたのか」
 アドレーの次の言葉を、全員が待つ。
「天兆g」
「はい、いいから黙ってなさいね」
 マリアがアルティネイションを重ねがけして、今度こそアドレーを完全に石化させた。
「これ以上続いたら作者が困るでしょ」
「マリア。あまり本当のこと言ったら駄目だよ」
 フェイトがたしなめる。
「いずれにしてもラッセル執政官。僕はこんな戦いがこれからも続くことは反対です」
「なに、たかが十年に一度、国民全体で盛り上がるだけではないか。あまり気にするほどのことでもあるまい」
 さらりと言ってラッセルは表彰状を押し付ける。
「それに、他人の運命を強制するのがいやならば、お主がこれからもキングであり続ければよい。この大会をなくすことはできない相談だからな」
「くっ」
「それにキングになっておいてお主にも悪いことはあるまい。この国ではジャンケンの強い者は英雄として迎えられる。お主がグリーテンの人間であろうと、キングであれば国民は皆、お主を歓迎しよう」
 それを聞いて、フェイトはようやくラッセルの考えていたことが納得できた。
「そうだったんですか」
「なんだ?」
「執政官は要するに、いつもクリムゾンブレイドの協力をしている僕が、この国の皆に受け入れてもらえるようにしてくれていたんですね」
「考え過ぎだ。何しろお主が勝ち残るかどうかなど、分からぬではないか」
「執政官のお気持ちはありがたく受け取っておきます」
 フェイトはようやくすっきりとした気持ちでその表彰状を眺めた。
「それに、キングならばゼルファー家の娘と結婚するのにも都合がよかろう?」
「僕はそんな称号を片手にネルと付き合うつもりはないですよ」
「お主はそうかもしれんが、この国の者にとっては話が別だ。よいではないか。お主はこれでネルと正式に付き合うことを国から認められたのだ」
「まあ、お墨付きをもらえたのはありがたいですけどね」
 フェイトは微笑むと、ようやくネルに近づく。
「なんとか勝てたよ」
「そうみたいだね。あんたをけしかけてよかったよ。私じゃ勝ち抜くことは難しかっただろうからね」
「謙遜だな。僕が一番強敵だと思ったのは、この決勝トーナメントの誰でもない、最初に戦ったネルだよ」
「キングに言ってもらえるなら光栄だね」
 ふ、とネルは笑う。そして、近づくとその頬に軽くキスした。
「優勝、おめでとう。今のは私からの記念だよ」
「表彰状を百枚もらうよりずっと嬉しいよ」
 フェイトは観衆の面前で、ネルを抱きしめた。












 今度こそ本当に完





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