4.癖
『微笑みの呪い』
彼女は照れた時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
その顔が、たまらなく愛しい。
彼女は怒っている時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
その顔が、たまらなく怖い。
彼女は悩んでいる時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
その顔を見ていると、支えてあげなければと思う。
彼女は嬉しい時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
その顔を見ていると、僕も嬉しくなってくる。
彼女は傷ついている時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
そんな顔をさせたくないと、心から思う。
彼女は可笑しい時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
そんな顔をしないで、素直に笑えばいいのにと思う。
彼女は苦しい時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
そんなことで隠せるはずもない。僕は素直に彼女を寝かせる。
彼女は寒い時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
そんなことをしなくてもいい。僕が彼女を抱きしめてあげる。
彼女はかまってほしい時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
もちろん僕は、彼女に優しく声をかける。
彼女は忙しい時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
もちろん僕は、彼女の仕事を手伝ってあげる。
彼女は何かする時、マフラーに顔を埋める。
そして上目遣いでこちらを見る。
その仕種に骨まで溶かされているのは、僕。
微笑みの呪いに捕らわれているのは、僕。
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