6.未来
『君の心に届きますように』
そうだね。こんな世界になってしまったから、もう未来がどうなっているか、決まっていないっていうことだろ? でも、それはやっぱりいいことなんだと思うんだ。
確かに、一年後、十年後、百年後の世界は約束されていない。もしかしたらこの世界自体がなくなってしまっているかもしれない。でもそれは、僕たちが今を生きてる証だとも思うんだ。
だから僕は、未来を手に入れるために今を必死に生きている。
それに今は、君がいてくれるからね。
具体的な未来像ならもちろんあるよ。たとえば、君と結婚したい──まあ、こればかりはどうなるか分からないけどね。君はゼルファー家の娘さんだし、僕には身分なんて何もない、単なる研究員だし。
君のところのお母さんは反対してないっていうことだけど、今度正式にご挨拶に行かないとね。
あとはまあ、やっぱり順当なところだけれど、子供がほしいな。
笑わないで聞いてくれるかい? 子供は五人ほしいんだ。理由が分かるかな。ああ、何回も話してるよね。僕が地球でやってたスポーツのこと。うん、五人で一チームなんだ。まさか自分がそんなことを考えるなんて思わなかったけど。馬鹿だなんていわないでくれよ?
でも五人は多くても、やっぱり二人はほしいよな。君にそっくりな子がほしいよ。君はゼルファー家から離れられないだろうから、きっとその子もクリムゾンブレイドになるために育てられるんだろうけど、女の子だったらできれば戦ってほしくはないんだ。その……やっぱり、君が戦っているところは綺麗だけど、心配だからさ。
僕の名前だけどさ、古い言葉で『運命』って意味があるらしいんだ。まあ、ルシファーとの戦いを運命づけられてた僕にはぴったりの言葉だけど、でも、こうして振り返ってみるとあまり嬉しい言葉ではなかったね。
運命なんかに、僕たちの未来を決められたくなんかない。
僕たちの未来は、僕たちで決めていくものなんだ。そうだろ?
自分がまずしっかりと未来のイメージを描いて、その未来に少しでも近づけるように努力する。それが人間らしい生き方ってもんだろ?
僕はさ。この星に来るまで、自分の未来のことなんて真剣に考えたことはなかったんだ。研究者だった父親の跡を継ぐかどうか、決めきれていなかった。バスケで優秀選手には選ばれていたけど、でもスポーツの世界で生きていくつもりはなかった。
僕らの世界では自分の職業を決めるのはだいたい二十も過ぎてからで、それまでは気楽な生活をするものだからね。
でもこの世界に来て、初めて自分の未来を見つけたんだ。
それは、君の傍にいること。君を助けて、ずっと二人で生きていくこと。
その気持ちは真実だよ。君はそれが分かっているんだろうか? きっと分かっていないよね。だって君は、こうして──
「僕の隣で、眠っているんだから」
フェイトは自分の膝で昼寝しているお姫様の顔を見て、ようやく長い独白を終えた。
よほど疲れていたのか、彼女はぐっすりと眠りについていた。
「まあ、こんなことを面と向かって言えるほど、僕にもまだ度胸があるわけじゃないけどさ」
滑らかな頬に、そっと触れる。
「僕の気持ちはどこまで君に届いているんだろうか。でも、別に届いていなくたってかまわないけどね。僕はただずっと、君の傍にいるだけだから」
自分の未来はもう決めた。
このエリクールに骨を埋める覚悟はもうできているのだ。
「だから、早く結婚しような、ネル。まあ、僕が婿養子という形ならゼルファー家も潰れる必要はないわけだし、エレナさんやクレアさんが後ろについていてくれれば、女王陛下も婚儀は認めてくれるだろうし」
ふう、とフェイトは一息ついた。
「そしたら善は急げだな。早いうちにネルのお母さんに挨拶に行くことにしよう」
フェイトは苦笑して自分も目を閉じた。
だから、気づかなかった。
少ししてから。ようやく彼女の頬が赤らんできたことに。
少しだけ呼吸が乱れ、鼓動も早くなっていることに。
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