失ったあなたを探してる
どうしてここにはいないの?
二人で歩いた通学路
一緒に遊んだ公園
傍にいてくれるそれだけで
他に何もいらないだから行かないで
We can't see!
重ならない二人の道
夜の空に輝く月まで
あなたは背を向けて
痛む左肩を押さえながら
太陽に辿り着くため
I pray 踏み出すよ今
はるかな故郷
それは、本当にただの偶然だった。
買い物の帰り。JR駅に向かう道の途中。両手いっぱいの荷物。すれ違う人波。
その中で、ひときわ目を惹く男性の姿。この街では珍しくなくなってきた金色の髪。サングラスと白のスーツ。どこから見ても、一流貴族っていう感じの。
「──あ」
胸が、どくん、と打つ。
この感覚は分かっている。何が自分に起ころうとしているか分かっている。
だが、まさか、こんなところで。周りに誰も知ってる人がいないところで。
(トランスする──)
その瞬間だった。
「!」
左肩が、焼けるように痛い。
何かが刺さったような、激痛。
(この人の心は)
痛みだ。
心が痛みで支配されている。
痛みしか感じられないでいる。
「大丈夫ですか?」
綺麗な声が聞こえた。今の男性だ。
もう、痛みは治まっていた。
「は、はい」
「突然苦しそうにされたので、どうしたのかと思いました」
「いえ、もう、大丈夫です」
そう。大丈夫。
今のイメージは、確実に頭の中に焼きついたから。
「随分、たくさんの荷物ですね」
いつの間にか落としていた荷物を外国人の男性が拾って集めてくれる。
「ありがとうございます」
「いえ、女性に親切にするのは当たり前のことですから。特に、あなたのような人は」
「え?」
何を言われたのか分からない。それは単なる、相手を褒めるだけの台詞ではない。
「山口、麗奈さん」
「どうして私の名前を」
「失礼しました。私はこういうものです」
内ポケットから名刺を差し出してくる。
「天沼陽輝。フリージャーナリスト?」
どう見ても外国人なのに、日本人の姓名とはどういうことか。
「ええ、いろいろな雑誌で記事を書いてますよ。あなたのこともそれで調べていたんです」
「私を?」
「ええ。TROYの作詩家。あなたの詩にどれだけの人が勇気づけられたか、ご存知ではないでしょう。それに、私のような者にとってもこの間の新曲は良かった」
「この間の?」
「ギリシャ語を使われたでしょう。私は日本とギリシャのハーフなんです」
だからなおさら気になったのだ、ということらしい。
「そうでしたか。応援ありがとうございます」
「いえ。もしよければ今度、ディナーでもどうでしょう。まあ、取材をかねて、ということになりますが」
「そうですね。ただ、彼がOKしてくれれば」
「彼?」
「はい。ボーカルのソウ。私は彼のものですから」
それを聞いて少し天沼は苦笑した。
「分かりました。では今度、事務所を通じて正式にお願いしましょう」
「はい。よろしくお願いします」
そうして天沼は去っていった。
だが、会話したことよりも、最初に出会ったときの衝撃の方が印象に強い。
(あの痛みは、体と、心の、両方)
実際に傷ついた痛み。だが、それよりも──
(傷ついた体よりも痛い、心の痛み)
いったい何にそれほど傷ついたのか。そんな経験をしたことのある彼に、心の片隅で同情を覚えた。
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