真っ青な大空の下 真夏の昼下がりでした
目深に帽子かぶった 女の子一人立ちつくしてた

はじめは通りすぎて はっとして振りかえって
花びら帽子にのせて 震える手 上目づかいで

「何をしているんだい」と たずねた君の瞳に
涙がたまりはじめた 「わからない なにもわからないよ」

「おなまえは?」「思い出せない」
「なぜ泣くの?」「何も分からない」
「かなしいの?」「きっとそうだよ」

「じゃあおいで 二人なら 乗り越えてゆけるよ」

暮れなずむ世界の中で くっついてごはんを食べた
黒く透きとおった瞳 「どうして私をかまってくれるの?」

答に困った僕は この手をぎゅっとつかんで
「これから伝えることを 忘れずに覚えていて」

僕はひとりきりでした 恋人は亡くなりました
空から今でもきっと 見てくれているような気がする

「かなしいの?」「きっとそうだよ」
「なぜ泣くの?」「大好きだったから」
「おなまえは?」「僕の? それとも?」

「きまってる 二人とも教えてほしいよ」

真夜中 大地の上で いつまでも話し続けた
かすかに風が流れた 「この帽子 もういらないよね」

帽子を外した君は あの人とそっくりでした
「君はいったい誰なの?」「分からない でも」

「あなたをずっと待ってた」



 その訃報を見た瞬間、私の中に何かが『降りて』きた。
 いつも起こるこの状態、トランス。だが、今日のトランスの起こり方は普通じゃなかった。
 たいてい、誰かに出会ったときにこのトランスは起こる。その人の悩み、苦しみ、願い、そうした感情の強さだけが自分に流れこんできて、苦しくなる。
 私は落ち着いて呼吸をしようとする。でも、それすら許してくれないほどの強い感情。

(いったい、何なの、これ)
 汗がこぼれていく。その強い感情だけが私を支配し、この体のコントロールを奪う。


 泣いている。
 誰かが、どこかで。
 失った人を求めて。
 いや、違う。
 亡くなった人も、また。
 一人で逝くことが悲しくて。
 会いたくて。
(分かった)
 この訃報が自分にもたらした感情。
(二人分の感情が、同時に流れこんできているんだ)
 亡くなった人の感情。置いていかれた人の感情。
 会いたいと願い、そして。
(かなった、の?)
 再会することができたのか、いや、そんな仮定は無意味だ。
 人の死に理由などないのだから。



「大丈夫か」
 目を覚ますと、ソウがそこにいた。
「あれ、私──」
「テレビを見たまま寝るとはな。行儀が悪い」
 ソウが自分の髪を撫でている。もちろん、本気でいった言葉ではない。
「何があった?」
 トランスのことを尋ねてくる。首を振って「大丈夫」と答えた。
「すぐに、詩を書きたい」
「だが──」
「大丈夫。今日は、あまりに強い感情だったから、もう言葉選びも気を失ってる間に終わっちゃったみたい」
 笑って言うと、ソウはやれやれとため息をついた。
「無理はするな」
「うん、分かってる」
 そうして私は、今日もトランスの結果を詩に載せていく。






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