発令所は騒然となった。
 加持リョウジに続き、葛城ミサトの死。そしてゼーレの崩壊と、少年碇シンジの変化。
 さしもの赤木リツコ博士ですら、何から考えればいいのか全く分からないという状況だった。

「シンジくんの様子はどう?」

「はい。現在まだ意識は戻っていません」

 エヴァから降りた直後は意識があったが、破損した頭部の治療を行う際に麻酔をかけて意識を奪っている。目覚めるのは早くてもあと三時間というところだった。

「命に別状はないですけど……」

 マヤの言葉にも元気がない。
 そう、全員が分かっているのだ。次に目覚める少年は少年ではなく、碇シンジだということに。

「最悪のタイミング──というほどでもないわね。一応使徒は全部倒してくれたわけだし。あとは崩壊したゼーレが送り込んでくる、九体のエヴァ、それを殲滅すればいいわけだし」

「アスカちゃんとレイちゃんだけで、やるんですか」

「仕方がないわね。彼があの状況で乗れるはずがないもの。それに、仮に目が覚めたとしても『アナザー』が乗ってくれるとも思えないわね」

 そう。この段階にいたってリツコは予定を変更せざるをえなくなっていた。初号機と少年がいるということを前提に武器の作成や作戦の立案をしていただけに、初号機がなくなったとなれば大幅な修正がいる。
 それに。
 エヴァシリーズ=使徒、と考えるならば。
 あるのだ。エヴァシリーズの中には。
 未完成だったはずの、S2機関が。

(S2はアメリカでの実験で失敗したはずだけど、どういうことかしらね)

 さすがにそればかりは少年でも分からないのだろう。そんなところを追究しても意味がない。
 それよりも現実を見て、エヴァ九体をどうやって倒すか、それだけを考えた方がいい。

(全く、困ったことになったわね)

 いずれにしても早く少年の目が覚めてほしい。
 碇シンジという少年とは、ゆっくり話し合う必要があった。
 もっとも、その『ゆっくり』ができるかどうかは分からないが。





 少女たち三人は不機嫌だった。
 少年ではなくアナザーが語った瞬間、三人の顔から血の気が引いていた。一番にアスカが気を取り直して話しかけようとした時、アナザーは気を失ってしまったので、結局何も話せずじまいだ。
 自分たちが好きなのはアナザーではない。少年の方だ。

「何やってるのよ……」

 病室で、酸素マスクをつけて、両腕に大量のチューブを差し込まれている少年の前で、アスカは呻く。

「早く、戻ってきなさいよ、バカ……」

 自然と涙がこぼれていることに気づいてもいなかった。気づいたのは隣にいたマナだ。
 マナはそっと、アスカの横に立って、その頭を抱きしめる。彼女は抵抗しなかった。
 そしてレイは。

(碇くん)

 その指先に触れて、ただじっとしている。
 アナザーではない、少年が帰ってくるということを信じて。

 だが、まだ碇シンジは目覚めない。





「さて、どうするつもりだ、碇?」

 冬月は将棋を打ちながら、机上で黙って手を組んでいる総司令に話しかける。だが、ゲンドウは何も答えない。

「ゼーレがいなくなったのはいいことだ。タブリスの言っていることが確かならば、次に来るエヴァシリーズを倒せば、もはや人類にとって脅威は何もない。だが、そうすればお前はユイ君に会えなくなるのではないのかな」

「問題ありません。シンジが戻ってきましたから」

 相変わらず、キーが高いのか低いのかが不明な声。
 やれやれ、と冬月はため息をもらす。

「そのシンジ君をどうするつもりだ、お前は」

「どうもしませんよ。ただ、ヨリシロに使うだけです」

「お前は自分の息子を、そんな風に使うのか」

「ええ。私にはユイが全てですから、冬月先生」

 冬月は、一瞬、迷った。

(この男、ここで殺した方がいいのかもしれんな)

 ──そう。既に少年碇シンジを優先すると決めた冬月にとって、ゲンドウがその障害となるのならいつでも取り除く覚悟はできている。
 ただ問題は、その少年が目覚める可能性があるのかどうか、ということだ。

(あの、ユイ君と同じほどに聡明な彼の成長を見たいものだが)

 おそらくアナザーにユイと同じほどの器量はないだろう。それは過去のデータから明らかだ。どこにでもいる普通の十四歳の少年、それが碇シンジの本体だ。
 だが、ずっと体の中で意識を研ぎ澄ましてきた『少年』は違う。まさに碇ユイを超える器だ。

(どうやって彼を取り戻すかが問題だな)

 ピシッ、と将棋板を打つ音が響いた。





 葛城ミサトの『死体』検証はする必要もなかった。
 ライフルの乱射によって、穴だらけというよりも肉片の山になっていた。
 そこにはもう、ミサトと判別できるものは何もなかった。
 リツコは自分で検証をしたかったが、そのようなことに割いている時間はなかった。ゼーレがいなくなったことによる世界の変動を逐一確認し、その場に応じた指示を出さなければならなかったからだ。
 既に機能しなくなっている作戦部の日向マコトなども、リツコの下で働いている。それでも人手が足りないほどだった。

「先輩」

 マヤがまた資料を持って近づいてきた。

「これを見てください」

 それは、アメリカの失われた第二支部についてのものだった。何人かの人物名がリストアップされている。

「これは?」

「ゼーレのスパイではないか、と判断されるメンバーです」

 リツコの表情が真剣なものに代わる。

「判断の理由は聞かないわ。彼らは?」

「例の実験の際に、本部に収容し、各部署に振り分けて作業に当たってもらっています」

 その数、全部で七名。

「すぐに取り押さえて。何をするか分からないわ」

「はい」

 ただちにマヤから保安部に連絡が行く。

「それにしても、どうして分かったの?」

 リツコが聞くと、少し照れたようにマヤは答えた。

「はい。ゼーレという組織が強大であるほど、そうした工作員の数も多くなっていると思ったんです。ここの本部はきちんと身元調査がされていますけど、他の支部がどうかは分かりませんでしたから」

「懸命な判断ね」

 というより、そこまで頭が回らなかった自分が情けない。
 逆にマヤは、この状況で知識を与えられたからこそ気づいたのだろう。
 と、そこへ連絡が戻ってくる。

「はい。はい……七人ともロスト?」

 リツコとマヤの顔が曇る。

(ゼーレがなくなって、その結果部下たちはどのように動く?)

 リツコは頭の中でシミュレートする。
 雇用主がいなくなれば、次の雇用主を探す。
 手っ取り早いのは、そのゼーレの下請けがあればいい。
 だが、ネルフとは敵対しているという方が正しい。
 ならば。

(タブリス)

 タブリスがエヴァシリーズを動かす前に、何かしかけてきたという可能性は極めて高い。これもその一貫だとしたら。

(彼の様子からすれば、チルドレンたちをその場で襲うなんてことはない。むしろ本部機能を狙ってくるはず)

 ならば狙いは、MAGIか。

 直後、緊急警報が鳴った。

「MAGIがハッキングを受けています! アメリカ、ドイツ、ロシア、フランス、中国の五箇所から同時です!」

(遅かった)

 リツコは唇を噛む。だが、まだ手遅れというわけではない。

「発令所を封鎖して!」

 突然のリツコの指示に動揺が生じる。

「早く!」

 そう。
 このMAGIのハッキングを成功させる一番の障害は、赤木リツコ、その人に他ならない。
 赤木リツコならば、この五箇所からの同時ハッキングすら撃退することができる、その能力がある。
 だからハッキングを成功させるには、例の七名で発令所を急襲し、赤木リツコを黙らせる。もちろんその意味は、殺す、という意味だ。
 ただちに隔壁が閉鎖され、保安部が緊急出動する。

(全く、この後に戦自が動いていたら、最悪だったわね)

 戦自は先ほどのsenji.docファイルが全世界に垂れ流しになった瞬間、火のついたような騒ぎになり、完全に行動不能の状態になってしまっている。
 国連軍も動かないとなれば、MAGIへのハッキングしか攻略の手段がない、そう考えるのは当然のことだろう。
 そして、こうした行動が起こったとなれば、次に起こるのは当然、

「ハッキングは私とマヤで何とかするわ。エヴァの発進準備を急がせて」

「エヴァですか?」

 マコトが不思議そうに尋ねてくる。

「これにからめて、エヴァシリーズが動くわ。アスカとレイをケイジへ呼びなさい。それからシンジくんとマナは最下層へ。絶対保護して」

 ただちにその指示が出され、発令所はにわかに緊張を帯びた。





 呼び出し音と同時に、医者たちが駆けつけてくる。
 マナとシンジを最下層に連れていくというのだ。それも、赤木リツコの指示で。

「ついに来たってわけか」

 アスカは真剣な表情で立ち上がる。

「行くわよ、ファースト。シンジが心配なのは分かるけど、そのシンジを守るための戦いなんだから」

 こくり、と頷くレイ。

「アスカさん、レイさん」

「転校生。シンジを頼むわね」

 詳細は少年から聞いている。
 九体のエヴァシリーズ。それがやってくる。そして撃退することができるのは、自分とレイだけだ。
 ならば、戦う。
 少年がこの世界を守ろうとしたように、自分もこの世界を守る。
 そして再び、少年とこの街で暮らすのだ。

「分かりました。アスカさん、レイさん、絶対に死なないでください」

「当たり前よ。所詮コピーの連中に負けるわけないじゃない! アタシは惣流・アスカ・ラングレーなんだから!」

 そして二人が駆け出していく。そしてマナは医者から「こちらへ」と連れて行かれそうになる。
 だが、マナは首を振った。

「私にも、できることがあるから」

 そしてマナもまた、別の場所へと駆け出していった。





 幸い、リツコの指示が素早かったおかげで七名のゼーレ工作員はすぐに捕らえられることになった。
 と同時に、リツコとマヤがMAGIに六六六プロテクトを実行させ、外部からの接触を完全にシャットアウトさせる。

(これで戻ってこなかったら、ひどいわよ、シンジ君)

 本当に、自分は十五も年下の少年に心を奪われているらしい。もちろんそれは恋愛とかいうものではなく、科学者として最大の興味を覚えているということだ。

「先輩、次は」

「分かってるわよ。エヴァシリーズ、来るわね」

 そのために技術部は少年が一ヶ月の眠りについた時から、ずっと準備をしてきたのだ。
 S2機関凍結装置。
 くしくもその武器が槍の形をしていたのは、おそらく発案者の少年がロンギヌスをイメージしていたからだろう。
 急造だが、槍は三本出来上がっている。
 もちろん三体のエヴァにそれぞれ合わせて作っているのだから、予備はない。

(早く目を覚ましなさい、シンジ君。みんなあなたを待っているのよ)

 もちろん、アナザーのことなど誰もかまっていない。





 ──だが、目を覚ましたのは当然のことながら、アナザーの方だった。

(知らない天井か。でも、いつもの天井じゃない)

 シンジはいつもの真っ白な部屋ではなく、少しブルーがかった集中治療室で目を覚ました。
 両腕にチューブが差し込まれ、鼻からは酸素吸入がされている。全く身動きが取れない。

「目を覚ましたかね」

 そんな彼に語りかけてくる老人がいた。

「冬月さん」

「いや、無理はしなくていい。君が、碇シンジくん、だね?」

 冬月が自分のことを理解しているようなのを確認し、シンジは「はい」と答えた。

「目を覚ましたばかりの君に酷なことを頼むようで申し訳ないと思っている。だが、心して聞いてほしい」

「分かっています。この体を、もう一人の僕に『戻せ』って言うんでしょう」

 シンジは言われることを予測していた。冬月は少し困ったように首を捻る。

「できません。たとえこの世界が滅びても、僕はもうあいつにこの体を使わせません」

「どうしてかね」

「あいつは僕の体を使って、友人殺しをした。それで理由は充分です」

 はっきりとした口調。明確な意思を持つ瞳。
 少年やカヲルとのやり取りを行って、このアナザー・碇シンジもどうやら成長したらしい。
 もっともそれは、冬月の好まない方向に、だが。

「世界が滅びてもというが、そうしたら君のお父さんや、君の友達もみんな死んでしまうのだよ」

「分かっています。でも、じゃあ誰が僕のことを『好き』なんですか?」

 冬月は口ごもった。確かに、親の碇ゲンドウを始め、アスカ、レイ、マナ、それにリツコやマヤ、亡くなった加持にミサト、そして冬月自身、この碇シンジのことを好きでいるわけではない。それどころか『少年』の邪魔をする彼を憎んですらいるほどだ。

「間違えないでください。僕が世界を拒絶しているんじゃないんです。世界が僕を拒絶しているんです」

 それがシンジが手に入れた結論だった。
 あの『アナザーワールド』ではそれでも救いがあった。ミサトは自分の命を助けるためにまさに命をかけた。そしてレイやアスカとは確かに分かり合えなかったかもしれないが、それでも心の交流はあった。
 だが、今の自分には何もないのだ。

「僕のことを唯一理解してくれたのがカヲルくんでした。そのカヲルくんをあいつは殺した。絶対に僕は、あいつを許すつもりはありません。僕の方がこの体の支配力が強い。もう二度と、あいつを外に出すつもりはありません。それに僕は約束したんです」

「約束? 彼とかね」

「はい。『僕の知っている人たちを、殺さないでほしい』。それだけが僕の願いで、それ以上はなかった。それなのにあいつは、僕の気持ちをふみにじったんだ!」

「落ち着きたまえ、シンジ君。頭の傷口が開いてしまう」

 冬月は冷静に言うが、これほどまで明確な意思を持った者を変える方法が見当たらないことにいらだってもいた。
 何しろ、今すぐにでも戦いは始まろうとしている。それを前に、この少年、碇シンジの意識だけが障害となっている。

「ならば君は、彼のかわりにエヴァに乗ることもしないというわけだね」

「はい。たとえこの場で殺されても乗りません」

 そこまで言うことができるなら上等だ。おそらくシンジはピストルを頭に突きつけても考えを変えないだろう。それだけの意思の強さを持っている。

「だがシンジ君。その考えは間違っているよ」

 だから冬月は優しく諭した。

「間違っている、僕がですか?」

「ああ。君は誰が自分のことを好きなのかと尋ねた。だが、一人だけ君を愛してくれている人がいるじゃないか」

「誰ですか?」

 全く思い当たらない、とシンジは不思議そうな顔をする。

「君のお母さん、ユイ君だよ」

 はっ、と虚を打たれたように反応を見せる。

「ユイ君は間違いなく君を愛していた。昔、私も彼女と話したことがあるよ。この地獄に生まれた君を抱いて、彼女ははっきりと言ったのだ。生きていればどこだって天国になれる、幸せになるチャンスはあると。それはもう、君のことを本当に大切に思っていた。その彼女は今、エヴァの中にいるのだよ」

「──知っています」

 そう。
 シンジもまたあの『フィルム』を見た人間。そのユイと冬月の話も全て頭の中に残っている。

「副司令は、母さんのことを本当に好きだったんですね」

 直球で尋ねられると、冬月もさすがに苦笑した。

「年甲斐もなく、と思うかね」

「いいえ。好きになるのに年齢は関係ないと思いますから」

 現実に『彼』もマヤのことが大好きだったのだから。

「でも僕があのエヴァに乗ると、サードインパクトが起きます。あいつなら起こさない方法が分かっているのかもしれない。でも、僕はあいつにこの体を使わせるつもりはありませんし、僕はサードインパクトを防ぐためにも初号機には乗りません」

「アスカ君やレイ君を死なせてもいいのだね?」

 そこで答えられないのが碇シンジの碇シンジたる由縁だろう。だが、それでもエヴァに乗ることは了承しないし、彼を戻すことも了承しなかった。

「シンジ君。少し、昔話をしようか」

 冬月は近くの椅子に腰掛けるとゆっくりと話し始めた。

「君ももう知っているかもしれないな。人工進化研究所、と呼ばれた組織があったことを」

「はい」

「あの頃の私たちは若く──まあ、私はその中でも年寄りだったがね、活気にあふれていた。赤木ナオコ君や惣流キョウコ君、そして碇ユイ君。非常に優秀で華やかな研究者がたくさんいた。だが、あの組織が徐々に狂いだすことを、私は止められなかった。私は気づいていたのだ。碇ユイ君が取り込まれるということを」

「知って?」

「知っていたというのだろうな。ナオコ君の試算で取り込まれる確率は七十%を超えていた。それを報告しなかったのは、私もナオコ君も、お互いに嫉妬していたからだ。ユイ君が碇を見ているのを、私もナオコ君も我慢できなかった。その結果が引き起こした事件が、あれだ」

 少し沈黙が落ちる。
 やがて再び冬月が言った。

「私は後悔している。あの時実験を停止していれば、碇はああはならなかっただろうし、君も幸せに暮らすことができていただろう。ユイ君もきっとこの地上にいたはずだ。全ては私の判断が招いたことだ。一日たりともあの日のことを忘れたことはない」

 シンジはこの人が何を言いたいのかがようやく分かった。
 大人はよく子供に、そう言う。

「君は私のように、後悔してほしくないのだよ」

 重みのある言葉だ。そして言いたいことはよく分かる。
 つまらない感情に囚われて、助けられるものを見殺しにする、その過ちを繰り返すなと言っているのだ。

「確かに君にとって私は信用ならないだろう。私としても、君より『彼』にいてほしいと思っていることは事実だ。だが、同時に君のこともよく知っている。三歳までの君だがね。ユイ君が幸せそうにしていたのは間違いなく、君がいたからなのだし。いなくなってからでは遅い。いなくなる前に努力しなければ、運命など簡単に変わってしまう」

 冬月はそこまで言うと立ち上がった。

「老人のくだらない話につき合わせて悪かったね。シンジ君、あとは君に任せよう。彼女たちを助けようとするのも、放り投げるのも君の自由だ。誰も君を責めたりはしない。我々は我々のなすべきことをしよう」

 そして冬月は出ていく。
 残されたシンジは、悔しさで唇を噛み締めた。

「僕に、どうしろって言うんだよ……!」

 言いたいだけ言って、いなくなった冬月。
 自分に反論も言わせないのは卑怯だ。
 そして。

(綾波、アスカ、マナ)

 自分にとって大切な人たち──だが、彼女たちは決して自分のことを大切には思っていない。
 そう。自分の言うとおり、間違いなく自分は世界に拒絶されている。

「僕は、どうすればいいんだ……っ!」

 自分を貫き通すのか、自分を捨てるのか。
 それはどちらも強さだ。
 覚悟を決めるという強さだ。

(あいつは最初から、覚悟を決めていた)

 そこが自分とは決定的に違うところ。
 覚悟が定まらない自分はこの体の中にいて、何が起こっても自分の責任だと覚悟を決めているあいつには体は与えられない。
 何という皮肉だろうか。
 本当に、自分ではなくあいつがこの体の持ち主だったら、全てはうまくいったのだろう。
 それでも。

(あいつだけは許せない。カヲル君を殺したあいつだけは、あいつだけは絶対に!)

 ぐ、と拳を握りしめた。





「さて、と」

 エヴァシリーズが襲来する。
 それを迎え撃つのは二体のエヴァ。
 零号機と弐号機。

「聞こえてる、ファースト? 叩きのめすわよ、あいつらを」

 零号機も弐号機も、その手にはS2機関を破壊するための槍。

『分かってる。私は、碇君を守る』

「その意気その意気」

 本当に、ここ最近のレイは感情を表に出すようになっている。まだ不器用だが、確実に成長している。
 それは『彼』が彼女を変えてきた結果だ。

『必ず生き残りましょう、アスカ』

 そして。
 意表をつく言葉が、彼女の口から飛び出た。

(今、なんて)

 アスカはモニターのレイの顔を見る。
 その彼女は、にっこりと笑っていた。
 思わず、ノックアウトされそうなほどに。

「ええ、生き残るわよ、レイ!」










 そして、最後の戦いが幕を開けた──












最終話



罪と罰


















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