適格者番号:130904002
 氏名:イリヤスフィール・アインツベルン
 筋力 −E
 持久力−E
 知力 −A
 判断力−A
 分析力−A
 体力 −E
 協調性−B
 総合評価 −A
 最大シンクロ率 39.222%
 ハーモニクス値 48.53
 パルスパターン All Green
 シンクログラフ 正常

 補足
 射撃訓練−E
 格闘訓練−D
 特記:ドイツ系ロシア人。父親不明。母親はロシア支部MAGI主任のアイリスフィール・アインツベルン。現在法律上の保護者はロシア支部の保安局長アレクセイ・ニコラス。












第参拾玖話



Tomorrow is another day












 ヤヨイがイリヤと最初に出会ったときの様子。
「……なるほど」
 深く頷いてシンジを見る。
「あなたが美綴さんみたいなないすばでぃの美人になびかない理由がよく分かったわ」
「は?」
「ロリ、貧乳属性だったのね」
 言うにことかいてなんてことを。
「あの……誤解してない、神楽さん」
「いいのよ。人の好みはそれぞれだから」
 完全に誤解している。イリヤは何を言われているのか分からず、顔に疑問符を浮かべたままだった。



 レミがイリヤと最初に出会ったときの様子。
「うわっ、かーわいーっ♪ 肌白ーいっ♪ 髪さらさらーっ♪」
「ちょ、ちょっと、何するのっ!」
 イリヤは怒ったが、レミはかまわずイリヤの髪を撫でたりこねたり三つ編みにしたりと好き勝手し放題。さすがにこれにはシンジも同情した。
 イリヤにも苦手な相手というものはあるらしく、日本のランクA適格者の中ではレミが一番苦手のようだ。



 カナメがイリヤと最初に出会ったときの様子。
「どうしてイリヤちゃんはシンジくんと手をつないでいるのかなぁ?」
 笑顔が怖い。彼女の背後に雷光明王の姿が見える。
「だって、私はシンジに会いに来たんだもん。ね、お兄ちゃん?」
 そこで話題を振らないでほしい。
「しーんーじーくーん?」
「あ、いや、その」
「ほらほらお兄ちゃん、待ち合わせに遅れちゃうから急ごう!」
「あ、イリヤ、ちょっと」
 ──と、二人の女性から完全に翻弄されるシンジだった。



 待ち合わせ場所にて、オリンピックスタジアム班と合流したときの様子。
「イリヤさん」
 最初に気付いたのはやはりタクヤ。彼は世界中のランクA適格者をきちんと確認している。
「イリヤってーと、ロシアの?」
 コウキが尋ねる。
「うん。ロシアの至宝、イリヤスフィール・アインツベルン。はじめまして、イリヤさん。僕は榎木タクヤ。日本のランクA適格者の班長をしています」
「はじめまして、タクヤ。紳士的な方がいらっしゃって嬉しいです」
 にっこりと笑うイリヤにトウジがだらしなく笑う。
「なんや、えらいべっぴんさんやなあ」
「……ロリコン」
 ぼそっとカズマが呟く。なんやて、とくってかかるトウジ。
「俺は野坂コウキ。こっちは鈴原トウジ、そっちは朱童カズマ。よろしくな、イリヤ」
「ええ、よろしく」
 そして、悪魔っ娘の笑みを見せてコウキに言う。
「さっき私たち、CIAの人に襲われたの」
「なに?」
「あなたならこの意味、分かるわよね、コウキ?」
 途端にコウキの顔が険しくなる。
「テロか。よく無事だったな」
「隠すんだ。まあいいけど」
 イリヤの発言はシンジを不安にさせた。先ほどの一件、コウキが知っているというのだろうか。
「どういうこと?」
「コウキは色々なことを知っているってことよ。気になるなら直接聞いてみたら?」
 シンジはおそるおそるコウキを見る。
 だが、コウキはいつものように皮肉に笑っているだけだ。少し肩をすくめてみせたりする。
 確かにコウキは何かと自分にかまってくる。だが。
「コウキ」
「悪いな、シンジ。お前が何を聞いたところで、俺には何も分からないぜ。ただ分かるのは、お前は世界中から狙われていて、俺はお前を守りたいって思ってるだけだ」
「コウキはどうして、そんなに」
「決まってるだろ。仲間だからな」
 その一言で終わらせる。その言葉に納得はいかなかったが、追及はしないままシンジは頷く。
「いいの、お兄ちゃん?」
「いいよ。コウキが意地悪なのは今に始まったことじゃないし」
「お、言うじゃねえか、シンジ」
 うりゃ、とコウキはヘッドロックを極める。だが、その様子を冷ややかに見ていたのはカズマとタクヤの二人だった。






 買い物も終わり、一人増えた一行は特別急行で第三新東京へ戻る。
 本部は何事も変わりなく、イリヤは手続きをするためにヨウに連れていかれた。一同はその場で解散。明日からまた通常のトレーニングが始まる。
 だがコウキは自分の部屋に戻らず、別の人物の部屋を訪れていた。その部屋をノックして「いるか」とだけ尋ねる。
「なんだ、お前かよ」
 中から扉を開けたのは、同期の真道カスミだった。まあ上がれ、と親指で奥を示したので、コウキは遠慮なく上がらせてもらう。
「悪いな、急に」
「気にすんなよ。ああ、悪い、急用だ。席を外してくれるか?」
 カスミは中にいる人間に呼びかける。そこには少し小柄な女の子がいた。
「後でお前の部屋に行くからさ。せっかくだから夕食でも作ってくれよな」
 女の子は少し顔を赤らめて部屋を出ていく。その女の子が出ていってから、やれやれとコウキは肩をすくめた。
「なんだ、彼女を連れ込んでいたのか。確かあの子はランクBの奴だな。随分と余裕だな」
「人聞きの悪いこと言うなよ。情報収集」
「情報収集? なんのだ?」
「朱童カズマと榎木タクヤ。どうせお前のことだから、あの二人をどうするかって考えてるんだろ?」
「……地獄耳だな、お前は」
 そう考えるようになったのは今回の小旅行からなのだが、それをいち早く察知していたカスミの判断力は恐れ入る。
「この世界は情報が命だからな。せっかくだから、集めた情報でも聞いてくか?」
「そうだな。せっかくだから頼む」
 了解、と答えたカスミは手持ちの携帯パソコンを開く。
 有線、無線を限らず情報は外へ漏れ出るものという考え方をしているカスミは、自分の情報はこの端末に入れて、絶対に外へもらさない。徹底したトレジャーハンターぶりである。
「まず榎木タクヤ。二年前の例の実験に関わっていることは知っているよな?」
「ああ。母親が死亡したとか。どういう実験だったのか分かるのか?」
「具体的なことは分からない。何しろ、赤木博士からしてその実験には参加していないみたいだな」
「ということは具体的なことを知っているのは」
「実験の当事者と、上層部では司令・副司令だけだろうな。いっそ桐島に聞いてみるって手もあるが」
 桐島マキオ。先日の事件で独房入りとなっている。使徒戦が終わるまで出てくることはできないだろう。
「あいつが本当のことを教えてくれるとは思わないけどな」
「同感。具体的なことはそれ以上分かってないんだが、榎木には一つ問題がある」
「問題?」
「ああ。母親の命を奪った奴を憎んでいる、ということだ」
 言われてみれば、それをにおわせる発言はあった。
『あの実験は碇くんには何も関係がない。だから僕が恨むことはないよ』
 つまり、シンジ本人には恨んでいないとしても、実験の責任者を恨んではいるということだ。
 責任者となるとつまり、総司令碇ゲンドウ。
「複雑だな」
「まあな。それからもう一人の朱童カズマの方」
「ああ。あいつもいろいろありそうだな」
「いろいろどころじゃない。朱童と同じ村の出身の奴がいて話を聞いたんだが、朱童は一回警察に捕まっていたらしい」
「警察? なんでまた」
「人殺し、だ」
 随分剣呑としてきた。
「何故」
「食糧危機の時代にはよくあったことだろ? わずかな食料をめぐって争うってのが」
「それをカズマが?」
「正確には『奪われた方』なんだけどな。そこそこの資産家だった朱童の家が暴徒に襲われたらしい」
「……」
「で、目の前で姉を陵辱されて殺害された。五年前の話だ」
「五年前……八歳か。そのときに?」
「いや、二年後、つまり三年前か。そのとき姉を殺した連中を、日本刀で殺したらしい。三人。で、そのまま少年院にぶちこまれたんだが、半年で出てきてそのままネルフ入りしたんだと」
「そりゃトラウマにもなるわな。それにしても、いくら事情があって少年だからといっても、三人殺して半年で出てこられるもんなのか?」
「いや、少年院で行われた血液検査の結果、適格者としての素質があるから『罪滅ぼしを兼ねて』釈放になったらしい」
「胡散臭い話だな。キョウヤさんあたりが一枚かんでるってことは?」
「調べたけどない。その時期はキョウヤさん、ずっとイギリスだったからな」
 だが、それだけでは納得のできないことがある。
 カズマの感情が高ぶったときに見せる動揺。あれはただ親しい人を殺されただけというようには思えない。
「それからこちらからも一つ。実は今日、シンジが狙われた」
「知ってる。CIAだろ? キョウヤさんから聞いた」
「相変わらず情報が早いな。で、シンジに護衛をつけようかと思う」
「護衛か。まあ、必要といえば必要だな。今後は外に出る機会も多くなる」
「ああ。キョウヤさんと相談して、俺たちでシンジを護衛しようかと思うんだが」
「シンジだけをか?」
「いや、それだと理由がないからな。ランクA適格者とチルドレンの綾波レイ。この九人にサポートメンバーをつけるっていう名目だ」
「なるほど。それならランクAの近くに俺たちも近づけるってことか」
「ああ。ランクBのメンバーから募れば、いざというときに機体とシンクロして搬送だけならできるだろうしな」
「だが、それなら九人必要だぞ」
「ランクBの中から、信頼できる人間の人選を頼む。結構急ぐ」
「やれやれ。俺たち六人は確定として、あと三人か」
「男には男、女には女をつけるようにするのを忘れるなよ」
「てことはランクAは男五、女四だから、あと男一、女二か。配置まで考えておいた方がいいんだろ?」
「ああ。といっても、ある程度は決めている。シンジにはエン、俺にはお前、カズマにはダイチ、タクヤにはジン、レイにヨシノ、ヤヨイにコモモ。あとはトウジ、レミ、カナメの三人の候補だけ選んでくれ」
「あと三人か。ま、アテはあるから心配しなくていいぜ。シンジに悪い感情持ってなければいいんだろ?」
「ああ、頼む」
「了解。あ、それからもう一つ、こっちは最新の情報」
 カスミは一度言葉を区切って言う。
「どうした?」
「今日、ネルフで極秘に実験があった」
「極秘に実験?」
「ああ。エヴァンゲリオン零号機の起動実験だ」
「な」
 意表をつかれた。確かそれは、四月に入ってからだという話だったはずだ。
「それで、結果は?」
「無事に終わったそうだ。パイロット、綾波レイへの精神汚染の心配もなし」
「そうか」
「今回の実験をフィードバックして、四月五日(日)にドイツで弐号機の起動実験。四月二六日(日)にランクA適格者八名の起動実験を実施するよう、予定が繰り上がったそうだ」
「ほう」
「弐号機の実験には、本部からも何人か連れていって見学させるっていう話だぞ」
「零号機は極秘に行ったのにか?」
「パイロットが綾波レイだからな。シンジには知らせたくなかったんだろ。それに暴走の危険もあった。ランクA適格者を安全圏に置いて、最悪の場合にも零号機と綾波レイの損失だけですむようにしたってわけだ」
「……そのための見学だったのか」
 舌打ちした。何か裏があるとは思っていたが、本部から距離を置くためだったとは。
「だがまあ、別に悪いことをしているわけじゃないんだからいいだろ?」
「確かに。だが何も知らされないのは気分が悪い」
「だろうな。特にこのことを後で知らされるシンジにしてみると、相当気分悪いぜ?」
「そうだな。フォローを入れる必要があるだろうな」
 やれやれ、とコウキが呟く。
「それにしても本当に情報が早いが、どうやって情報を手に入れている?」
「彼女が教えてくれるんでな?」
「さっきのか?」
「まさか。マギっていう子なんだけどさ。手懐けると何でも教えてくれる可愛いヤツさ」
 言わんとしていることを理解し、コウキはため息をついた。
「火遊びはほどほどにしておけよ」
「もちろん分かってるさ。お前もほどほどにな。素性がバレると色々面倒だろ?」
「昔のことだ」
「だが、CIAが動いているんだったらお前のことも突き止めてくる可能性だってある。注意しておくにこしたことはない」
「お前やヨシノには負けるよ。お前ら本当によく生きてるよな」
「お互い様だろ。じゃ、シンジのことは任せたぜ」
「ああ。ジンたちにもよろしく伝えておいてくれ」
 そうしてコウキは部屋を出る。
 それから彼はゆっくりと自分の部屋に戻った。考えることは山ほどある。
 その自分の部屋の前に、タクヤとカズマの姿があった。
「覚悟を決めた。話を聞きたい」
 タクヤが言う。カズマも真剣な表情で頷いた。
「入りな」
 コウキは二人を部屋に迎え入れた。






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