適格者番号:140412001
氏名:ルーカス ストラノス
筋力 −A
持久力−A
知力 −B
判断力−B
分析力−B
体力 −A
協調性−A
総合評価 −A
最大シンクロ率 24.888%
ハーモニクス値 39.15
パルスパターン All Green
シンクログラフ 正常
補足
射撃訓練−A
格闘訓練−A
特記:アメリカで適格者試験に合格し、そのままアメリカの第二支部に所属。ギリシャ支部立ち上げと同時に転籍。
適格者番号:140412002
氏名:エレニ ストラノス
筋力 −S
持久力−A
知力 −C
判断力−B
分析力−C
体力 −A
協調性−B
総合評価 −A
最大シンクロ率 22.501%
ハーモニクス値 39.16
パルスパターン All Green
シンクログラフ 正常
補足
射撃訓練−B
格闘訓練−S
特記:アメリカで適格者試験に合格し、そのままアメリカの第二支部に所属。ギリシャ支部立ち上げと同時に転籍。
第陸拾陸話
哀れな僕を閉じ込める
それからその日はランクA適格者たちの顔合わせが行われた。といっても、ヨーロッパのランクA適格者たちはもう全員が顔見知りになってしまったが。
イギリスのサラ・セイクリッドハート。
ロシアのイリヤスフィール・アインツベルン。
ギリシャのルーカス・ストラノスと、エレニ・ストラノス。
そしてドイツの惣流・アスカ・ラングレーに、紀瀬木アルト、ヴィリー・ラインハルト、ジークフリード・メッツァ、エルネスト・クライン。
日本に九人、ヨーロッパに九人、そしてアメリカに五人、中国に一人、オーストラリアに一人。これが世界のランクA適格者の全容。その二十五人のうち、実に十四人、過半数の人間がこのドイツ支部に集まっていることになる。
「すごいなあ」
改めてシンジは感想を漏らす。というより、自分がその中の一人であることもあまり実感できているわけではない。
何故か周りは全員自分のことを知っているが、自分はランクA適格者の人たちのことはおろか、セカンドチルドレンすらよく分かっていなかったという有様だ。どうしてそんなにみんな、他人のことを気にすることができるのだろう。
「どうしたの?」
隣にいるエンが尋ねてくる。
「いや、ただここにランクAの人たちがたくさんいるんだなと思って」
「その中でシンジくんは二番目のシンクロ率の持ち主だけどね」
「僕は今のところそれくらいしか能がないから」
「あまり気にしすぎても仕方ないと思うんだけどなあ」
リオナが反対側から話しかけてくる。何かとお姉さんぶるこの女性のことを、シンジも決して嫌ってはいない。
「シンジくんは絶対に他の人たちに負けてなんかいないんだから」
「ありがとうございます」
「そうやって偉ぶらないところがシンジくんのいいところよねえ」
よしよし、とリオナがシンジの頭を撫でる。思わず顔を赤らめるシンジ。
ランクA適格者との挨拶の後、三人は医務室にいた。というのもエレニのヘッドロックバスターで完全に昏倒したレミが、完全に首の筋を違えてしまったらしく、しばらく動けない状態になってしまったからだ。さすがに気を失うほどの攻撃は後遺症が残ってしまったらしい。
「あーもう、エレニ怒らせるんじゃなかったー」
医務室のベッドに横になりながらレミが言う。とはいえ痛みも引き始めて、そろそろ起き上がれそうなところではあったが。
「昔からそういう方なんですか?」
「んー、まあね。ボクとルーカスがぼけぼけっとしてると必ず割り込んできてボクらをあちこち連れまわすんだよね」
「もしかしてそれは『大好きなおにいちゃんを取らないで!』とかそういう感じ?」
「んー」
少し悩んで答える。
「というよりむしろエレニがルーカスに向かって『私の大好きな友達を取らないで!』って感じだったなあ」
「なるほど。つまり、館風さんが二人に同時に再会したのに、ルーカスくんの方にしか興味がなかったから、友達として拗ねてたんだね」
エンが楽しそうに言う。そういう友人関係というのはうらやましいものでもある。
「多分。いや、エレニに会えて嬉しくないはずないんだよ!? もしルーカスと結婚したら、エレニが妹になるんだし、そんな嬉しいこと他にないもん」
「け、結婚!?」
さすがにリオナが驚いて声を上げる。
「ふえ? 何かボク、変なこと言った?」
「いや、変ではないですけど」
エンが少し困ったように言う。
「さすがにこの歳で、そこまで考えているのは早いというか」
「そうは思うんだけどね。でもボク、ルーカス以外の人って考えたことないし」
「すごいのろけですが、彼女持ちのシンジくんとしてはご意見はありますか?」
「僕? いや、そう思えるのはいいことだと思うけど」
シンジが言うとレミが笑顔で「ありがとー☆」と答える。
と、ちょうどいいタイミングで扉が開く。やってきたのはギリシャの双子。
「あ、ルーカスさん、エレニさん」
「すまない。ギリシャ側のミーティングで遅れた。レミは?」
「こちらです」
シンジが案内すると、ルーカスはレミのベッドのところまで行って膝をつき、その手を取る。
「大丈夫か、レミ」
「うん。ありがと、ルーカス」
「つらいことがあったら何でも言え。お前のためなら、何だってしてやる」
「ありがとう。でも、ボクはね、ルーカスがこうしていてくれるだけで幸せだよ」
「俺もだ、レミ。会いたかった」
「うん。ルーカス──」
と、いきなり二人の世界が広がり、A.T.フィールドが築かれる。この二人、まったく場所というものを考えない。
「バカ兄」
そしてエレニが懐から出したスリッパでその頭を叩く。
「少しは時と場所を考えなさいっていつも言ってるでしょ!? 周りが引くからやめなさい!」
「む……すまん」
しかし何故スリッパ。そういえば最初に出会ったときも懐から出していた。ということは常時装備なのか、それは。
「あー、つかぬことをうかがいますが」
代表してリオナが手を上げて聞く。
「ん、なに?」
「そのスリッパは?」
「ああこれ? 昔、そこで倒れてるレミからもらった小道具。日本だと突っ込みを入れるときにこれで頭叩くんでしょ?」
間違ってはいない。
だが、それはとても限定された地域の風習だと思われるがいかがなものだろう。
「てゆーか、まだ持っててくれたんだね、それ」
レミがにこにこ笑いながら言う。エレニが「まーね」と答える。
「アンタからもらったものはずっととってあるよ。大切なものだからね」
「ボクもボクも。エレニが描いたルーカスの似顔絵とか」
「それは捨てなさい」
エレニが握りこぶしで言う。だが相手は怪我人、暴力を振るうわけにはいかない。
「どんな絵なの?」
興味が湧いたシンジがレミに尋ねる。
「ふふふ、すごーいの。帰ったらみんなに見せてあげるね」
「あら、首だけじゃなくてもっと別の場所も痛めたいのかしら、レミちゃん?」
にっこりと笑いながらエレニが拳を鳴らす。
「あははははは☆ やだなあ、エレニ。ボク、怪我人だよ?」
「あははははは☆ 何言ってるの、自業自得って言葉知ってる?」
仲良しオーラが巻き起こり、周囲の人間をひるませる。
「仲がいいんだね」
エンが苦笑して言うとルーカスが頷く。
「俺も、エレニには恋人は男にしろと何度も言っているんだが」
「このバカ兄がぁ!」
鋭く振りぬかれたスリッパの側面がルーカスの頭にめり込む。
「言っておくけど! アタシはノーマル! レミはただ単に異常なまでに仲がいい友達! ふざけたこと言ってるとぶっ殺すわよ!」
「む……」
だがやられた方の兄は何も言わずに押し黙る。どうもこの兄妹は、妹の方に主導権があるようだ。
「アタシはこう見えても面食いのつもりなんだけどさ。ほら、日本にも結構美形の男の子がいたじゃない。今回会えるかと思って期待してたんだよね」
ランクAだと、カズマやタクヤならば確かに美形だろう。コウキも日本人離れしたところがあるし、ガードの面々にいたっては美形ぞろいだ。ここにいるエンだって整った顔立ちをしている。
「アンタもけっこうイイ線いってるよね」
「ありがとうございます」
エンは微笑んで答える。
「エレニさんもとても綺麗ですよ」
「お世辞はいらないよ」
だがエンは首を振る。
「こういう言い方をすると口説いているように聞こえるかもしれませんけど、エレニさんはその生命力というか、活動的なエネルギーの輝きが違います。今まで会った誰よりも、生きるためのエネルギーに満ち溢れている。それが綺麗だと思いますよ」
「へー」
エレニはにやにやと笑う。
「そんなふうに言われたのは初めてだな。エフハリスト」
「パラカロー」
エレニが何となく言った言葉にエンが正しく答える。
「ギリシャ語、分かるの?」
「挨拶だけしか分かりませんよ」
エフハリスト=ありがとう。英語でいうところの“Thank you.”
パラカロー=どういたしまして。英語でいうところの“You're welcome.”
とはいえ挨拶といっても聞きなれない言語まで知っているのは只者ではない。
「そういえばお二人は日本語がとても上手ですね」
「こう見えても日本生まれのアメリカ育ちなのさっ!」
「とはいえ、日本にいたのは生後一年くらいだが」
「水ささないバカ兄っ!」
自国ではないところで子供を産むのはなかなか大変なことだ。しかも少年たちが生まれたのはセカンドインパクト、あの使徒戦の直後だ。世界は混沌としていて食糧不足になっていた時代だ。
「四歳くらいのときにアメリカで捨てられちゃってさ」
エレニはあっけらかんと語る。
「それから俺たちを引き取ったのも何かの縁なのか日本人でな。おかげでギリシャ語よりも日本語の方が上手くなった」
「そりゃもちろんギリシャ語も喋れるけどね。ギリシャ語、英語、日本語と、三ヶ国語が使えるってすごいだろ」
えへん、とエレニが胸を張る。確かにシンジでは日本語が精一杯で、英語などカタコトもいいところだ。
「レミと会えたのも、そうした理由からだな」
「そうだね。ボクが小学校二年生のときに留学というか疎開というか、とにかくアメリカに行ったから」
「出会ったのはどうして?」
さらにシンジが尋ねるとエレニが笑顔で言った。
「まー、いろいろあったんだけどさ」
「何でエレニが笑うのー。そこはボクが怒るところだろー」
どうやら何かしら事件があったらしい。それも、笑い話になる程度の。
「どういうことですか?」
リオナがルーカスに尋ねる。
「俺たちは日本人学校に行ってたんだ。まあ、養い親が言うなら仕方がなかったわけだが」
「日本人学校って、外国人でも入れるものなの?」
「俺たちの場合は特殊だな。養父が日本人だから特別に許可された」
「へえ」
「そこで小学二年のときにやってきたのがレミだった」
「忘れもしないあの屈辱っ! エレニとはあれ以来の腐れ縁だよねー」
「何があったのさ」
シンジが先を気にして尋ねる。
「エレニったらさ、新入生のボクに向かって『ここは幼等部じゃないわよ』って言ったんだよ!」
沈黙。そして次に爆笑。
「レミって、そのころから小さかったんだ」
シンジも申し訳ないと思いながらも笑う。
「そりゃもう、信じられないくらいにね。それまで一番小さかった子の、さらに頭一つ分は小さかったわよ」
「それは言いすぎ! ルーカス、何か言ってやってよ!」
「残念だがそれは事実だ」
「がーん! ルーカスにまで裏切られたー!」
「大丈夫だ。俺はお前の背がどんなに小さくても気にしない」
「ボクが気にするのっ! ルーカス背、高いんだもん! 頭二つ分以上違うだろっ!」
「身長、どれくらいだ?」
「一四八!」
「、そうか」
「今の間は何っ!」
「それはルーカスの身長が一八四だからじゃないかな」
「うわあっ! 十の位と一の位が反対だよっ!」
盛り上がる仲良し三人組。こうなるともう、シンジたちでは全く話についていけない。
「仲いいわねー」
「そうですね。館風さんとこんなに仲がいい友人がいるとは知りませんでした」
「うん」
三人でその光景を見つめる。寝転がっているレミだが、以前とは全然違う。大好きな恋人と、大好きな友人とに囲まれて、今まで以上に輝いて見える。
「じゃ、そろそろ僕らは引き上げようか」
エンが立ち上がる。シンジも「うん」と頷いて答えた。
「清田さんには悪いけど、きちんと館風さんに付き合ってね」
「分かってるわよ。それがガードの役割だもの」
「仲間はずれにされても泣かないでくださいね」
「エンくーん? それ以上言うとさすがのおねーさんも怒っちゃうぞ?」
そんなやり取りを終えて、それじゃあ、と声をかけて二人は医務室を出る。
時間は夕方五時。もうあと一時間もすれば夕食だ。
「少し時間あるけど、どうしようか」
「ちょっとドイツ支部を見学できないかな」
シンジが言うと、エンは少し考えて「いいんじゃないかな」と答える。
「じゃ、いろいろと回ってみようか」
そうして二人はドイツ支部の探索に出かけた。初めてくる場所で探検に出るのは男の子の特権だ。
とはいえ、内装がほとんど本部と変わらないのだから、目新しいものなどほとんどない。さすがにヨーロッパらしく、中庭にサッカー練習場があるのには驚いたが。
「ヴィリーくんとメッツァくんの試合、早く見たいね」
シンジが言うとエンも頷く。
「本場のスタジアムなんて来る機会ないと思ってたけどね」
「僕も。サッカーとか集団競技って苦手だからあまり見たこともないんだけど──あれ?」
中庭から戻ってくると、トレーニングルームの照明がついている。それだけなら単に誰かがトレーニングしているだけとも思えるが、仲からは何も物音がしない。
「消し忘れかな?」
「ちょっと覗いてみようか」
二人でそのトレーニングルームに入る。
その瞬間、二人は目を奪われた。
そこにいたのは、一人の少女。
金色のウェーブの髪。小柄な顔立ち。シンジたちと同じようにネルフの制服に身を包み、ランニングマシンをひたすら走っている少女。
照明がその汗を輝かせる。
(うわ、綺麗)
シンジはその少女に目を奪われていた。
すると、その少女もこちらに気づいたのか、マシンを止めて下りる。
「Bonjour.」
ボンジュール、と聞こえた。ということはこの人は。
「ぼ、ぼんじゅーる」
「オウ、ゴメンナサイ。ニホンゴ、ダイジョーブ」
女神のような美しさの少女から、カタコトの日本語が流れる。
「ワタシ、ふらんすノ、ランクB、マリー・ゲインズブール、イイマス」
そして無敵の笑顔で挨拶した。
「ハジメマシテ、シンジ」
「え」
「シッテマス。サードチルドレン。アエテウレシイデス」
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