809年 パラドック暗殺未遂事件
新王都でパラドックが暗殺されかかるが、騎士団の活躍で阻止される。犯人は騎士団長のミケーネ・バッハであることが判明する。

809年 新アサシナ王国成立
ミケーネがアサシネア六世の手先だったことが判明し、パラドックは新王都を拠点に新アサシナ王国を建国する。旧アサシナ王国に対し宣戦布告する。

809年 アサシネア六世の病
度重なる戦争にアサシネア六世の容態が急変する。

809年 アサシネア六世病死
病から立ち直ることなく、アサシネア六世が病死する。

809年 クノン王誕生
アサシネア六世の後継者としてクノンが王位につく。摂政にはレムヌ妃が就く。

809年 ガラマニア介入
アサシネア六世の病死に乗じて、ガラマニアが新アサシナと手を組み、旧アサシナ領内に攻め込む。

809年 マナミガル・ジュザリア二国同盟成立
中央平原の戦いに巻き込まれないために、マナミガルは属国のジュザリアと正式に同盟を結び、新旧アサシナの戦争に介入しないことを表明する。これによりジュザリア王リボルガンは、妹レムヌの救援に行くことはできなくなる。

809年 旧アサシナ滅亡
パラドックが旧王都に攻め込み、クノン王とレムヌ妃を捕らえ、公開処刑とする。これによりパラドックが正式にアサシナの国王となる。


 次々に塗りかえられていく新しい歴史。
 その情報を整理するだけでも手一杯の状況だが、現実はそこまで甘くはない。逃れてきたミケーネやミジュアらと共に、一行は旧アサシナへの道のりを急ぐ。
 その間にもパラドックは新アサシナ王国の成立を宣言し、騎士団長ゼノビアを中心としてただちに旧アサシナへの宣戦布告が発せられている。一刻も早く旧アサシナへ戻り、態勢を整えなければならない。
 しかも、ガラマニアが動く。
 ガイナスターが何を狙っているのかは分からないが、新アサシナにつくだけの理由がガイナスターには存在しているということか。しかもアサシネア六世の病死後ということは、弱体化した旧アサシナから領土の一部を手に入れようとしているのか。
(やはり僕が直接ガイナスターと話に行くべきなのか?)
 だが、自分は既にガイナスターを捨てて妹のドネアまで奪ってきたのだ。自分のことをどれだけ怒っていたとしてもおかしくはない。
 とにかく、急ぐだけ。そうして旧アサシナにつけば打開の道はわずかにでも開けるだろう。
 カーリアはマナミガルに戻った。この状況を正確に伝えたとき、マナミガル女王エリュースはきっと『介入せず』の政策を打ち出すのだろう。そしてジュザリアがそれに巻き込まれる。
 ならば早いうちにそちらも手を打たなければならない。ジュザリア、マナミガル、そしてガラマニア。この三カ国の協力を取り付けることができれば新アサシナには決して負けない。
「あと二日で王都か」
 どれだけ急いでも限界は存在する。西域から旧アサシナまでは二ヶ月はかかる。その距離を一行はわずか半月で踏破していた。体力的な限界は近い。
 もし戦争になるとしても、軍を動かすには倍の時間はかかるだろう。だとしれば決戦は七月。農繁期の前に決着をつけようとパラドックは考えるだろう。
「具体的な戦力差はどれくらいあるんだ?」
 ウィルザが尋ねる。既にミケーネとはお互い自己紹介も終わり、普通に話せる間柄に変わっている。
「およそ十倍。いや、それ以上か」
 無論、自分たちの方が少ない、ということだ。ほとんどの兵士とその家族は新アサシナへ移っている。旧アサシナに残っている兵士たちも、信頼できるのはその中の一部で、大多数はパラドックに逆らいたくはないだろう。家族を人質に取られているようなものなのだから。
「ウィルザ。この局面を打開することがお前には可能か?」
「どんな場合でも不可能はないさ。必ず道はある。でも、そのためには旧アサシナに戻ることが先だ」
 そう。そこには自分にとって大切な親友がいる。彼女でなければ、これから先の道は分かるまい。
(三国にはすぐ使者を出す。マナミガルにはバーキュレアからカーリアに、ガラマニアにはドネアからガイナスターに、ジュザリアにはレムヌからリボルガンに)
 関係が深いところから攻める。それ自体は問題ではない。
(あとはドルークと東部自治区も動かす。サマンからリザーラに、そしてぼくからザーニャに。とにかく味方を増やすことが最優先だ。新アサシナには勢いはあっても人脈が途絶えている。そこでカバーをしなければ)
 その方針は間違いないはず。後は実行に移すだけの時間が必要だ。
「ウィルザ」
 早足だったバーキュレアが少し緩める。ウィルザもそれにあわせた。
「どうした」
「アタシはここで別れる」
 突然の告白に、ウィルザの表情が完全に固まる。が、バーキュレアはその心情を読み取って笑った。
「勘違いしないでくれよ。状況は分かっている。アタシがマナミガルを動かすのが一番だろう?」
 それを聞いて、表情に笑顔が戻ってくる。
 さすがにこの戦士は事態の飲み込みが早い。こちらの考えていることを先回りして動こうとしてくれているのだ。
「分かった。バーキュレア、マナミガルを頼む」
「任せときなよ。すぐに戻ってくるから安心しな」
 そして、バーキュレアは隊列から離れ、マナミガルへの獣道へと入っていった。ここからが一番近道だというのだ。
「どうなるんだろう、これから」
 サマンが呟くが、ウィルザにも答はなかった。
 答はきっと、これからの自分の動き一つにかかっているのだ。







第二十七話

獣の宴







「よく戻った」
 アサシネア六世からの声がかかる。
 謁見の間には何人もの騎士たちの他、レムヌ妃とクノン王子、側用人のエルダス、そして騎士団長ミケーネに大神官ミジュア、そしてウィルザとサマンがいた。
「は。ですが、大任を果たすことかなわず、申し訳ありません」
 ミケーネが深く頭を下げるが、かまわん、と六世が答える。
「実際、こういう状況になってなお、余は暗殺される可能性があるのか、ウィルザ」
 国王はウィルザの能力を高く評価している。実際ウィルザもその答は持っている。だが、軽々しく言うことができないというのも事実だ。特にこれだけの人間がいる中では。
「パラドックは新たに国家を作りました。となればこの時点で暗殺に走るような行動を取ることはないでしょう。私の知る限りの未来でも、この状況で陛下の暗殺という結論はございません」
「そうか」
 だが、国王はさらにウィルザを見つめてくる。
「ならば問う。余はいつまで生き、どのように死ぬのだ。それを教えよ」
 どよ、と謁見の間がどよめく。だが、施政者ならば死の可能性があるのだとしたらそれを排除し、またその後のこともどうするかを考えなければならない。
「この場では申し上げられません。どこにパラドックの手が伸びているか分かりませぬゆえ」
「ふむ、それもそうだな。よし、後でウィルザとミケーネ、ミジュアの三名は余の私室へ来るように。そしてウィルザよ。お主には大切な役目がある」
「はい」
「ガラマニアを、動かせぬか」
 感嘆した。やはりこの人物はアサシナの王だ。わずかな時間で必要な全てのことを理解した。さすがとしかいいようがない。
 そう。自分の元にはドネアがいるのだ。ここからどうガイナスターを動かすかが勝負なのだ。
「何とかいたしましょう」
 それしかウィルザには答がなかった。どのみち、ガイナスターがいかに介入してくるかで戦局が全く変わってくるのだ。
「戦力は我が方が圧倒的に不利。だとすれば他の国の援助を願うしかあるまい。ガラマニア、マナミガル、ジュザリア。そしてドルークや東部自治区からも応援を要請しなければなるまいな」
「同感でございます。既にぼくの仲間をマナミガルに向かわせております」
「早いな。ならば後はジュザリアか。レムヌを動かそう。後はドルークと東部自治区だが」
「東部自治区のザーニャは私の知己です。お任せ願えますか」
 名乗り出たのはミジュアだ。無論国王に否はない。
「頼むぞ。あとはドルークだが」
「ドルークの神官リザーラは、ぼくの仲間です。呼びかければ動いてくれると思います」
「そなたは頼りになるな、ウィルザ」
 国王が微笑みながら言った。
「では、汝に任せよう。そしてミケーネ」
「はっ」
「いくら他国が動いてくれるかもしれぬとはいえ、最終的には我らが騎士団の力が全てだ。そなたは我が騎士団から一人も脱落者を出すことなく、指揮を高めて決戦に臨むように」
「承知いたしました」
 そこまでの動きを素早く取り決めると、国王は最後に高らかに宣言した。
「急げ。スピードが命だ。我らが生きるも死ぬも、いかに早く戦力を整えられるかが全てだ。パラドックが事を起こすより先に、一刻も早く準備に取り掛かるのだ」
「はっ!」
 そして慌しく騎士たちが出ていく。そして、何人かのメンバーだけが残った。
「ではミケーネ、ミジュア、それにウィルザ。三名は我が部屋へ」
「はっ」
 ミケーネとミジュアが動く。だが、ウィルザはしばし立ち止まった。
「サマン」
 振り返るとそこに、既に全身から使命感に満ち溢れた姿の少女がいた。
 正直、それを告げるのは今のウィルザには辛い。一時でも離れていたくはない。
 だが、その顔を見たときにウィルザはもう自分の迷いを吹っ切った。
「分かってる。あたしがお姉ちゃんに事の次第を伝えて、ドルークの戦力を動かせばいいんだよね」
「ドルークにはあまり戦力なんていうものは多くは存在していない。背後から新アサシナを突くと見せかけるだけでいいんだ。遊撃兵として数百いるだけでも全然違う」
「分かってる。あそこにいるのはほとんどが傭兵で、正規兵は少ないしね。でも、お姉ちゃんが一声かければたくさんの人が集まるよ。ドルークはそういうところだから」
 そこまで言って、サマンも少し表情を翳らせた。
「本当は、一緒にいたいけど」
「ぼくもだよ、サマン」
 サマンがそっと手を差し伸べる。ウィルザはその手を握る。
 かすかに触れたところから、お互いの熱が伝わる。
「この戦いが終わったら、また少しはのんびりできるかな」
「そうだな」
「じゃ、早く再会できるのを期待してる」
「ああ。そんなにはかからないさ」
「うん」
 サマンは笑った。
「じゃ、行ってくるね」
「ああ。期待している」
 そしてウィルザは、サマンと別れた。
 この世界に来てから、もっとも長い時間を共に過ごした少女。
 この世界に来る以前の記憶がないウィルザにとって、もはやサマンは自分の一部のようにすら思えていたのに。
 それがいったい、どのような影響を生むことになるのか。
 現状では、全く判断はできなかった。






「さて、話を聞こう」
 アサシネア六世の他、レムヌ妃、クノン王子、大神官ミジュア、騎士団長ミケーネ、ドネア姫。そうそうたる顔ぶれがここには揃っている。そしてウィルザもまた、それに劣らぬ影響力ある存在であった。
「はい。ぼくの知る限り、陛下の死因は現状では一つだけです」
「それは?」
「病死です」
 レムヌとクノンが顔をしかめる。ミケーネはやや怒りの表情が入っていた。だが国王だけが深くうなずいた。
「確かに、最近体調は優れぬが」
「ただ、ぼくの知っている未来では、陛下が戦場に出られたために病気を悪化させたということになっています。だとすれば、このアサシナにいる限りは違う未来にたどりつくこともできるかと思います」
「その可能性は」
「それ以上はぼくも未来を判断できません。ただいえることは、陛下はこの戦いに出征してはならない。それは必ず死を招くということです」
「やれやれ。戦場で武名を響かせた余が、戦場に出られぬとはな」
 その様子からも、どうやら国王は自ら出陣する気が強かったようだ。だが、未来を知るというウィルザの言葉にはさすがに誰も逆らうことができない。現実、彼の言う通りに歴史が動いたことは事実であるし、ミジュアやミケーネもその力を目の当たりにしているのだ。
「ならば問おう。他国はいったいどのように動く。それくらいは分かるのであろう」
 確かに分かる。だが、その未来は決して明るいものではない。
「現状のままならば、マナミガルとジュザリアは新旧アサシナの戦いに手を出すことはありません。日和見の政策を取ります」
「マナミガルならそうであろうな。ガラマニアは?」
「ガイナスターは野心家です。陛下よりもパラドックの方が相手にするなら楽です。それならばパラドックと組んで陛下を倒し、領土を拡大しようと考えます。ですが」
 一度咳払いをして、話を続ける。
「ガイナスターは決して負ける戦をする人物ではありません。つまり、我々に勝機ありとみれば必ず味方になってパラドックと戦ってくれるでしょう。もちろんその代償は高くつきそうですが、今の我々にはそれを憂う余裕はありません」
「なるほどな」
「ガイナスターがもし我々に敵対するとすれば、それは陛下が病死された後、ということになります。逆に言えば、陛下がご存命であられる以上、ガイナスターが敵になることはありますまい」
「それは未来か、推測か」
「両方です」
 力強く言う。その言葉に国王も頷いた。
「あい分かった。レムヌ」
「心得ております。兄上は必ず私が説得しましょう」
「それからウィルザ。それにドネア姫」
「はい」
 ウィルザも力強く頷いた。
「必ず、ガイナスターを動かしてみせます」







初めて、二人は別れた。
この結果がどのような未来に結びつくのかは、まだ見えない。
ウィルザはかつて袂を分かった男のところへと舞い戻っていく。
ガイナスターはウィルザに何を見、そして何を期待するのだろうか。

「私は信じています。あなたが幸せになれる日を」

次回、第二十八話。

『友の声』







もどる