新世紀カノンゲリオン劇場版










How many times must we start again
The creation of the world from beginning to end
What will it take before we learn
We gotta wake up now 'n' show some concern
What will the future hold
How many untold stories will be told
Just what will the future bring
How many species of birds will have a song to sing
Man 'n' man can't even get on
'N' man 'n' Womans been at war for far too long
Superior race all this black 'n' white vision
Catholic-Muslim there's to many religions
Too much hatred too much greed
Ignorest people pollute the air that we breath
We'er gotta wake up now before it's much to late
Hungry people need food on their plate
People being killed for just a few pence
Can you justify that 'cause it makes no sense to me
You'er growing up much to fast
The distruction of mankind-how long will it last.





 ターミナルドグマ、最深部。
 既に息することのない一つの体と、人間外の生命体へと進化した男と、もともと人間ではなかった女。
 そして、往人が笑った。
「お前の望みを言え」
「望み……」
 香里は視線をそらして、うつむく。
(望み……私の、望み……?)
 自分は多くを望んだことなどない、と思う。
 自分がほしかったものは、可愛い妹やお気楽な仲間たちとの平和な日常。それだけだった。
 それなのに、今はもう何も自分の手には残っていない。
 栞は全てを投げ出して自分の幸せを願った。
『人類は──いえ、『わたしたち』は、本当に補完されるべき存在なのか。私はそれが知りたいんです』
(補完。補完とは、何? 私たちを助ける? なぜ私たちは、救いが必要なの?)
 自分たちに、救いなどは必要なかったはずだ。
 一九九九年、冬。
 一つの、悲劇。
(分からない。私には、何も)
「私の望みは、今はもう一つだけ」
 香里はかぶりを振った。
「祐一の無事、か」
 往人の言葉に、香里は胸を押さえる。
「それなら俺がかなえてやる」
 往人は自身たっぷりにそう言った。
(助ける……祐一くんを、助ける?)
「信じられないか」
「だって、あなたは『私たち』じゃない」
「知ってたのか。いや、違うな」
 カノンと、エア。
 香里たちと、往人たちとは、基本的に違う。
 だがそのことを知っているのはごく限られた人間だけだった。自分と柳也、それに佳乃。自分たちの願いをかなえるためにセカンドインパクトを引き起こすことにした者たちのみ。
 カノンキャラは、セカンドインパクトの原因など知らないはずなのだ。
「……なるほどな。世界が、崩壊を始めているというわけか」
 往人はそう言うとリリスを見上げた。
 もともと、この世界はカノンキャラを補完するために創られた世界。
 そこに自分たちエアキャラが入ってきたことによって、世界が補完しうる許容量を大幅に超えてしまったようだ。
 その結果、世界は崩壊へと向かい、その綻びを縫うようにしてカノンキャラたちに全ての『情報』が伝わる格好となっているのだ。
「世界が滅びるというの」
 香里が尋ねてくる。往人は「そのようだな」と答えた。
「世界は脆弱だ。俺一人──あいつ一人、救うことすらできない」
「あいつ……」
「もともと、無理だったのかもな。ここはお前らを補完する世界だ。俺たちが補完されるゆとりなど、どこにもなかったのかもしれない」
「それでも、補完を願うのね」
「俺は、どうなったっていいんだ」
 往人は、ズボンのポケットから人形を取り出す。
「あいつさえ……あいつさえ、助かってくれるのなら」
「そのために、私が必要なの」
「そういうことだ」
「私は何をすればいいの。私の願いは、かなえてくれるの」
「かなえてやる。そのために、アダムとイヴの、禁じられた融合を果たす。アダムの最初の妻、リリスの目の前でな」
 往人は右手を差し出した。その掌に、鮮血色の目玉が浮き出ている。
 香里はそれをじっと見つめた。
(私の……願いは……)
 その目玉に見つめられ、香里の意識はゆっくりと暗黒へ引き込まれていった。
(みんなが、しあわせに……)








第弐拾六話

そして、再会のとき








Perfect-that's what I'm striving to be
The next best thing will do for me
I do my best you disagree
Holier-than-thou holier-than-me
Committing crimes with no remorse
As good as gold now an evil force
One word discription is a dis
You lick a boy down for his bag of cheese 'n' onion crisp
And you don't even stop to think
Whatever happened to the dinosaurs could make us all extinct
I'm being judged by the clothes that I wear
We gotta educate those with a grudge to bare
But I'm content to a certain extent
You'er condemned for life it's too late to repent
Inna-most beauty such a terrible waste
Caught between a rock 'n' a hard place.





 美凪は存在しない、架空の少女ではなかったのか?
 だが、このときの祐一の意識にはそのような疑問はまるで生じていなかった。
 彼の頭の中にあるもの、それはたった一つ。
「祐一さん」
 彼の目に映っている少女は、彼が追い求めている少女とは異なる。
 ただただ、彼の望みはたった一人の少女だけであった。
「しおりを、さがしているんだ」
 祐一はなおもうわごとのように呟く。
「どこにいるのか、しらないか」
「彼女は、亡くなりました」
 祐一の体が、かすかに震える。
 だが少しして、のんびりとした動作で首を横に振った。
「うそだ。しおりは、ちかくにいるはずなんだ」
「亡くなったんです。一九九九年の、冬に」
「……?」
「一九九九年の冬、そして二〇〇〇年の夏。それぞれに起きた悲劇。その悲劇たちが、この世界を支えているんです」
「なにを……いってるんだ?」
「私は、この世界が崩壊するのを止めなければなりません。だから……」
 美凪は、ゆっくりと右手を差し伸べて祐一の左の耳に触れる。
「あなたの記憶の封印を、解かなければなりません」
「ふういん……」
「そうです。一九九九年のあの悲劇からずっとしまい続けてきた、記憶の封印です」

 瞬間。
 世界が、光に包まれていた。







 一九九九年、冬。
 雪に包まれた町。
『彼ら』は、出会った。

「わ、びっくり」

 そう言った従妹の少女は、母親の死によって自分の心の中に閉じこもってしまった。

「うん、やくそく」

 約束を交わした少女は、病院のベッドで意識が戻らないまま眠りについてしまった。

「私は、魔を討つものだから……」

 夜の学校で戦っていた少女は、友人の幸せを願って自らの罪を裁いて命を落とした。

「絶対に許さないんだから!」

 何かと悪戯をしていた少女は、運命をうち破ることができないまま消えてしまった。

「そんなこと言う人、嫌いです」

 幸せを夢見た少女は、全てを諦めたまま、奇跡が起きることもなく死んでしまった。

『みんな……みんな、いなくなってしまった』
 彼の傍にいた人たちは、誰もいなくなってしまった。
 だから、願った。
 もう一度、会いたい。
 今度こそ、みんなで、幸せになるのだと……。

 そして奇跡が生まれた。
 瀕死の母親は奇跡の生還を果たした。
 眠っていた少女は七年ぶりに意識を取り戻した。
 自殺を図った少女は一命をとりとめた。
 奇跡を夢見た少女の手術が成功し、幸せになることができた。



 だがそれは全て、奇跡という名の、彼の夢、幻にすぎなかった。



 全ては彼の願いが引き起こした妄想のファーストインパクト──

『うそだっ!』

 全ての悲劇は真実。全ての奇跡は妄想。
 ファーストインパクト後の世界。
 それは、彼が見ている夢の世界。

『うそ……だ……』







「真実、です」
 彼の背後に、感情をなくした少女が立つ。
「この世界は夢。存在しない世界。全ては祐一さんが見ている夢にすぎません」
「俺が、見ている夢……」
 では、この痛みはなんだというのだろう。
 夢の中なのに、これほどの苦しみを受けなければいけない理由はどこにあるというのだろう。
「夢の……夢の中でくらい、幸せになったって、いいはずだろっ」
 かすれた声で吐き捨てる。だが、美凪は悲しげに首を振った。
「それほど、祐一さんにとっては悲しい出来事だったんです」
「じゃあ! お前らはいったい何なんだよっ! この夢の世界が、俺が望んだ、俺たちの補完のための世界なら、どうしてエアキャラのお前らがいるんだっ!」
「夢の世界でしか『補完』は成立しないから」
 美凪は、膝と両手をついて振るえている祐一を優しく抱きとめる。
「補完されることを願った人たちが、祐一さんの夢を利用して、新しく創造されたこの世界で補完されることを願った」
「誰が……」
「国崎往人さん」
「あいつが……」
「だから、往人さんは祐一さんが初号機に乗ることを喜ばなかった」
「どういうことだ」
「初号機は、この世界の象徴。言い換えれば、この初号機こそが現実の世界との接点なんです」
 祐一は、ゆっくりとカノンを見上げた。
 紫色の機体は、搭乗する者を待っているかのように微動だにしない。
「祐一さんがこれに乗ることで、少しずつ祐一さんの記憶の封印は解かれていった」
「記憶の封印……」
「祐一さん。もう一度だけ、これに乗ってくださいませんか」
「これ、に」
「そうすれば、虚構の世界に変化が生まれ、祐一さんは現実の世界に帰れるかもしれない」
「現実の世界……」
 だが。
 その意味するところは、つまり自分が逃げ出してきた世界へ帰るということ。
 名雪も、あゆも、栞も、真琴も、舞も、誰もいない世界へ。
 それは、それだけは──
「……お前は?」
 自分を抱きしめている少女を見て、祐一は尋ねた。
「お前は、いったい何のためにここにいる?」
「私は……」
 す、と体が離れる。
「祐一さんの目を覚ませることで、国崎さんを元の世界に連れ戻したかったから……」
 だから、この世界に来た。
 祐一を目覚めさせるために。
「初号機に……乗ってください」
「初号機に……乗る……」
 何のために?
 自分はいったい、何を求めている?
「何故、乗らなければならない?」
「それは──」
「お前だって、所詮は自分のために俺を利用しようとしてるだけなんだろっ!」
「……」
「夢だってかまわないんだ。俺の傍に、名雪がいて、あゆがいて、栞がいて、みんながいてくれれば……それ以上の何もいらない。ただ、それだけなんだ」
「ですが、この世界は既に変質しています」
 びく、と祐一の体が震えた。
「本来祐一さんの夢の中で補完されるはずだった全てのものが、補完されることのないまま終結へと向かっています」
「だから俺に何ができるっていうんだよっ!」
「このまま、夢の中にいても現実は何も変わりません」
「俺に目を覚ませ、と?」
「……既に、お気づきかもしれませんが」
 秋子は既に死んだ。舞と美汐もだ。北川はずっと以前に。そして栞。カノンキャラのうち、既に五人が死亡している。
「このままでは『私たち』が『祐一さんたち』を全て殺してしまうかもしれません」
 名雪。あゆ。香里。真琴。佐祐理。残り、五人。
「……何故、お前たちは俺たちを殺すんだ?」
「それが、補完の条件だから」
「条件」
「全てのカノンキャラを殺し、現実との接点である初号機に全ての生命を融和させる。そうすればこの世界は閉じられる。この世界が崩壊することはありません」
「それが補完なのか? この世界を保つことだけが、お前たちが考えている補完だというのか!?」
「……ゼーレの考える人類補完計画を言うのでしたら、たしかにこれがそうです」
「ふざけてる!」
「佳乃さんは、真剣なんです。人類補完計画を起こして、自分と国崎さんを除く全ての人の魂を融和させる。そして、二人だけがこの世界に残る──」
 そこまで。
 そこまでして、人は補完を望むというのだろうか。
 いや、自分が補完されるためだけにこの世界を創り上げた自分には、そんなことを責める資格はないのかもしれない。
「……往人は?」
 祐一は、尋ねた。
「往人は同じ考えじゃないんだろう」
「……はい。違います」
「言え。往人は何を考えてるんだ。観鈴と結ばれるために、あいつは何を考えている」
「──サードインパクト、です」
 少しの間をおいてから美凪は答えた。
「つまり?」
「この世界にある観鈴さんの魂を地上へ呼び戻し、初号機を通じて現実世界へと帰る。それが国崎さんの狙いです」
「……できるのか、そんなことが」
「そのための初号機ですから」
「そのため?」
「この世界は、ただの夢ではないんです。一九九九年から分岐した、もう一つの世界。そして密接する現実の世界に影響を与えることは、決して不可能ではないんです」
「観鈴の魂を現実世界に帰すことも、か」
「……はい」
 祐一は立ち上がると、もう一度初号機を見つめる。
(往人め……人の体利用して、余計なことしやがって)
 だが、だからといって現実世界に帰ることもためらわれる。
 あの世界には、大切な人はもういないのだ。
 もっともそれは、この世界も同じことではあるが……。
「……立ち直られましたね」
「うん?」
「ようやく、祐一さんらしくなってきました。復活おめでとう賞です」
 ごそごそ、とポケットから封筒を取り出す。
「……一つ聞くが」
「はい」
「お米券か?」
「……お米、好きですから」
 答になっていない受け答えは相変わらずだった。祐一は思わず吹き出す。
「……失礼です」
「悪い。お詫びといってはなんだが、乗ってやるよ」
 祐一は、そして表情を引き締めた。
「初号機にな」
 そう。
 どのみち、自分はもう知ってしまった。
 この世界が現実ではないということを。
 そして自分の魂が、急速に現実へと向かっていることを。
(……悲しいだけの世界なら、俺が終わりにしてやる)
 祐一の目が、鋭さを増した。





Be judged by according to what you've done
Live this life the next is a better one
Eat the fruit from the tree of life
'Cause if you live by the sword...you'll die by the knife
How great and wonderful are your days
How right and true are your ways...
No more death, grief, crying or pain
'Cause only the good things will remain...
Heed my words 'cause what I'm saying is trye
Treat them exactly as they treated you-
Wipe away the tears from your eyes
Be proud, life your head up-reath for the skys.





 弐号機が完全に動かなくなってから、二分。
 エアシリーズはただただ空中を旋回している。大地につなぎとめられた弐号機からエントリープラグが排出される様子はない。
「……どうすればいいのよ」
 今はまだエアシリーズに動きはないが、あれが本部を襲ったなら、もはやジオフロントは耐えられないだろう。
「……舞」
 佐祐理はジオフロントを見つめて呟く。
 完全に八方塞がりであった。ジオフロント内部の様子はもはや全く分からない。誰かに指示を仰ごうにも、秋子も美汐もここにはいない。
(どうすれば……)
 佐祐理は端末に向かう。が、何の情報を呼び出せばいいのかが分からない。
 自分が何をすればいいのかが分からない。
 それは、自分が混乱しているということなのだろうか。
(祐一さん……!)
 目を瞑って、佐祐理は両手を組む。
 祐一はどうしただろうか。無事に舞と一緒に逃げ出しているだろうか。
 二人は今、どこにいるのだろうか。

 ガァン!

 祈りは、銃声によって遮られた。
 佐祐理が振り返ると、そこには着物姿の女性と、そして両腕を広げて佐祐理に背中を向けている真琴。
「動物の勘というやつですね。気配を殺して近づいたのに、防がれてしまいました」
 見知らぬ女性はにっこりと笑った。
「……真琴さん?」
 ゆっくりと、真琴の体が崩れ落ちていく。
 うつ伏せに倒れた真琴の体の下から、赤い染みが徐々に広がっていった。
「真琴さんっ!」
 私を、かばって──
「佐祐理さん、逃げてっ!」
 気づくと、女性の銃口が佐祐理の方へ向けられていた。
 殺される。
「うあああああああああっ!」
 真琴が勢いよく立ち上がるとその女性に飛びかかった。
 女性は一瞬目を細めると、その真琴の心臓めがけてトリガーを引く。

 ガン、ガゥン!

 銃声は二度。
 だが、真琴は拳銃に負けることなく、着物の女性にしがみついて離れなかった。
「にげ、て……」
 弱々しい声が聞こえてくる。
「真琴さん」
 佐祐理は突然の状況を理解することができずにいた。
 だが女性と目が合ったとき、佐祐理ははっきりと分かった。
 この女性は、自分を殺そうとしている──それも、私的な理由で。
 なぜなら、女性の目には憎しみがこもっている。あれは、自分を恨み、憎んでいる目だ。
『舞さんに確かめたかったら、この場を生き抜いて、それから確かめてよっ』
 そうだ。
 自分は、生きなければならない。
 生きて、生きて、生きつづけて、舞と再び会うのだ。
「すみませんっ!」
 佐祐理は真琴に背を向けて走り出した。
 真琴はもう、助からない。
 この場に留まるのは、自分が無駄に死ぬだけのことだ。
 真琴が時間を稼いでいる間に、自分は少しでも遠くへ逃げなければならない。
 それが、体をはって自分を守ろうとしてくれた真琴への恩返しだ。
「は、やく……」
 真琴の声はもう、かすれて佐祐理にまでは届かなかった。
「なかなか、根性がありますね」
 死にかけていながらも自分に拳銃をうたせまいとする姿勢。
 だが、それももう長い時間ではないだろう。
「とはいえ、こちらも時間があまりないのです。申し訳ありません」
 裏葉はそう言うと、左手で懐からナイフを取り出し、真琴の腹部に突きたてた。
 がはっ、と真琴の口から大量の血があふれる。
「……育ての親と同じナイフで殺されるのですから、本望でしょう」
 真琴は薄れゆく意識で、その言葉を聞いた。

 そだての、おや?

 秋子が、死んだ?
「ど、うして……」
「まだ意識があるんですね。簡単なことです。私たちの大切な人にもう一度会うためですよ」
「……あきこ、さん……」
 ゆっくりと、真琴の体から力が抜けていく。
 許さない。
 自分だけならともかく、秋子さんまで殺すなど。
 許さない。
 許さない。
 絶対に、許さない──!
「ゆるさな……」

 ガゥン!

 四発目は、真琴の左眼を撃ち抜いていた。
「……これでもう、話すことはできないでしょう」
 仰向けに倒れた真琴の体が、びく、びくと痙攣していた。
 裏葉はそれを見て、ふう、と息をつく。
「……やるからには、必ず成功させなければ……」
 呟きを残し、裏葉は佐祐理を追うためにトレーラーを出た。
 その直後であった。
 巨大な振動が、この付近一帯を襲ったのは。
「なに?」
 裏葉が驚いて顔を上げると、そこには──紫色の機体。
「カノンゲリオン、初号機……何故」
 初号機パイロットは、第一七使徒との戦いで精神を病み、とてもエントリーできる状態ではないはずだ。
 では、いったい──
「……何が、起こるのでしょうか」
 裏葉は見上げたまま呟く。
 さらにその上には、旋回を続けるエアシリーズ。
「ここは、危険ですね」
 だが、佐祐理は追わなければならない。
 追って、殺さなければならない。
(カノンキャラは、全て殺さなければならない)
 そうしなければ、神奈が復活することはないのだ。
(全てを殺して、あゆさんに翼人の夢を受け継がせ、あの方を地上へと戻す)
 それが柳也の考えだ。現実的にどれほど可能性が少なくとも、自分たちはそれだけを願いに活動を続けてきた。
(ここで死ぬわけにはいかない──そして、佐祐理さんを殺さないわけにはいかない)
 覚悟は決まった。
 裏葉はターゲットの後を追い始めた。





Condemned for what you did to them
Now see how quick they fall to worship him
There's a place in my heart that makes me understand
Prepared 'n' ready like a bride dressed to meet her husband
Treat life as a learning process
I said turn right so you took a sharp left
Wake up and we'll all sleep peacefully
The sunshines but it still seems bleak to me
You tell a lie and convince me it's the truth
I'm well mannered yet you still call me uncouth
I beleive that there's got to be much more
I hope I'm ready when death comes knockin' on my door
Maybe tonight maybe as I sleep
It can drive you mad if you think to deep
But don't have a breakdown 'cause I called you a down
You threw a punch 'n' missed I killed you with a kiss
What on earth will you do then
The hour of your death amen
'N' all the prejudice that I've sustained
I know it sounds funny but I just can't stand the pain.





 祐一の目に最初に映ったものは、はるか上空を旋回するエアシリーズの姿。
 そして次に見たものは、大地につなぎとめられていた弐号機の姿であった。
「なゆきいいいいいいいいいっ!」
 その声に反応したのか、弐号機の顔面を貫いていたロンギヌスの槍が勝手に動き始めた。
 そして、ゆっくりと標的を初号機に定めてくる。
(ロンギヌスの槍……こいつが、名雪を)
 祐一はその槍を睨みつけた。
 そして、光速で起動する。
「A.T.フィールド全開!」
 それをA.T.フィールドで防ぐ祐一。だが──
(ロンギヌスの槍に、A.T.フィールドは通じない!)
 分かっていることだった。
 少なくとも、知識としては。
 だが、ロンギヌスの槍を回避することは無理があった。あくまでも現実の初号機と、現実からかけはなれた常識外れの動きを見せるロンギヌスの槍。
 A.T.フィールドによって一瞬動きが止まった槍だったが、すぐにA.T.フィールドを突き破り、初号機の左胸を貫いた。

「うがああああああああああああああっ!」



(ついに、願いがかなうときがきた)
 佳乃は、誰もいなくなった部屋で微笑みを浮かべた。
 誰もいない──そう、先ほどまで自分の他に数名の人間がいたものの、今はもう、一人。
 もともと、ゼーレなどという組織は佳乃が自分の願いを成就するために作ったものにすぎない。
 利用価値がなくなれば、捨ててしまうだけのこと。
 佳乃の右手に握られた連射式の拳銃からは、まだ硝煙の匂いが漂っていた。
「ロンギヌスの槍も戻ってきた……カノンキャラの死と祈りをもって、全てをあるべき姿に」
 それは、魂の安らぎでもある。
「さあ、儀式を始めよう〜♪」



 激痛。
 激痛。
 激痛。
 激痛。
 激痛。
 かつてないほどの激痛に、祐一の思考は完全に固まってしまっていた。
 何かを成すために乗ったのではなかったのか。
 そんな疑問を抱くこともできないほどに、自分の左胸を貫いた衝撃は大きかった。
(ぐううううう)
 ロンギヌスの槍は自分の左胸に侵食してひたすら激痛を引き起こす。
 今まで戦ったどんな敵よりもやっかいだった。
 そして、さらにエアシリーズが降下を始めた。
 そのうち二体が弐号機から槍を引き抜き、動けなくなった初号機の左右の掌に突き刺す。
 そして、他のエアシリーズが初号機の体を担ぎ上げ、天上へと上昇を始めた。
「なにを、するつもりだ……」
 激痛に耐えながら、祐一は自分の動きを封じるエアシリーズたちを睨みつけた。



「カノン初号機に聖痕が刻まれた。今こそ、セフィロトの樹の復活を。私のしもべ、エアシリーズは全てこのときのために。まずは、ジオフロントを真の姿に」



 佳乃の声に応えて、エアシリーズたちが一斉に振動を開始した。
 九体のエアシリーズの口から聖歌が響き、その歌が強大なエネルギーを生む。
 そして、衝撃が起こった。
 ロンギヌスの槍に集中したエネルギーが、直下──ジオフロントに向かって放たれる。
 全てが、光に包まれた。
 直後に生じた巨大な爆発は、最後まで形を保っていたジオフロントを完全に崩壊させた。

 数分後。

 光と風と煙が収まった後に現れたもの。
 それは『黒き月』であった。
 巨大な黒い球状。かつて天上から落ちてきた、リリスの母体となったもの。
 これが、ジオフロントの真の姿──







「始まったな」
 往人が上を見て言う。さきほどの振動は、このターミナルドグマにまで響いていた。
「……祐一くんは?」
「このままなら、助かることはないだろうな」
 往人には何が起こっているのかが分かる。佳乃はエアシリーズを使って、人類補完計画を成そうとしている。
「祐一を助けたければ、協力しろ」
「……どうすれば、いいの」
 往人は右手を差し出す。
「アダムと使徒との接触──サードインパクト、だ」
 サードインパクト。
 かつて、セカンドインパクトのときには世界人口の三分の一が失われたという。
 それをまた、ここで再び繰り返すというのか。
「……それは、避けられないの」
「祐一を助けたければ、な」
「そう……」
 私にはもう、他に何もない。
 ただ、見ていたかった。
 祐一が戦っているところを、最後に──
「いいわ」
 香里は目を閉じた。
 自分の命で、祐一が助かるのなら。それもいいかもしれない。
「アダムとイヴの融合。そして、虚構の世界が新しく創りなおされる。新たな夢は、永遠に覚めることなく。そして、天上の少女は舞い降りる」
 右手が、香里の額に触れる。
 それと、同時に。

 ガァンッ!

 銃声が鳴った。
 香里は、目を開けてゆっくりと自分の手を左胸にあてる。
 何か、生温かい。
 自分の手が、真っ赤に染まっていた。
(うた、れたの……?)
 香里はまるで現実感をなくして、その事実を受け止めていた。
「柳也……!」
「どうやら、間に合ったようだな」
 柳也がにやりと笑って、柱の影から現れる。
「てめえ、何をしたか分かってるのか」
「分かってるさ。サードインパクトを防いだ人類の救世主だってことがな」
「ふざけるなよ、てめえ」
 柳也と往人が睨み合う。
 その、すぐ傍で。
 大量に血を流している香里はなおも立ったまま、リリスを見上げていた。
(……私は、いったい、なに……)
(使徒……私が、使徒……祐一くんの敵……?)
(栞も使徒だった。私も使徒。あの子はそれを知っていた──?)

『いいえ』

 その意識は、直接その場にいた三人の脳裏に響いた。
「なんだ?」
 柳也が頭を押さえて、周りを確認する。
「リリスが」
 往人にはその思念の主が分かったらしく、背後の白い巨人を見上げた。
 その体が、その顔が。
 少しずつ、変化を遂げていた。
 紫色の、七つ目の仮面が剥がれ落ちる。
 そして、その向こうから現れた顔。それは──
「……美凪、だったのか……」
 往人が呆然と呟く。
『真実を知る人は、どこにもいません』
 なおも、思念は続く。そして、それに香里が答えた。
「では、あなたは何?」
『私は、エアとカノンの掛け橋。そして、あなたも』
「私が……」
『アダムの最初の妻と、アダムの肋骨から作られた妻。私たちが融合することにより、エアとカノンの共存が、成り立つ』
「……じゃあ、祐一くんは」
『共存された世界で、生きることができる』
「そう」
 ふわり、と香里の体が浮き上がった。
「待て、香里!」
 往人が叫ぶ。
 香里は、要だ。香里がいなければサードインパクトを発動させることはできない。唯一残された使徒。使徒とアダムの接触だけが、サードインパクトを起こすことができるのだ。
「駄目。私は、自分の大切なものを守りたい」
「香里!」
 香里はそのまま、美凪の胸のあたりまで浮き上がる。
「──あなたが、祐一くんの大切な人」
『はい』
「でも、その実態を持たない人」
『はい』
「一つになることで、あなたの願いは叶うの?」
『はい』
「そう」
 香里は、微笑んだ。
「じゃあ……ただいま」















『お か え り な さ い』















人はいったい
どこからきて
どこへ、ゆくのだろう

大切な
優しいヒト……
君だけが、いない











(中編)

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