ここは……どこ?
 私はいったい、どうしてここにいるの……?
 いやだ……。
 こわい……。
 助けて……。
 私を、
 ひとりにしないで……。












PLUS.4

動き出す運命







intercepter







「やっとついたな」
 ガルバディアについて、4人は早速酒場へと繰り出していった。ユリアンは最初かなり抵抗の色を見せていたが、サイファーに睨まれて仕方なくついていくことにした。
「オヤジ、とりあえずビール4つだ!」
 サイファーが叫ぶと、マスターは少し顔をしかめたようすであったが、すぐにビールを持ってきた。とりあえず4人は乾杯すると、しばしユリアンの話題で花を咲かせる。
「もっとお前の世界の話を聞かせろ。お前の話は面白い」
 珍しくサイファーがそういうことを言うので、雷神も風神もひとしきりユリアンの話を聞き続けていた。
 ユリアンはシノンという小さな村の青年であったが、ひょんなことからロアールという国のプリンセスガードをすることになった。名前は、モニカ。ユリアンが唯一心を捧げている相手である。
 ある日、モニカは城を出る決心を固めた。政略結婚の道具として兄に使われることを嫌ったためだ。ユリアンはそれを聞き入れて、2人で城から脱出、北の地へと旅立ったのである。
「おうおう、随分ロマンチックじゃねえか」
 サイファーの野次に、ユリアンは照れたように苦笑した。
 その後、ユリアンは同郷の仲間を助けるためにアビスと呼ばれる魔族と戦い、なんとか勝利をおさめることとなった。そして、その後もモニカ姫と2人で旅を続けていたのである。
 と、自分の素性を全て話し終えたその時である。
 カラン、とドアが開いて、1人の客が入ってきた。しかし、それはどこか異様な様子であった。黒い服に身をつつみ、顔までもすっぽりとマスクを被っている。まるで、自分の素顔を見られたくないかのようである。目だけがらんらんと輝いていた。そして、彼の足元には大きな犬。よく飼いならされているようで、ぴったりと主人の後について離れない。
 その男はカウンターの一番隅へ行くと、マスターに小声で話しかけた。
「うすっきみわりー男だな」
「サイファー、聞こえるもんよ」
 雷神が大きな声で言った。どちらかといえば、サイファーよりも雷神の声の方がよく店内に響き渡っている。
「……あいつ、なんかやばいやつじゃねえのか?」
 サイファーが密談をするように3人に話しかけた。
「やばいっていうと……」
「犯罪だよ。殺人か、放火か……」
「そんなことないって。大体、いかにも自分が犯人ですって格好でこんなところに来るはずないじゃないか」
 ユリアンの明確な反論に、さすがにサイファーも黙らざるをえなかった。言われてみれば、全くそのとおりだ。
「ちぇっ、そんなら話かけた方がはやいぜ」
 サイファーはビール片手に立ち上がり、ユリアンの制止も聞かずに男の側へと寄っていった。
「おいおい、サイファー」
「やめるもんよ、ああなったらサイファーは止まらないもんよ」
「止行為、無駄」
 2人に逆にユリアンは止められて、はらはらしながらサイファーを見守っていた。
「よう、兄ちゃん」
 サイファーはどこぞのごろつきのような感じで話しかけた。
「あんた、どうしてそんな格好してんだ?」
「……………………」
 男はサイファーに話しかけられたことなどなかったかのように、ウィスキーを一口含んだ。
「無視するなよ、なあ」
 サイファーがその男の肩に手を置こうとした、その時であった。
「おろ?」
 サイファーの体は宙を舞い、一回転して床に叩きつけられていた。注意深く見守っていたユリアンたちにも分からない早業であった。よほどの使い手だということは、明白であった。
「てめえっ!」
「わーっ、サイファー、そこまで! ストップ!」
 さすがに乱闘になりそうな雰囲気だったので、ユリアンは慌てて2人の間に割って入った。
「すいません、友人は酒癖が悪くて」
「何を、俺はまだ酔っちゃいねーぞ!」
 酔っぱらいそのままの台詞を吐いても、説得力は皆無である。
「それじゃあ、失礼します。本当に申し訳ありません」
「ユリアン……テメエッ」
「まあまあ、サイファー。ここで追い出されたら今日の宿はなくなっちゃうんだから」
「……ちっ」
 知らない間にユリアンはこのサイファーのなだめ役を自ら引き受けてしまっていた。どうも、雷神と風神がサイファーを好き勝手にさせているため、自分がこういう役回りを引き受けることになったのであろう。
「それにしても、先が思いやられるなあ……」
 そんな4人の様子を、黒づくめの男は注意深く観察していた。そのことを、4人が気がつくことはなかった。
 ぴくり、と足元に伏せていた犬がようやく動く。それに気付いた男は、運ばれてきた料理を犬に分け与えた。






「……ティナは、まだ?」
 キスティスの姿を見て、リノアが声をかけた。既に、スコールとブルー、ゼル、アーヴァイン、シュウ、ニーダといったメンバーが顔を揃えている。あとは、セルフィとティナだけであった。
 エルオーネからの呼び出しを受けたのはスコールとセルフィ、それにゼルであった。ゼルはつい先ほどまで実家のバラムに戻っていたのだが、突然エルオーネに呼ばれたので、急いでガーデンへ駆けつけていた。
 そしてすぐに緊急会議を開くことになったのである。議題は無論、ブルーの言う『世界の危機』についてだ。
「ちょっと待って。もう少ししたらくるから」
 キスティスはそう言うと、スコールの隣──シュウの反対側に腰掛けた。この2人は現在このガーデンの教官である。そのため、リーダーであるスコールの両側に座ることにしている。例えスコールとリノアが付き合っていようと、そのことと公務とは関係がないのだ。
「やっほ〜、お待たせ〜」
 元気な言葉と共にやってきたのは、やはり元気ないつもの格好のセルフィと、そして銀白のドレスに身を包んだティナの姿であった。
(……)
 一瞬、スコールはその美しさに目を奪われていた。まるで月の女神が舞い降りたかのような、気高く清楚で、神秘的な雰囲気を彼女は醸し出していた。
「うわあ、ティナ綺麗だね〜」
 アーヴァインがやや大げさに褒め称えると、ティナは恥ずかしそうに俯いてしまった。
「綺麗でしょ? ティナは元がよすぎるから、化粧したらもっと綺麗になるな、と思って。まあ、とりあえずみんなに顔見せするんだし、これくらいしても悪くはないかな〜なんて思ったからさ」
 がたり、と椅子の音がした。立ち上がっていたのはブルーだった。スコールはブルーの様子を注意深く見つめていた。やがて、ブルーは大きく息を吐く。
「間違いない」
 ブルーは言った。
「君が『世界の代表者』だ。その力を感じる」
「……私、も……」
 ティナも驚いたような声を出していた。
「……あなたに、不思議な力を感じる……。あなたは、誰?」
「僕はブルー。この世界と、僕の元いた世界と、君の元いた世界、それにまだいくつかの世界の危機を救うために、この世界にやってきた。君はそうではないの?」
「私は……」
 ティナはすまなさそうな表情を浮かべた。
「……私がどうしてこの世界に呼ばれたのか、分からないから……」
「そう。でも、とにかくこんなに早く『代表者』に会えてよかった」
 ブルーが少しだけ安心したような表情を見せたので、スコールはさらに聞いてみることにした。
「ブルー、お前は『代表者』に会ったらそれが『代表者』だと分かるのか?」
 ブルーは力強く頷いた。
「さっきまでは自信がなかったけど、これなら大丈夫。はっきり分かるよ」
 ということはつまり、この中には『代表者』もしくはその資格を持つものはいない、ということになる。スコールは少し安心した。もしかしたらアルティミシアの力の一部を受け継いでいるリノアが『代表者』となる危険性もあったからだ。
「とにかく、みんなに現状を説明しておかなければならない」
 スコールは手短に説明した。この世界が危機に瀕しており、そのために8つの世界それぞれの『代表者』を集めなければならない、というのだ。
「質問してもいいかな」
 手を上げたのはアーヴァインであった。
「その『代表者』を集めて、どうすれば世界の危機を救えるの?」
 当然の疑問である。しかし、ブルーはそれについては明確な答えを提示できなかった。それは、隠したというわけではない。
「……すまない、実はそのことはまだ自分にも分かっていないんだ。とにかくこの世界に来て『代表者』を集めなければならないことだけしか、教えてはもらえなかったから」
「教えてもらうって……誰に?」
「僕が元いた世界の……言っても分からないと思うけど、ヴァジュイールという妖魔の君に」
「妖魔?」
「ああ、妖魔といっても悪いやつというわけじゃない。ヴァジュイールは基本的には人間と接点を持たないから。まあ、僕はこういう事情もあったし、例外措置がとられたんだけど。とにかく、それ以上のことはヴァジュイールにも分からなかったんだ。それで、世界の代表になってしまっていた以上僕がここに来るしかなかったんだ。ここに来れば何かがわかるかもしれない。そういう希望をもって」
「うーん、それでも結局分からないんじゃなあ……」
 呟いたのはニーダであった。確かに、それ以上のことが分からないのであれば無意味だといっても過言ではない。
「とにかく、俺たちは今できることをするしかない。エルオーネからの情報だと、ラグナの所に異世界の住人がやってきているようだ。それも、世界の危機に関してかなり詳しい様子だった。これから、バラムガーデンはウィンヒルに向かう。異存は?」
「もちろん、リーダーの言うことに逆らうつもりなんてないけど」と、キスティス。
「とにかく情報がほしいわ。ウィンヒルに行けば情報もあるでしょう」と、シュウ。
「俺はかまわねえぜ」と、ゼル。
「僕もいいよ」と、アーヴァイン。
「自分もそれでいいと思うけど」と、ニーダ。
「私も、ラグナ様に会えるし〜」と、セルフィ。
「いいんじゃない。とにかく『代表者』を集めないと」と、リノア。
「よし、全員一致ということで、今後俺たちはブルーに全面的に協力することにする。俺たちの任務は異世界からやってきた人たちをとにかく集めることだ。そして、もう一つ。この世界の『代表者』を探すことも忘れてはならない。もっともこれはどうすれば見つかるのか分からないけど、とにかく情報を集めることを最優先に」
「それじゃあさ〜、SEEDを世界各地に派遣して情報を集めるっていうのはどう?」
「連絡をとる方法が難しいわ。それだったら、トラビアガーデンとガルバディアガーデンにそれぞれ対策支部を設置して、情報を集める方がいいと思う」
「でもどうやってトラビアやガルバディアに行くんだ? トラビアはウィンヒルの正反対だし、ガルバディアに寄るといっても遠回りになるぜ」
「……こっちもやはり分散して情報を集める必要があるだろうな」
 スコールがその議論に歯止めをかけた。
「トラビアとガルバディアにSEEDを送るというのは基本的に間違ってない考え方だと俺は思う。だとしたら、誰をリーダーにして何人規模で送るか、という問題が残る」
「あ、は〜い。あたしがトラビアに行く〜」
「セルフィ、あなたはティナについててくれなきゃ困るわ」
「あ、そっか」
 そう言ってセルフィはティナの方を振り向く。ティナは困ったように、仕方なく発言した。
「……私のことなら、気にしないでください」
「うーん、そんな寂しそうに言われるとなあ」
 セルフィもさすがに頭を掻いてうなった。
「それだけじゃない。セルフィがいないとラグナロクを運転するやつがいなくなる」
「あ、そっか。どのみちダメなんだ。あ〜あ、せっかくの里帰りだと思ったのに〜」
「じゃあ代わりに僕がトラビアに行くよ。僕は特別このガーデンで仕事を受け持ってるわけじゃない。リーダーのスコールが行くことは当然無理なんだし、キスティス教官とシュウ教官もその補佐に回ってくれなきゃスコールが困る。ニーダはガーデンの運転があるし、セルフィはラグナロクを動かす時のために待機してくれなきゃならない。となると暇なのは、僕とゼルしかいないんだよね〜」
 きわめて分かりやすいアーヴァインの説明に、ゼルはがっくりと肩を落とした。
「……分かったよ、俺がガルバディアに行けばいいんだろ」
 その様子を見て発言したのはリノアであった。
「それなら私が行こうか? 私はガルバディアには詳しいし……」
「リノアは、だ〜め」
 言葉を遮ってアーヴァインが却下する。
「どうして?」
「リノアはスコールの側にいてくれなきゃ。ね、スコール?」
 あからさまに嫌そうな顔をして、スコールは黙っていた。その様子を見て、皆がくすくすと笑いだす。
(嫌がらせだな、アーヴァインめ)
 小さく息を吐き出し、スコールはまとめに入った。
「よし、それじゃあゼルとアーヴァインは一緒に連れていくSEEDの人選にあたってくれ。人数は……そうだな、向こうのガーデンにはSEEDはいないから、10人程度で。シュウはガーデン内に放送を頼む。ニーダは整備の連中とガーデンを点検してくれ。それから、ガルバディアガーデンとトラビアガーデンにホットラインをつなぐ。この操作を、キスティスに頼む。セルフィとリノア、それにブルーとティナはこの場に残ってくれ。それじゃあ、すぐに行動に移ってくれ。出発は明日の朝8時だ」
『了解!』
 そして、任務を与えられたメンバーは早速駆け出していき、あとには5人だけが残された。
「ふふっ、すっかりリーダーが板についてきたね、スコール」
 リノアが茶化す。スコールはそれには微笑して答えた。
「似合わない役目だっていうのはわかっているんだがな……」
「それで、僕たちを残したのは、一体何のためなんだ?」
 ブルーに尋ねられて、スコールは「ああ」と答えた。そして、世界地図を取り出すとテーブルに広げた。
 何はさておき、ティナとブルーはこの世界に来て日が浅い。説明できることは説明しておかなければならない。
「ブルーとティナは分からないと思うから、地図で説明する。今俺たちがいるのがここ、バラムだ。俺たちはこれから西南の方角にあるウィンヒルという村に行く。ここに、さっきも言った異世界からやってきた者がいるらしい」
「なるほど、それで?」
「さっき話題になってたバラムディアガーデンとトラビアガーデンというのはここから北西のここと、北東のここだ。この2ヶ所を拠点にしてその周囲を徹底的に調べる」
「東の大陸と南の大陸はどうするんだ?」
「今は南の大陸には人はほとんど住んでいない。正直そこに『代表者』がいるとしたらお手上げだな。まあ、ここにはこのガーデンの元校長がいるから、後で連絡を取ってみる。それから、東のエスタなんだが……実はこれから行くウィンヒルに、このエスタ王国の元大統領がいるんだ」
「……なに?」
「この際だから、その人の力を借りることにする。エスタを動かすには、その人に頼むしかない」
 さすがにブルーは信じられないという様子であった。その理由は様々あるだろう。
 何故元大統領ともあろう人間が、そんな国外の僻地に住んでいるのか。そしてスコールたちはどうしてそんなVIPと知り合いなのか。
 だがまあ、協力が得られるというのであればそこまで気にする必要はないのかもしれない。
「なるほどな」
 ある程度の疑問は飲み込むことにした。ここで『どういうことだ』を繰り返してもしかたがない。聞く時間のある時でかまわないだろう。
「でも、ガーデンで移動するわけにはいかないよね。どうするつもり?」
「そのためにセルフィに残ってもらった」
「あ〜、やっぱり……。ラグナロクにラグナ様をのっけてエスタまで行けと、スコールは言うんだ」
「ああ」
「それじゃあガーデンはどうするの? どこに向かうの?」
「F・Hに行く。あそこは情報が集まるところだし、きっと何か手掛かりがあると思う。もっとも、ラグナに会って何の打開策も見当たらないようなら、の場合だが。とにかくセルフィはそのつもりでいるように。それからブルー、ティナ。お前たちは基本的にこのガーデンにいてもらう。お前たちがバラバラになると収集がつかなくなる。F・H、およびバラムを拠点にして、ラグナロクを移動手段としてバラムガーデンに『代表者』を集める」
「ああ、それがよさそうだな」
 ブルーに評価され、スコールはとりあえずほっと一安心であった。
「それじゃあ、セルフィとリノアはティナの世話を。ブルーは俺がガーデンを案内する。かまわないな?」
「ああ」
 そうして、ブルーとティナ、ひとまずはこの2人が出会うことには成功した。だがこの先、全員が集結するかどうか、まだ不安の残る一同であった。






5.故郷にて……

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