ったく、アルティミシア戦だって終わったの、ついこないだだよなあ?
 なんとかエスタだって混乱がおさまったし、大統領やめてきたけど、また厄介ごとに首を突っ込むことになるなんてなあ。
「……あれは、逃げ出したというな……普通はそう言う」
 細かいこと気にするなよ。でも、ま、なんだってこんなにいつもいつも大変なのかね。
「……本当に、ラグナ君と一緒にいると退屈しなくてすむな」
 俺ってもしかして、トラブルメーカーか?












PLUS.11

父と子







just before






「……来やがったな……」
 ラグナは丘の上に立って、巨大なガーデンが近づいてくるのを眺めていた。
「別れてからあんまりたってないけど、あいつ元気かなあ」
 ラグナは子煩悩な台詞を吐いた。愛する女との、たった1人の息子。ラグナの知っているスコールはほとんど子供の時のものしかない。それが、成長した息子を見たとき、わずかに涙腺が緩んだことを覚えている。
「久しぶりに、スコールに会えるね」
 エルオーネが近づいてきて、にっこりと微笑んだ。そうだな、とラグナは優しく答えた。
 ガーデンが着陸し、入り口が開く。
 そして、久しぶりの親子の体面となった。もっとも、この2人の再会というのは、そのような親子の再会というような、感動味のあるものではなかったが。
「久しぶりだなあ、スコール」
「ああ」
「よくエルオーネのメッセージを分かってくれたなあ」
「……こっちも、似たような状況だったんでな」
 ラグナは目を瞬かせると、スコールの後ろに見知らぬ人物が2人、並んでいた。
「異世界から来た、ブルーと、ティナだ」
 2人が会釈すると、ラグナは陽気に「よろしくな」と手を上げて答える。
「じゃあこっちも連れてこないとな。エルオーネ、連れてきてくれや」
 エルオーネが頷いて村へと駆け出していく。その間に、2人は素早く情報交換を行った。
「やっぱり、お前んとこも大変だったか?」
「──敵、か?」
「ああ。七英雄とかいうやつがいかなかったか?」
 よく状況がのみこめなかったので、スコールは簡単にこちらの状況を説明する。ティナとブルーの保護。そして邪龍の襲来。
「なるほどなあ。こっちはこんな感じだったんだが──」
 ラグナから説明を受けて、大体の状況がスコールにも伝わる。ジェラールという人物が空から降ってきたこと、そしてそのジェラールを狙って追いかけてきた七英雄のノエルという男。
「事情は了解した。その人物をこちらで保護したい」
「こっちもそうしてくれるとありがてえな。でも、俺たちも一緒に行くぜ。かまわないだろ?」
 スコールは相手に分かるように顔をしかめた。
「ひでえなあ、そんなに嫌がることないだろ?」
(……あんたがいると調子が狂うんだ……)
 この間は緊急時ということもあって一緒にルナティックパンドラへ突入したが、スコールはこのラグナという男が苦手だった。初めてこの男の存在を知った時からずっとそうだった。
 あの時だって、そうだ。
 アルティミシアとの戦いの後、ラグナと2人だけで会話した時。
 自分は、何も言えなかった。
 ガーデンの代表という立場なら、SEEDという立場なら、いくらでも話すことはできたのに。
 1人の私人としてだと、この男には頭が上がらない。
 人としての格が違う。
 そして何より、今さら──そんなことを言われても、どうすることもできない。
 と、ちょうどその時、エルオーネがジェラールを連れてやってきたのだ。
「あ……」
 ジェラールが目を見開く。そして彼に気付いたブルーとティナも、また。
「…………君、は──」
「あなたは」
 3人は、互いに自分たちが『何』なのかが分かったようであった。3人とも互いに『代表者』であることを、悟ったのであった。
「……初めまして。自分はジェラール。第2世界トレースからやってきました」
「僕はブルー。第14世界リージョンからやってきた。よろしくたのむ」
「私は、ティナです。自分の世界の名前は分かりませんが、よろしくおねがいします」
 3人が互いに自己紹介を終え、とりあえずスコールの提案で全員ガーデンに移乗することになった。今後のことを話し合うにはガーデン内部の方がいいだろうと判断してのことだ。
「なるほどな、8人の『代表者』をどうにか集めなきゃなんないわけか」
 一同は会議室に集まった。ここにいるメンバーは、スコール、キスティス、シュウ、リノア、セルフィ、ニーダ、ラグナ、キロス、ウォード、エルオーネ、ブルー、ティナ、ジェラールの13人である。
 だが結局のところ、話し合っているのはスコールとラグナの2人であった。ガーデン側とウィンヒル側、それぞれの代表という立場で話し合っているため、余計な話題が入り込むことがない。
「とにかく、ブルーとティナとジェラール、この他にあと5人いるってことだな?」
「ただ、その中の1人はこの世界の住人なんだ」
「誰かは、分かってないんだな?」
「ああ。それで、ラグナにはエスタに行って向こうで『代表者』を探してほしいんだ」
「おいおい、俺がか?」
「世界中に8人が散らばっているとすると、エスタにも何人か飛ばされていると考えた方がいいだろう」
「なるほどなあ。するってえと、バラムにウィンヒル、あとはエスタにトラビア、ガルバディア、それから南の大陸と、F・Hといったところか」
「ああ。もう既にガルバディアとトラビアのガーデンには人材を派遣している。バラムガーデンはこれからF・Hに向かうとして、問題はエスタと南大陸だ」
「イデア……まま先生に連絡取れたらいいんだけどね〜」
 2人の会話に入ってきたのはセルフィだ。確かに、そうできればそれがいいのだが。
「……まま先生に、連絡、取ってみようか?」
 おずおずとエルオーネがスコールに聞く。
「……こっちの状況がまま先生に伝わったとしても、向こうの状況がこっちに伝わらないのでは、あまり意味がないだろう」
 遠回しにスコールはその提案を退けた。
「まあ南の大陸はあとあと考えるとして、それよりもエスタの問題が先だ。あそこは未だに空間的に閉じてしまっているし、それなりに人望のあるやつがいかなければ満足な調査もできない」
「なるほどな、それならラグナ君よりも適任者はいないだろう。というわけで、頑張ってきたまえ、ラグナ君」
「おいおい、キロス。お前はついてこないのかよ」
「もちろん、君が来てほしいというならついていってやらないでもないが」
「キロスさん、ウォードさん、お願いします」
 何故かラグナには普通に話すのに、キロスとウォードに対しては丁寧な口調になるスコールであった。
「ふむ、スコール君にお願いされたとあっては、いかないわけにはいかないな」
「えーと……私、は?」
 エルオーネがスコールとラグナに向かって問いかける。スコールとしてはエルオーネに残ってもらいたかった。スコールにしてみればエルオーネはラグナなどよりずっと家族としての意識が強かったからだ。
 優しい、エルお姉ちゃん。
 スコールの中にあった思いは、単に姉としての敬慕だけだったのか、それ以上のものになる可能性があったのか。リノアという存在がある今となってはもはや判断する術もないが、今でもスコールがエルオーネに頼っている部分というものはある。
「エルは残って、スコールの面倒みてやってくれねえか?」
 やっぱり、というような残念そうな表情をエルオーネは浮かべた。
「向こう行ったら忙しくなりそうだし、こっちの方が安全だからよ」
 ラグナにそう言われ、エルオーネは仕方なさそうに頷いた。
「エスタまではセルフィがラグナロクで送る。あとは、定期的に連絡を取り合おう」
「よろしくお願いしま〜す、ラグナ様!」
 セルフィがにっこりとラグナに微笑みかけた。
「ここからエスタまで、ラグナロクなら1日か2日でつくだろう」
 そこで会話が途切れたので、セルフィが期待に満ちた目でスコールを見つめた。
「ねえ〜スコール。ガーディアンフォース、連れてっていいんでしょ?」
「……何を連れていくつもりだ?」
 セルフィはにこにこ笑っている。予想はつく。前の戦いでもずっとお気に入りで独り占めしていたGFだ。
「アレキサンダー、か?」
「えへ、分かる?」
「ああ。仕方ないな、向こうで戦いになったらラグナじゃあ頼りにならないだろうから、好きなのを連れていけ」
「ありがと〜スコール」
 さきほどから、スコールはラグナのことをさんざんに罵っているようにも聞こえたが、それはおそらくスコールのひねくれた愛情表現なのだろうと、リノアは勝手に解釈することにした。今後、そのことについてスコールに尋ねようとしなかったのは、そういう幻想が潰れてしまうことが怖かったからかもしれない。
 そうして、早速ラグナロクの整備とエスタ行きの準備が進められることになった。






 月が、欠けはじめている。もうあと1日か2日で下弦となる。そのままゆっくりと新月へ移行し、やがて再び月が満ちるまで、しばらく時間がかかるだろう。
 セルフィはガーデン最後の夜を新しい友人ティナと一緒に月見酒をして過ごすことに決め、ティナの姿を捜し回っていた。だが、どこへ行ってもティナの姿は見かけない。
「おかしいな……」
 ちょうどその時通りかかったスコールにティナのことを尋ねてみると、スコールもまた顔をしかめた。
「ティナが行く場所なんて、限られているだろう」
「でも、どこにもいないんだもん」
「ブルーやジェラールの部屋は?」
「行ってみたけど、来てないって」
「それなら、テラスはどうだ?」
「誰も──あ、リノアがいたよ。行ってあげたら?」
 スコールは頭を押さえた。
「そんなことを言っている場合か。ティナがいないというなら、探さなければ」
「うん、そうだね。ひょっとしたら外に出てるのかも」
「あまり大事にはしたくない。とりあえずは俺たちで捜索しよう」
「うん、そうだね」
 そうして2人は急遽、いなくなったティナの捜索にあたることとなった。






12.運命の邂逅

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