SeeD。
バラムガーデンが抱えている傭兵のコードネーム。
ガーデン生徒のなかでもとくに高い能力を有する者たちで構成され、戦闘支援などの任務を少数精鋭でこなす。
SeeDになるためには、筆記と実技による2段階の試験に合格しなければならない(受験資格は15歳以上)。
SeeDに認定された者は、各方面からの派遣要請に応じて任務につき、SeeDランクの規定に応じた給料が、一定期間ごとに支払われる。
SeeDの名称は庭(ガーデン)で育つ種(シード)に由来するとされ、傭兵としての行動とは別に、ある「宿命」を背負っているという。
PLUS.13
未来に植える種
SeeD
一方、無事にファリスと出会うことができたアーヴァインであったが、その前途は順風ではなかった。すぐに別の問題が発生していた。
「ちょっと、これはまずいんじゃない〜?」
アーヴァインがその事実を知った時、たっぷりと1分は何も発言できず、ようやく出てきた言葉がそれであった。
「通信施設と駅は完全に制圧下に置かれました。ガーデンの中枢機能も抑えられ、教官たちは全員捕らわれました」
学生テロ。まさかトラビア・ガーデンでこのような事態に遭遇するとはさすがのアーヴァインでも想像の限界を超えていた。
アーヴァインはもともとSeeDではなかった。だがアルティミシアとの戦いの後、その才能を認められてガーデン首脳部の全員一致でSeeD資格が与えられていた。所属はガルバディアのままで、だ。これはガーデン全体で大きな波紋を生むこととなった。ガーデンの中枢がバラムにあったからこそ、これまでガーデン間の上下関係が保たれており、軋轢はあったもののそれが表面化することはなかったのだ。だが、アーヴァインという異分子の誕生が事態を一気に露出させた。まずトラビアで、自分たちのガーデンでもSeeD資格試験を行うように求めたのだ。
当然、その要求は既にバラム・ガーデンにも達していることだろう。今はそんな一地方の些細な問題にこだわっている場合ではないのだが、スコールたちと連絡を取ることもできず、鉄道が使えないために脱出することもできない。まさに八方塞がりとはこういう状況のことをいうのだろう。
(僕のせいなのかな)
学生テロの声明に自分の名前とSeeD資格云々の内容があったことを知ると、アーヴァインも平静ではいられなかった。とはいえ、これは契機にすぎない。そういう不満はもともとアーヴァインのいたガルバディア・ガーデンでもあった。遅かれ早かれ、いつかはこの事態に直面することになったことは違いない。
だからといって、何も今することはないではないか。
それとも、自分がトラビアにいるこの機にとでも思ったのだろうか。どういう意図が働いているにせよ、迷惑なことだけは確かであった。
「で、どうするんだ?」
尋ねてきたのは青年ファリスである。前の世界では海賊の頭でありながら世界を救うことに貢献したという。普通に考えれば到底信じられない話ではあるが、我が身を振り替えると一笑に付すわけにもいかない。それに実際に剣の腕前を見せてもらったのだが、もしかするとスコールと同格といえるほどかもしれないとアーヴァインを唸らせたものだ。
「どうしようもないねえ、これじゃあ」
「やれやれ、これじゃ俺の身も安全というわけじゃなさそうだな」
「そうだね。とりあえず剣を渡しておくよ。学生なんて血走っている奴が多いから、実力行使でこっちの身柄を抑えにかかってくるかもしれないし」
「ありがたくて涙が出そうだね。ま、助けてもらった上、武器までくれるんだ。あんたが危険になった時は助けてやるよ」
「恐縮だよ。僕は弱虫なんでね、守ってもらえるのはありがたい」
「男のくせに、よくもまあぬけぬけとそんな台詞が言えるな」
「仕方ないさ。相手が相手だ。僕にとっては仲間みたいなものだからね」
「命を狙ってくるやつでもか?」
「ま、元は仲間さ」
「知ってる顔でもないのにか?」
「彼らの言いたいことは自分にも分かる。正面きって言い返すことはできないねえ」
「やれやれだ」
ファリスは渡された剣を抜き、刀身を調べながらぶつぶつと愚痴をこぼした。これは嫌われたかな、とアーヴァインは思うが、現在の問題はそこにあるわけではない。
「アーヴァインさん、学生同盟からの通信です」
副長のヴァルツが通信マイクに向かいながら話し掛けてくる。
「あんまり聞きたくないけどなあ」
「どうします、切りますか?」
「とりあえずつないでみて」
「はい」
モニターに表示されたのは、当然ながら若い学生であった。幾分目が血走っており、自分たちの行動に酔いしれているというところだろうか。頑固そうで、真っ直ぐにしかものを見ることができないところが多分にありそうだ、とアーヴァインは判断した。
『はじめまして、SeeDアーヴァイン・キニアス』
「はじめまして。で、おたくは誰?」
『自分はSeeD候補生、レッド・リューオスです』
不快感を覚えた。相手や自分の名前に身分や地位、肩書というものをつけて発言するような人物をアーヴァインが好きになれるわけはなかった。
(候補生はトラビアにはいないはずだけど、なんて言ったら自分たちの主張や要求を延々言われるんだろうなあ)
さてどう切り返そうかと悩んでいると、先に向こうから話しかけられた。
『我々はトラビア・ガーデンの処遇についての地位改善を求めます』
「そんなことを僕に言ってもしょうがないよ。僕は首脳部じゃない。バラムにいるリーダー・スコールに話をしてくれないと」
『もう通信は送りました。あなたの名前でね』
「なんだって?」
『あなたは我々トラビア・ガーデン学生同盟の盟主として、トラビアにもSeeD試験設立をバラム・ガーデンに訴えてくださった、というわけですよ』
「僕が盟主ねえ。そんなものになった記憶はとんとなかったけど」
『あなたはガルバディア所属の身でありながらSeeDという地位にいる。ガルバディア・トラビア、いずれかのガーデンに所属していながらSeeDになったのはあなた1人だ。そうでしょう』
「確かに。だからSeeDの名前を使えばバラムも動く。そう判断したの?」
『それだけではありません』
「というと?」
『もしバラムが聞き入れないようであれば、我々はバラムの支配から独立し、独自の組織として立ち上がるつもりです』
「ふうん」
『関心がおありではなさそうですね』
「そうしたければそうすればいいさ。僕には関係ないことだ」
『関係がない?』
「僕はガルバディア所属だから、トラビア学生同盟とやらの盟主になるつもりはさらさらないしね。どうせやるならガルバディアで旗揚げするよ、地元だし。こんなくだらない権利闘争に巻き込まれるつもりはない。ただ、今回はもう名前を使われてしまった。僕の意思とは関係なしに」
『そういうことです』
「僕は対立する相手には容赦はしないよ。覚えておくことだ」
『我々の敵に回る、と?』
「スコールが僕のことを疑うことはないと思うけど、もしも今回の件で何らかの不具合があるようだったら、僕とみんなとの友情にヒビが入るようなことがあったとしたら、僕は絶対に君たちを許さない。1人残らずね」
『あなたはご自分の立場を分かっておられないようですね。ここはトラビアであって、ガルバディアでもなければバラムでもない。あなたの周りは敵だらけなのですよ』
「バラムから連れてきた仲間が10人。これは全員がSeeDだ。それから助っ人が1人。君たち全員でかかってきても、こちらの方が有利だと思うけど?」
『我々は、SeeDになる素質があるのにトラビアに所属しているというだけでその資格がないだけだ。バラムにいただけでSeeDになれたような人間とは質が違う』
司令部がざわめいた。それは当然のことといえた。確かに彼らは調査を専門とするSeeDではあったが、SeeDになるために血を吐くほどの訓練を受けてきたのだ。時には死ぬことだってありうる。バラムにいただけ、と評されるのは心外であっただろう。
だいたい、本当にSeeDになりたいと思うならバラムへ来ればいいのだ。セルフィのように。その決断をすることもできないような連中に、数が少ないとはいえどうしてSeeDが破れる理由があろうか。
「君たちは、どうもSeeDの本当の恐さを知らないようだ」
『存じていますよ。セルフィは我々トラビアの出身だ。あのセルフィでもSeeDになれたのです。我々の中にはセルフィ以上に腕のたつ奴がいくらでもいますよ』
「もしもSeeDを地位、特権だと考えているようだとしたら、君たちは相当な間抜けだ。SeeDの中で本当に技量に富んでいる人間なんてほんの一握りだよ。SeeDの本当の恐さっていうのは、そんなつまらないものじゃない」
『では、何です?』
「知りたいなら教えてあげてもいいんだけど、残念ながらこれはSeeD機密だから」
『そういって、我々を騙すつもりですか?』
「君たちは、少なくとも3つ、いや4つの間違いをおかしている」
レッド、と名乗った男は顔をしかめてそれを尋ねた。
「まず、SeeDの能力を過少評価していること。何故SeeDはその数が百人にも満たないのに各国が傭兵として雇うのか? それは1人ずつの能力が1個小隊をはるかに上回っているからだ。2つ目はバラムに対して僕の名前で声明を発表したこと。スコールは僕がそんなことをしないことは充分にわかっている。つまり、君たちトラビアの学生たちが僕の名前を利用しているということを誇大に宣伝しているにすぎない。バラムは僕の名前が使われているからって対応を変えたりしない。いや、むしろ君たちにとっては不利になるような対応をせざるをえないだろう。3つ目は情報の漏洩。君たちが何を考え、どう行動するつもりなのかを僕に話してくれたおかげで、こちらも行動の指針が定まった。非常に感謝するけれども、君たちの立場にしてみればまず僕たちを奇襲してくるべきだった。僕たちの身柄を拘束してからでも説明は遅くなかったはずだ。それから最後に、君は僕たちSeeDを侮辱した」
アーヴァインは仲間たちを見渡した。全員が殺気だっている。それも無理はなかっただろう。
「怒らせるべきではなかったんだよ、君たち自身のためにね。僕はガルバディア出身・所属という立場でもあるから君たちの心理は分からなくもないけど、はっきりいって君の発言は僕をすら怒らせた。これはもうどうすることもできない。弁護のしようがない。残念だけど、これ以上の話し合いは無意味だろう。僕たちSeeDがどれほどの力を持っているのか、その身をもって知ってもらうことになるだろう。それじゃあ」
一方的に通信を切り、仲間たちを再び見渡す。既に戦闘体制は充分に整っていた。
「さて、それじゃあSeeDの本当の恐さとやらを教えにいこうか」
「初めて知りましたよ」
「何を?」
「アーヴァインさん、けっこう毒舌家なんですね」
ヴァルツの言葉に、アーヴァインは思わず苦笑していた。
「そうかな〜。正確な批評だと思ったんだけど」
「まあ、幾分すっきりはしました。この上はさらに気分を晴らしてからバラムに帰ることにしましょう」
「そうしよう。で、こちらの行動だけど」
「ちょうど12人ですし、3人1組になって突撃、でどうです?」
「おっ、俺も数に入ってるのか。ありがたいぜ」
ファリスが右手をぐっと握る。アーヴァインもヴァルツも、ファリスが戦いを好んでいること、そして自分たちの味方をしてくれることは既に分かっていたのだ。
「うん悪くない。突撃箇所はどこにする?」
1人が地図をモニターに表示し、その4か所が赤く点滅する。
「この4か所で」
「あれ? 正門は?」
「正門ですか? それはちょっと」
「いいじゃないか、正門から行こうぜ。俺も正門の組に入れろよ」
賛成したのはファリスだった。
「アーヴァインが考えてるのは、つまり示威行動含めた陽動だろ? だったら、一番腕のたつやつが行くべきだ。一番危険な場所だからな」
「でも、ファリス」
「いいだろ、別に。お前もどうせ正門組だろ、アーヴァイン」
「ああ、まあそうなるかな」
「それに、俺の力、ここにいるやつなら全員分かってるだろ?」
「たしかに、ファリスさんなら今すぐにでもSeeDになってもらいたいくらいですね」
ヴァルツがそう答え、アーヴァインは「しょうがないなあ」とぼやく。
「じゃあ後は、実行する時期だけど、みんなも分かってる通り、できるだけ早く、が理想だ」
「早くバラムへ戻らないといけませんからね」
「そういうこと。というわけで、さっさと準備してさっさと終わらせよう。数日で終わるはずだ」
「了解しました。ではすぐに準備に入ります」
「うん。とにかくこの場所はまずい。敵さんに知られている。まず司令部を移す。重要な資料は全部ファイルに落としてから廃棄」
「はい、それではすぐ」
「急いでくれ。敵に先手を打たれたくはない」
にわかにトラビアも活気付いてきた。無論、アーヴァインらの望む方向ではなかったのだが。
(ま、なんとかなるよね)
アーヴァインは頼もしい仲間を見つめながらそう思っていた。
14.追憶への道標
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