愛してる──
 子供のころから、ずっとずっとあなただけを見てきた。
 あなたが、私のことをずっと自分の娘みたいに思っているのは分かっていたけど。
 でも。
 愛してる。
 たとえ、私のことを見てくれなかったとしても。
 私は、あなたを、愛してる。












PLUS.20

消失







disappearance






 ミーティングは自己紹介と、スコールが今後の方針を示してとりあえずは終わった。
 今のところ、ガルバディア、トラビア、エスタ、共に何の連絡もない。トラビアは連絡がとれる状況ですらない。
 既に『代表者』はこのガーデンに五人集まっている。残りは三人。カタリナの世界から選ばれる『代表者』と、この世界から選ばれる『代表者』。そして、まだ不明な最後の一つの世界から選ばれる『代表者』。この三人。
「一つ、気になることがある」
 カインはリディアとブルー、ティナ、エアリスの五人で会議室に残っていた。スコールたちこの世界のメンバーはトラビア対策で忙しいらしい。他のメンバーはといえば、食事にいったのか自分の部屋に戻ったのか、とりあえずここに残ったのはの五人であった。
「いずれの世界でも、世界の命運をかけた戦いがあり、それが終結してここに集まっている。そしてここに集まった『代表者』五人は、そのいずれもがその世界の命運をかけた戦いに参加し、中核となったメンバーだ」
 確かにな、とブルーは頷いた。
 ブルーは魔法王国を代表して時を統べる者と戦った術士であり、パーティのリーダー的存在として活躍した。
 ジェラールは七英雄と呼ばれる存在と戦っているアバロン帝国の皇帝であり、実際にその中の一人を破っている。
 エアリスは星を滅ぼす存在であるジェノバと戦い、死をとげた。しかし白マテリアを発動したことから星が救われた、いわば星にとっての救世主となったわけである。
 ティナは世界を滅ぼそうとした人神ケフカと戦い、これを倒した。メンバーの中で中心的存在であり、幻獣と心を通わせることができた唯一の人物であった。
 リディアはゼロムスとの戦いで黒魔法、召喚魔法を使った術士で、幻獣の王リヴァイアサンに愛された娘だ。
「幻獣、というのが気にかかるな」
「幻獣界については、リディアとティナが詳しいだろう」
 リディアがティナを見てから、自分で発言した。
「うん……幻獣界は、十六ある世界の、まさに中心」
「一つ確認しておきたい。幻獣界は、十六の世界の一つなのか、それとも十六世界の他にあるのか」
 ブルーの質問に、ティナが答えた。
「十六の世界それぞれが幻獣界につながっているの。だから、十六世界の他にあるということ」
「分かった、続けてくれ」
「幻獣は、十六の世界のどこにも現出が基本的に可能。でも、その現出の形態は世界のあり方によって変わるもの。たとえば私たちの世界なら魔法を使って召喚する。この世界ならガーディアン・フォースと呼ばれ、召喚獣を『装備』する形になる」
「私の世界と、かなり似ている」
 ティナに続いてエアリスが言った。
「私の世界だと、召喚マテリア、魔法マテリアっていう、う〜ん、魔法が封じ込められた石みたいなものを使ってた」
「ではエアリスはこの世界では魔法が全く使えない?」
「うん。ぜんぜん」
「僕のいたところだと、そういう召喚獣自体が存在しないな。いることはいたのかもしれないが、誰もその使い方を知らない」
「世界によって随分と差があるらしいな。それはともかく、俺が言いたいのは、この世界の『代表者』もやはり、先の戦いに関わった人間たちの中にいるのではないか、ということだ」
「それは僕も考えた。でも、スコール、リノア、キスティス、ゼル、アーヴァイン、セルフィ、誰も『代表者』としての気は感じなかった」
「まだ『代表者』ではないから、そう感じないだけかもしれない」
「だとすると発見は難しくなる」
「そうかもしれないが、その六人に絞ることはできるだろう。いずれにしても、どうすれば判断できるか、その基準が分からなければどうすることもできない」
「基準は、ないわけじゃない」
 リディアの言葉に全員が目を見張った。
「それはたった一つ。世界が一番愛している人物であること」
「世界が、愛する」
「世界にも心がある。人が死ねば苦しむし、赤ちゃんが生まれたら喜ぶ。でもその中でも一番大好きな人間が、その世界の『代表者』になる」
「なるほど、世界に愛されし者か。世界の命運をかけた戦いに参加した人間から選ばれるのは、ある意味当然のことなのかもしれないな」
 と言いつつ、カインは何故セシルではなくリディアなのか、疑問に思っていた。自分を選べ、などと言うつもりはないが、セシルこそあの世界のリーダー、代表に相応しいではないか、と。
「アルティミシアという人物がこの世界にもっとも愛された者だったというわけか。未来の魔女……だが、それはもういなくなった」
「そうなるな。とすると、アルティミシアの次に世界から愛されていたものが、現在の『代表者』ということになる」
 ブルーの説明は確かに理が通っている。だが、それを見つける手段がないことにはかわりがなかった。
「魔女か……となると、現在の魔女は」
「リノアさんです。でも、リノアさんからは『代表者』としての感じはまるでありません」
 ティナが声をあげる。それは他の全員も同じらしく、一様に頷く。
「むしろ何か、作為的なものを感じる」
 そう言ったのはエアリスだった。その言葉の意味が分からず、全員が疑問をエアリスにぶつける。
「作為、とは?」
「最初に会ったとき、何か変な感じがしたの。う〜ん、何て言ったらいいのか分からないけど」
「説明してくれなければ、俺たちにも分からない」
「そうだよね、ゴメン。でも何かおかしいと思う」
 ガーデンのメンバーについては既に一通りの説明は受けていた。
 アルティミシアと戦った六人のうち、五人までがイデアの孤児院で育ったという。そして残りの一人が、スコールたちと一緒に戦い、途中で魔女となったリノアであった。
 偶然? いや、確かにそこには作為らしきものを感じる。
 何故リノアだったのか。
 魔女として選ばれたのは何故リノアだったのか。
(だが、まあ終わったことだ)
 今考えなければならないのは『代表者』のことだ。
 この世界のどこかにはいるはずだ。
 だが、どこにいて何をしているのか、全く分からない。
 探す方法すら見当たらない。
(どうすればいい)
 方法はいくつか考えられる。
 今いるこの五人の『代表者』を世界各地に派遣して探し出すという方法がまずもっとも堅実な方法だ。
 だが時間がかかる。
 世界が消滅するまでの時間などは全く分かっていないが、そんなに長い時間だというわけではないだろう。
 迅速に、かつ確実な方法がほしい。
(だが、どうすればいい)
 結論はない。
「この先、どうするかが問題だな」
 ブルーが口にする。それが結局のところ問題の本質であり、全員が考えなければならないことであった。
「トラビア、エスタ、ガルバディア……こういった地域に派遣したSEEDたちがどういう情報を持ち帰ってくるかが問題だな」
「待つ、ということか?」
「移動するにしても、どこに動くかが決まらないし、どうやって動くかも問題だ」
 カインの意見は正論だった。
「あのラグナロクという移動機械。あれを使うことができればいいんだが」
「なるほど。つまりはエスタからの連絡待ちというわけか」
「キスティスが何度も連絡を取っているらしいが、一向に反応がないらしい。ラグナロク自体は無事らしいから、報告業務を怠っているといったところだろう」
「それで、連絡が取れたらどうする?」
「向こうの状況にもよるが、何も進展がない場合はラグナロクだけでも帰ってきてもらうのが一番だろう。元大統領とかいう人物にはそのまま残って『代表者』を探してもらう」
「賢明だな」
 ブルーは頷いた。
「トラビア経由になるかもしれないがな」
「トラビアといえば、確か学生革命が起きたとか」
「SeeDはいずれも屈強の戦士らしい。学生が反乱したところでどうにもならないだろうが……どうやら通信施設が占拠されているようだ。最悪破壊された場合、完全に向こうとは連絡が取れなくなる。現段階でも向こうの様子はわからないがな」
「それでラグナロクを向こうへ?」
「時間を有効に使うならな。だが一人で危険ではないかということ、ラグナロクのパイロットが反乱の起こったトラビアの出身であることから冷静さを奪われたりしないかということ、いろいろ不安要素はある」
「いずれにしても、どこも連絡待ちか」
 そう。
 結局、今自分たちにできるのは移動手段を有しているセルフィからの連絡を待つということだけなのだ。
 だが、その時間があまりにも惜しい。
 今できることは他にないのだろうか。
(今、できること……)
 カインは、今の自分に何ができるのだろうか、とふと思った。






「あら」
 F・Hのとある酒場に、先程顔を合わせたばかりの二人がはちあわせた。
「こんなところで何をしているの?」
 綺麗な笑顔で話し掛けてくる女性に、男は顔をしかめた。
「そういうあんたこそ、ここはあんたみたいな人がくるところじゃないんだな、と」
「ちょっと、ヤケ酒したくって。レノさん、でよかったよね」
「呼び捨てでかまわないぞ、と。そういうあんたは、エルオーネ」
 妖精のような着物をきた清楚な感じのする女性は、にこやかに微笑んでからレノの隣に腰掛けた。
「ふうん、あんなにたくさん人がいたのに覚えててくれたんだ」
「一度会ったことのあるやつなら忘れることはないぞ、と。何か注文は?」
「そうねえ。ウイスキーをロックで」
「本気か?」
 とても目の前の女性は酒など今まで飲んだことがあるようには思えなかった。
「やっぱり、キツイ?」
「酒を飲んだことは」
「ないの。一回も」
「それじゃやめておくんだな。何か口当たりのいいワインにしておいた方がいいぞ、と」
「ふ〜ん。じゃ、選んでくれる?」
「……マスター」
 レノが適当に果実酒を選び、エルオーネに勧めた。一口含んで「おいしい」と喜びの声を上げ、微笑む。
「飲みやすいが、無理はしない方がいい」
「うん、ありがと。レノはどうして一人で飲んでたの?」
「別に理由はないぞ、と。仕事も終わったし、今は自由時間だぞ、と」
「さっきから思ってたんだけど、変な口調だね」
 レノは肩を竦めて答えなかった。
「自由時間だからって、別に一人で飲むことはないんじゃないの?」
「そういうあんたこそ、酒も飲んだことがないのに何故ここへ来た?」
「だから、ヤケ酒だって。好きな人に逃げられちゃって」
「ふ〜ん……ま、人生いろいろなんだぞ、と」
「あはは、面白い人だね、レノって」
(どうやら、もう酔っぱらってきているようだぞ、と……)
 エルオーネはけたけた笑いだし、顔も赤く染まってきていた。ワインとはいえ、そんなに度数は高くないものを選んだはずだったのだが、やはり初めてというとこんなものなのだろうか。
「ねー、おかわり〜」
「もうやめたほうがいいと思うぞ、と」
「飲みたりない〜」
「やれやれ、とんだお姫様だぞ、と」
 レノは早くもカウンターに頭を落として眠りにつこうとしていたエルオーネの肩を担ぎ、酒場を出た。
(やれやれ、俺は何をやっているんだぞ、と)
 一人でゆっくりと飲んでいるつもりが、妙な女に乱入された。レノにしてみるとまさにそういう心境であった。
「う〜ん、ラグナおじちゃん……」
 その寝言は、当然レノの耳にも入ってきていたが、聞かなかったふりをした。






21.落ち着ける場所

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