そう。確かに不思議な話だ。
 理由が全く分からない。何のために私に近づいたのか。そして、消え去ったのか。
 だが、一つだけはっきりしていることがある。
 彼女はどんなことでも、決して目的のない行動はしない女性なのだ。












PLUS.55

世界を奏でる音色







princes guard






 次の日の昼にはゼルたち一向がラグナロクへとやってきた。既にその情報は伝わっている。ゼルが連れてきたのはユリアンとう緑色の髪をした青年であり、自分たちが連れているのはモニカという紫色の髪をした姫であるということ、そして二人は同じ世界から来た仲間、さらに言うなれば恋人であった、ということだ。
 ゼルが運転するジープが止まるよりも早く、青年は飛び下りた。待っていたモニカもその青年の元へと駆け寄る。
「姫!」
「ユリアン……ユリアン!」
 モニカは涙を流してその青年に飛びついた。ユリアンもしっかりと彼女を抱きとめる。
 ユリアンにしてみると、モニカがここに来ていたということは最初全く知らなかった。何故この世界に来たのかも分かっていない。いろいろと話したいことがある。代表者、変革者といったことは話に聞くようになっていたが、その中で自分たちはどういう役割を課せられているのか、そしてこれから何をしていかなければいけないのか。
 だが、今は再会した感動の方が先だ。
「姫……お会いしたかった」
「すみません。突然、あなたの前から立ち去ってしまって」
「それはかまいません。ですが、いったい──」
「必ず、お話します。でも、今は……」
 モニカはユリアンの胸に顔を埋めた。
「今は、このままで……」
「はい」
 ユリアンは再び、モニカを抱きしめた。
 アビスとの戦いからいったいどれだけの時間がたっただろうか。この世界で再会できるとは思っていなかった。
 だが、今ここにモニカがいる。
 そして、自分はモニカを守るためだけの存在であるプリンセスガード。
 命をかけて姫を守るのが、自分の使命だ。
 そして、自分の意思でもある。
「いいなあ」
 その様子を見ながら、セルフィはそう呟いた。からかうようにファリスが答える。
「羨ましいのか?」
「ん〜、まあね」
 少し悩んだように、セルフィは答えた。
「一つ聞きたいんだが」
「何?」
「セルフィが理想に抱いている王子の姿は、銀色の長い髪をした男なのか?」
 セルフィは返答に詰まった。
 そうなのかもしれない、とは思っている。だが、はっきりとはしない。
 彼は、常に自分の傍にいて力づけてくれていた。自分にとっては、ひとまずはそれで充分だった。それ以上の存在になるのか、そうでないのかは時間が教えてくれると思っていた。
 だが、今こうして離れてみると。
「そう、なのかもしれない」
 そうなのかもしれない。断定はできない。そのあたりがセルフィにとっての限界であった。
「よう、セルフィ」
 そこに、数日ぶりに会う仲間から声がかかった。ゼル・ディンだ。
「まみむめも〜♪」
 答えて、握手する。その隣でファリスが不可思議そうな顔をしていた。
(まみむめも?)
 それがセルフィ独特の挨拶であることをまだ彼女は知らない。
「紹介するね。こっちがファリス。こっちはゼル」
「よろしくな」
「ああ」
 ファリスとゼルも握手する。その握った感じでゼルは顔をしかめた。
「言っておくけど、ファリスは女の子だから」
「へえ〜」
 ゼルはまじまじとファリスを見つめた。それが失礼な行為であるということは、彼の頭の中にはなかったようだ。
「何か?」
「いやあ、あんまり女には見えねえけど、うん、よく見るとべっぴんだな」
「セルフィ。俺はもしかして、決闘を申し込まれているのか?」
「へ? いや、そ、そうじゃねえよ。気に障ったんなら謝るよ、悪いな」
 ゼルが頭をかいて平謝りしている。そのやり取りが面白かったのか、セルフィはくすくすと笑う。
「さーて、再会も終わったことだし、みんなと合流しに行こうか」
 セルフィは集った仲間たちにそう言った。数を倍に増やした一同は、次々とラグナロクに乗り込んでいった。






「発信先、トラビア?」
 その夜、連絡を受けたシュウはまず疑念を抱いた。既にセルフィたちはティンバーへ向かっている。それなのにトラビアから通信が送られてくるということが解せない。
「とにかく、出てみなさいよ」
 キスティスがそう言うのでシュウは頷いてマイクに向かった。
「こちらバラム・ガーデン、受信者シュウ。そちらは?」
『こっちはトラビア・ガーデン。発信者はラグナ・レウァールだ』
「ラグナ大統領!?」
 キスティスが慌ててマイクに向かう。二人とも面識があるとはいえ、関係が深いキスティスの方が会話相手としては都合がいいだろうと判断し、シュウは通信席を譲った。
「かわりました、こちらキスティスです」
『お、キスティスか。元気か?』
「まあ、何とか。てっきりセルフィと一緒に行動していると思っていましたが、どうなさいましたか?」
『いろいろあってなあ。とりあえずトラビアを建て直す人材がいないっていうから何とかしてやろうと思ってな』
「それじゃあ、トラビアに残留していらっしゃるのですか?」
『そういうことだな。はっはっは』
 無意味な笑いだが、この場合はありがたかった。常に楽観的でいられるのは会話の相手にとっても落ち着きを与えてくれる。
「セルフィはそのようなことは言ってなかったですけど」
『あの娘はちょっといろいろあったからな』
「いろいろ?」
『ああ。説明する』
 そこで初めてキスティスはセフィロスという人物の存在と、その行動の一部始終を知るに至った。もちろん、彼がウォードを殺したという事実も。
「ウォードさんが……」
『まあ、それは仕方ねえことさ。それよりセルフィの方がちょっとまいっててな』
「その件については合流した時に尋ねてみます。では現在トラビア・ガーデンの復興を指揮していらっしゃるのはラグナ大統領なのですね」
『大統領はやめろって。ま、そういうことだ。ところでスコールはいるかい?』
「スコールは……現在ガーデンから離れているんです」
 苦しい言い訳だった。事実には違いないが、事を公にするわけにはいかない。ラグナはその様子を敏感に感じ取ったのか、それ以上追究しようとはしなかった。
『そうなのか? それならキスティスでもいいや、伝えておかなきゃならねえことがあるんだ』
「なんでしょうか」
『ハオラーン、って知ってるか』
「ハオラーン? 古き神であり、詩人の?」
『いや、詳しいことは知らねえんだけどよ。う〜んと、どこから話せばいいんだ? つまりキロスがエルオーネに呼ばれて、娘に出会って、それでハオラーンが南の大陸にいることを伝えろって言われたんだよ』
 全く理解ができない。もともとラグナは理論的という方ではなかったが、それでもできるだけ相手に分かりやすい説明を行っていた。以前と比べてもその心づかいがなかったといっても過言ではなかった。
 ウォードがいなくなったからだ。
 そう、キスティスは判断した。このような陽気で気さくな人物でも、長年の仲間がいなくなるという事実に疲労しているのだ。
 人間らしい、彼の一面を垣間見た気がした。
「ええと……つまり、その……」
『ああ、すまねえな。とにかくエルオーネからの情報だ。ハオラーンは南の大陸にいる。俺にはよく分からねえんだけど、そっちならそろそろ情報も集まってるだろうし、何かの参考になるかと思ってよ』
「そう、ですか」
 ハオラーン。
 あのエデンで出会ったハオラーンが南の大陸にいる。
「情報、感謝します。大変参考になると思います」
『役に立ってくれるならよかったぜ。それじゃ、またな』
 通信が途絶えて、キスティスはほーっと息を吐き出した。
「シュウ。どうしようかしら」
「どうしようって言われても、何の話なのか私には分からないわよ」
 それはそうだ。キスティスは少し悩んでから告げた。
「とりあえずこの件について少し皆で考えてみたいわ。今までのことを整理する意味も含めてね。全員が集まったら会議を行いましょう。参加者はできれば少ない方がいいのだけれど……」
「カインたち全員と私たち。それで何か問題が?」
「……いえ、それでいいわね」
 キスティスは頷くと自分の席に戻った。
(ハオラーン……)
 世界の趨勢と滅びとを歌う古き神。その存在を確認しているのは、少なくともキスティス、ティナ、リディアの3人。
「いったい何者なのかしら」
 そして、何を知っているというのか。
 必ずもう一度会わなければならない相手。たった今、そのようにインプットされた。






「ところでよ、キロス」
 通信を終えてラグナは隣に座るキロスに話しかけた。
「……何だ、ラグナ君」
 ラグナはにやにや笑って、キロスの顔をのぞきこんだ。
「お前に娘がいるとはね〜」
「……私も確認したわけではなかったのでね」
 キロスはやれやれ、とため息をついた。それは彼らしくない仕種であった。
「話してくれないのか?」
「別に面白い話ではないと思うのだが?」
「いやあ、聞きたいねえ。お前は何かっていうと俺のこと笑い物にするけど、たまには逆っていうのもいいんじゃねえか?」
「ラグナ君。そういうのを野次馬根性というのだ」
 用法が異なっていたのは、彼もまた動揺していることの証拠であったかもしれない。
「……エスタで一段落ついた時のことだ。私は一人の女性と出会った」
「へ〜、全然知らなかったぜ」
「ラグナ君は公務でしばらく地上にいなかったからな。私は別に恋とか愛とかを抱いていたわけではなかったのだが」
「なんだよ、それ」
「私にもよく分からなかったのだよ。若気のいたりというやつだな」
「色恋ざたには縁がなかったもんな〜」
「私のような男を好むとは、趣味が悪いというべきだな」
「……お前、自分が変だってこと分かってたのか」
「一般論としては分かっているつもりだ。とはいえ、これは私のポリシーなのでね」
 異彩な服を示して言う。ラグナも返答に困って何も言えなかった。
「彼女は私に名前を教えてくれなくてね」
「なんだそりゃ」
「何度も会っていたのだが、それは教えられないの一点張りだった。最後までな。だいたい、3か月くらいだろうか」
「そんなに? 変だとは思わなかったのかよ」
「とは言われてもな。私は傍にいてくれれば充分だったし、彼女もきっとそうだったのだろう」
「それにしてもなあ。それで何で別れたんだよ」
「突然いなくなった。ある日、突然だ。それ以来彼女とは会っていない」
「……ふられたのか」
「かもしれないな。3か月。子供ができて、それが気づくには充分な時間だ」
「……ちょっと待てよ、おい」
 ラグナはキロスに顔を近づけた。
「初めから子供を目的に?」
「可能性はある。私でならなければならない理由はないと思うのだが」
「相手が誰でもよかったっていうわけじゃなけりゃ、子供を生みたいけどそれがお前の邪魔になる……ってわけでもないし、うーん」
「こうなってみると不思議な話だと言わざるをえまい」
「いや、その話自体が不思議なんだがな」
「いずれにしても、彼女の子供に違いあるまい」
「他に心当たりはないのか?」
「ない」
「ふうん」
 ラグナはにやにやしてその顔を下から覗き込んだ。
「……何のつもりだ、ラグナ君」
「いやあ、こうやってお前を詰め寄るのは初めてだったからなあ」
「昔話はこれくらいにして、そろそろ作業に戻るとしようか」
「逃げるなよ、キロス」
 先に立ち上がったキロスをラグナは追いかけた。戦友が自分の過去を話してくれたことが、この男にとっては何よりも嬉しいことであった。
 そして二人にとって、束の間、悲劇を忘れることができる時間でもあったのだ。






56.三つの罪

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