リーダー。
 その言葉はある一人の人物を連想させる。自分などよりはるかにリーダーとしてふさわしく、人間として高潔な男。
 セシル。
 あいつは常に俺と共にいた。生まれた時も場所も違う俺たちの気があったのは、いったいどういう運命のいたずらであったのか。
 同じ君主に仕え、そして、違う道を歩んだ。
 あいつは正道を歩き、俺は背信の徒となった。
 今、自分はリーダーとして行動しようとしている。手本となるのは無論、あいつだ。
 あいつの行動に間違いはなかった。あったとしても、それと正面から立ち向かい、正そうとした。
 それが今、自分に求められている。
 過去の過ちを真摯に受け止め、正道に立ち戻らなければならない。
 そしてここに集う戦士たちに信頼される人間とならなければならない。
 自分にできるだろうか。
 だが、やらなければ。
 そうすることこそ、罪の償いになるのであれば。












PLUS.59

集いし者たち







recounting of event






 全員がこの会議室に集まったのは午前九時のこと。総数は一七名、ここで初めて会議を行った時のメンバーが一三名であり、その内の半分以上が入れ代わっている。
 新しいメンバーが加わったということもあり、会議はまず自己紹介から入った。そしてリディアやブルー、ジェラールといった『世界』の事情を知っている人物が中心となって各世界ごとに人物を整理しながら自己紹介をしていく、という形になった。



 まず最初に第十世界キトレニア。ここから来た者はリーダーのカインと、幻獣に愛されし者リディアの二人である。



 ここで改めてカインがリーダーとしてふさわしいか否かの審議が行われた。反対する者は誰一人としていなかった。ファリスやモニカなど新しくここに来た者はカインという人物がよく分かっていなかったため、判断することからして不可能であっただろう。また、ガーデン内の人間、ゼルやヴァルツなどはあまりいい顔はしなかった。とはいえ、ガーデン業務とは切り離された立場のリーダーである。特別反対する理由はなかった。
 というよりも、ガーデンは彼ら異世界の人間たちに協力して世界を救うことを衆議一決しているのであり、異世界の人間を取りまとめる代表者が必要であった。その代表者とガーデン側の代表者とが基本的に全体を仕切る形になることは間違いないのである。
 そのような説明を行ったのはシュウである。特にゼルなどがかなり不満を持っていたようなので、ブルーなどが説明するよりもシュウから説明した方が反発が少ないだろうと判断した上でのことであった。
 ここでさらに、カインが今後しばらく戦闘に参加することができない旨が伝えられた。以前の死亡事件において、戦士としてはともかく、竜騎士としての素質が失われている。それを取り戻すまでは自分は戦場に立つことができない、立ったとしたなら必ず足手まといになるだろう、と自ら述べた。
 竜騎士として、風を感じられないのは致命的ともいえる。風を受けて空高く舞い上がることができない以上、その人物は竜騎士とはいえないのだから。そして竜騎士であるという事実が自信となって、戦士としての力量も十分に発揮されるのである。すなわち、現在の状態では戦士としても役不足なのである。そのことを誰よりもカイン本人が分かっていた。周りの方が分かっていないくらいである。
 戦いに復帰できる見込みすらカインの中にはなかった。先日の戦闘でも結局風を感じることはできなかった。一生このままではないだろうか、という不安すらこみ上げてきていたのだ。
 それでもリーダーとしての職責だけはしっかりと果たしていた。その態度を見ているガーデンのメンバー、そして異世界の人間は確かにリーダーにふさわしい人物であると判断できたのである。



 そして幻獣に愛されし者、リディアである。彼女は幻獣王の妻であるアスラからの命令及び自らの願いでこの世界へとやってきた『代表者』である。
 だがここ数日、彼女の精神は病み疲れていた。カインを結果的に助けることができなかったという無力感、エデンを封じることができなかったという無力感、何をしても自分が全く無力であるということを思い知らされ、自分の存在意義を見失っていた。
 正直、この場に出てくることからして苦痛であった。今はそっとしておいてほしかった。人と触れ合ってはいたくなかった。特に、
(カインには、今は、会いたくない)
 この会議が始まってからも、いやカインの復活からここまで、リディアはまともにカインの方を見ようとはしていなかった。話をしようとはしていなかった。
 そして避ければ避けるほど、彼女は自らをおとしめていた。
 半ば鬱になっていた彼女は、この会議においても説明だけは行っていたが、全く会話に参加してはいなかった。



 第二世界トレース。ここから来ているのはトレースでは最も権勢を誇っているアバロン帝国の皇帝ジェラールである。
 だが彼からは威厳というものが全く感じられない。穏和、という表現がぴったりくる青年であった。だが彼に威厳がないわけではない。普段は普通の青年を装っているだけであり、必要な時に必要な資質を出すことができればそれでかまわないと考えているのである。
 彼もまた、世界の危機を知って自らこの世界へとやってきた『代表者』である。自らの国が危地に陥っているというのにも関わらず、頼れる後継者に国を任せて自らは世界そのものを救うために尽力しているのである。
 何もかもを捨てて、たった一人で。
 それだけの責任感と義務感を兼ね備えた人物であること、そして不仲な者同士の接着剤となる穏和な性格、この二つからカインやブルーの信頼をかちえている。このメンバーになくてはならない人物である。彼がいなくては個性が突出したこの仲間たちはスタンドプレイに走ってしまうだろう。



 次は第一一世界リージョン。ここからやってきたのはブルーとアセルスの二人である。



 ブルーはもはやこのメンバーにおいては不動の『参謀』である。カインもキスティスも、そして前リーダーであったスコールも、彼の助言に何度も救われている。頭の回転が早く、感情を排して常に冷静な意見を吐く。それだけに参謀として彼ほど優秀な人物は他にいなかった。
 その彼が唯一感情的になるのは双子の弟ルージュの存在である。彼とルージュとは全く同じ使命を帯びている。対象が異なるだけの使命。それは、互いを殺すというものである。
 彼らが育った場所はマジックキングダムという魔法学院であった。彼らは学院の命令に逆らうことはできない。例え今はなくなっているとしても。彼らは互いを殺すことを至上の自己命題としている。ブルーにとってはまさに、世界を救うこと以上に大切なことであった。
 その彼が世界に愛された者であり、選ばれた『代表者』であるということは皮肉であろうか。決闘を行えば、勝つ確率は五分といったところである。この世界に来てから初めてまみえた時は彼の方が優勢であった。リノアやレノがいなければ勝っていたのは自分だろう。だが二度目に戦った時は自分の方が劣勢であった。ルージュは間違いなく生き残っているが、自分はアセルスがいなければ助からなかっただろう。
 運も実力も、互いに五分。なにしろ運命の全てを分け合っているのだから。だからこそ勝つか負けるかもまさに五分。半丁博打と何らかわりはない。
 その、五分の確率で死ぬ可能性のある人物が『代表者』なのである。問題がないはずがなかった。これはこの後の会議で触れられることになる。



 そしてそのブルーの友人であるアセルス。彼女はブルーを助けるためにこの世界へとやってきた。そしてもう一つの目的、自分が人間に戻ること、それを達成することも考えている。
 彼女は人間ではない。半人半妖なのである。その証拠に、血の色も人間の赤と妖魔の青が混ざった紫色をしている。
 妖魔は敵を自らの武具に封じ込めて、それを自らの力と成す。召還士が幻獣と力を合わせるのとは全く異なる。そして彼女は普段は人間の形をしているが、いざ戦闘となると妖魔の血を解放する。そして敵を吸収するのである。
 といっても、吸収する相手はかなり限定される。エデンのような人造のGFはまさに理想的であったようだが、詳しい基準というものは明らかではない。ただそれは、人間に戻るために必要なものだという。



 次はティナである。彼女は出身世界が不明であったが、リディアやブルーの推測から第一三世界ユトランドであろう、ということになった。
 彼女はユトランドの『代表者』であるが、自らの意思でここへ来たわけではない。気がついたらこの世界にいた。自分の身に何が起こったのか全く分かっていない。それでも自分の役割を自覚し、世界を救うためにこのガーデンにいる。
 彼女もまた人間ではない。彼女は幻獣マディンと人間の女性とのハーフである。かつてはそれが幻獣界でさまざまな問題を引き起こしていたが、現在では幻獣が人間に心を開き始めているという。
 そのため、生来彼女には魔法の力が兼ね備わっている。魔法は誰もが使えるものではない。本人の資質が何より重要であるが、彼女はそれが特に強く、幼い頃から無意識のうちに魔法の力を現出させていたという。そのために忌み嫌われたり、何者かに利用されたりということがあった。それを知り、なるべく人との接触を避けようとしていた。
 そのため、彼女は二つの障害を持つことになった。一つは感情、特に恋愛という点において全くその機能が働かないということ、もう一つは人の多いところが苦手になったということである。
 幸いガーデンは、一時期のティナブームを除けば、かなり静かな環境ということができ、最近では随分と落ちつけるようになっていた。
 同時に、彼女は初めての感情を持つようになっていた。恋愛。彼女にとってはまさに初恋である。その相手はリーダーのカインであるが、その気持ちについて、まだ本人がよく理解できていない。ましてやカインがそういった感情とは無縁な人間であるため、この点についてティナは二つの問題を同時に抱えることになっていた。
 人を愛すること。
 カインを愛すること。
 どちらも彼女には難しく、後にも先にも行くことができないというもどかしい立場に立たされることになったのである。
 一方、戦闘に関してはエデン戦を見ても分かるように、非凡なところを証明している。最初は『代表者』ということで守られていたのだが、剣も魔法もSeeD以上に使えるということが判明してからは第一線で戦うようになった。結果が出てはいないが、彼女なしではエデン戦でも競るところまではいかなかっただろう。



 ティナと同様、カインに恋愛感情を抱いているのがエアリスである。彼女はやはりブルー、リディアらにより、第七世界ゼルヴァータの人物であろうと推定された。
 同じような感情を抱きながら、エアリスはティナよりも積極的であり、かつカインと先に出会っているという好条件を得ている。お互いが既に、話こそはしていないものの、恋のライバルであるということは理解していた。そしてエアリスは自分のために、ティナにカインを譲るつもりなど毛頭なかった。
 一度失い、二度までも失ったものを、彼女は手に入れようとしていたのだ。神様からのプレゼントである、と彼女自身は思っていたが、そのプレゼントはどうも堅苦しくて自分の手には余る人物のようであった。もちろん、諦めるつもりなどはなかった。
 戦闘においては、こちらはティナよりもはるかに劣っていた。戦闘員としては数えられなかった。彼女は『代表者』としてのみ、この場所に存在していた。それが全体としては、やや居心地が悪い。何の役にもたてていないという意識が彼女を苦しめていたのだ。
 戦えない理由はある。もともと彼女は魔法使い、マテリア使いであった。しかしこの世界にはマテリアというものが存在しない。そのため彼女は魔法を使う能力を奪われたのだ。もともと戦う能力には長けていなかったので、ここにきて戦闘では全く出番がなくなってしまったのである。



 第五世界アルトゥールからやってきたのはファリスである。彼女は(彼は、ではない)故アーヴァインがトラビアで発見した人物で、この場に到着して初めて自分が『代表者』であると知った。自分と同じように輝く人物が五人、この場所に集っていたのだ。リディア、ジェラール、ブルー、ティナ、エアリス、彼らもまたファリスが『代表者』であると悟った。そしてここにようやく『代表者』の六人目までが集ったのである。
 ファリスはSeeDをはるかに凌ぐ剣の使い手であった。まだこの時点では判明していないが、彼女は戦士としては、カイン、ジェラールに次ぐ実力を有していた。相当の使い手だということは既にガーデンに知らされていたが、後に彼女の実力はここにいる者たちを驚かせることになる。
 彼女は望んでこの世界に来た、というわけではなかった。だがカインのように知らないうちにこの世界へ連れて来られた、というわけでもない。どういうことかというと、第5世界アルトゥールでは彼女の他にもう一人『代表者』となる候補がいたのだが、彼女はその人物に『代表者』などという面倒な地位につけたくはなかったのだという。実際、彼女がこの世界にやってきてからはトラブルの連続であり、とても自分でなければ乗り切ることはできなかっただろう、と思っている。
 彼女の敵はエクスデスという暗黒魔導士であった。これはもう既に死んでいるが、彼によって殺されたアーヴァインのかわりとして、彼女は今ここに参加している。
 よって彼女ほどガーデンの人間に対して申し訳なく思っている人物は他にはいない。いわばアーヴァインは彼女の巻き添えとなって死んだのであり、自分が巻き込まなければ今でも彼はニヒルな笑みを浮かべて仲間とともにいたはずなのだ。
 そのアーヴァインを殺したエクスデスがいなくなって、怒りのぶつけどころがなくなっている、そういう状態であった。そのためにも今はやることがあった方が彼女のためにもよかったのだろう。



 次は第四世界ペルジスタン。ここからは最も多く三人来ている。しかしそのいずれもが『代表者』ではなかったというのは皮肉であろうか。
 まずモニカである。彼女はロアーヌという国の王妹である。政略結婚の道具に使われそうになり、その時プリンセスガードをしていたユリアンと共に城を脱出、以来兄とは一度会ったきりで国に帰ってはいなかったという。
 モニカはユリアンとの旅の途中、八つの世界の崩壊を知り、それを食い止めなければならないと考えた。しかし、それを行う力が自分にないことを知った。それを行うことができる人物は既にこの世界へ来ているという。そのため、その人物を助けるために追いかけてきたというのだ。
 しかし、この世界のルナサイドベースまで到達したはいいが、そこから行動することがかなわなくなった。幸い、異世界の住人を探していたラグナ大統領の網にかかり、運よく今の状況となったのである。



 ユリアンはもともとは単なる冒険者であったのだが、モニカとその兄の強い要請によってプリンセスガードに加わった。それ以後、モニカの護衛兼恋人として、常にその傍にいてモニカを守りつづけていた。
 彼がここへ来たのは、モニカがこの世界へやってきたことのいわば巻き添えであろう、と判断された。彼は少しだけモニカを睨んだ。何故巻き添えにしたのか、ではなく、何故相談してくれなかったのか、という意味だ。モニカは謝罪した。
 ガルバディアへ飛ばされた彼はサイファー、そして風神、雷神に出会っている。しかし風神、雷神は死に、彼らをなんとかして助けようとサイファーがガルバディア・ガーデンへ向かったため、ユリアンとゼルが出会うことになったのである。



 一方、カタリナはどうだったかというと、モニカとユリアンがこの世界からいなくなったことを察知して、モニカを救出して元の世界に戻すためにここへやってきたのだという。
 モニカが城を脱出した時、彼女は別の命を帯びて城にいなかった。そのためモニカを守るという立場をユリアンに譲っていたのだ。そしてその命とは、彼女の腰にあるマスカレードという宝剣である。彼女は城からマスカレードを奪われた時、これを取り戻すために国王に暇を申し出たらしい。
 最初はエスタ方面にたどりついていたため、実はモニカとそう遠くない場所にいたということは、ここで情報を整理して初めて分かった事実である。しかし、彼女にはその時出会った『白いSeeD』たちを頼るしかなかった。そして彼らからガーデンの話を聞き、そこへ行けばモニカに出会えるのではないかと考えたのだ。そしてそれはほぼ間違いなかった。ガーデンはモニカを見つけ出し、こうして会うことができたのである。



 この世界の『代表者』はモニカが知っているのだが、それについては後にして、先に人物紹介の方を終えることにしよう。最後に残ったのはこの世界、第一六世界フィールディである。すなわちこのガーデンの執行部ということだ。
 このガーデンを現在率いているのはシュウである。彼女はSEEDとしても教官としても人望が厚く、人気が先行しているキスティスよりもはるかに能力が高かった。まだ二〇歳と若いが、SeeDは二〇歳までであるため、これ以後は教官としての道を歩くことになるだろう。その意味では彼女が現在ガーデンを仕切っているというのはさほど間違った選択ではない。
 さらに言うなれば彼女は学園長であるシドの教えを忠実に守っている、真のSeeDである。SeeDの目的とは本来、魔女を倒すことであり、魔女戦においてはリーダー不在のガーデンを常に管理統率していた。もともとこのガーデンの統率においては彼女が最も経験豊かだったのである。
 とはいえ、魔女戦において常に最前線で戦ったキスティスやゼル、セルフィをさしおいてというのはガーデン内部で混乱がないわけではなかった。しかし人望厚いキスティスがそれを望んだのだと言えば、他に文句を言う人物はいなかった。もともとこのガーデンは個々の意識が全て同じベクトルを向いているので(マスター戦において多少の乱れはあったのだが)、混乱といってもそれほど大きなものではなかった。
 そして今ではカインと二人三脚で、何とかこのガーデンを動かしている。スコールがいれば少なくともガーデンの顔としてのポジションまでを引き受けることがなかったはずだ、現在の彼女の仕事量は、彼女の許容量をはるかに超えているはずであったが、そんなことは全く表面には現れてこない。教官として、指導者として、常に相応しい態度を取りつづけている。その点はスコールよりはるかに立派といえよう。



 もっとも、彼女の仕事を手伝ってくれる人物がいたことがその負担を軽減させていたことは間違いない。キスティスはその意味で彼女の仕事の半分を肩代わりしていた人物である。
 キスティスは戦闘員としてはシュウをはるかに上回る。魔女戦においても最前線で戦ったほどであるから、その力推して知るべしと言える。だが、そのためにこの戦いにおいても最前線に立つことが決して少なくないだろうことが判断された。実際エデン戦においてはティナやリディアに劣っていたとはいえ、彼女がいなければ戦力の均衡は保てなかったほどだ。
 そのためガーデン内部のことは基本的にシュウに任せ、自分は最前線を務めようと考えた結果がこの布陣であった。とはいえ、全てをシュウに押しつけるわけにもいかなかったし、どちらがリーダーになるにしてもどちらかがそのサポートを行うのは無言のうちに二人とも了解していたのだ。
 だが、二人のどちらがリーダーとなっても、前任者ほどの信頼感は生まれなかった。それは仕方のないことであっただろう。ああ見えても彼は絶大なる信頼を仲間から寄せられていた。それと同じものをこの二人に求めるのは、少々酷といえるだろう。



 だがもちろん信頼を厚く寄せる者もいる。セルフィがいい例だ。
 彼女はバラム出身ではない。先日叛乱が起こったトラビアの出身である。SeeDになるためにトラビアからバラムへと移って来ていたのだ。
 彼女の持ち味はその人柄である。常に明るく、前向き。そのひたむきさにガーデン内の人間はもとより、最初に出会っているティナや、トラビアで出会ったファリスなど、特に同性から好かれている。無論異性からもその明るさは好印象であったに違いないが。
 しかし、トラビアの悪夢を経験しているファリスやヴァルツにとっては、その明るさは逆に痛々しくもあった。彼女にとって最も大切であった人物が、彼女の目の前からいなくなったのだ。
 アーヴァイン、そしてセフィロス。二人とも彼女にとって大切な人物であり、その両者ともが失われたことは立ち直ることができないほどの痛手であった。実際、まだ立ち直れているとはいえないだろう。無理に笑顔を作っているのが分かる。



 一方、別の意味で痛手を受けていたのがゼルである。彼はアーヴァインの死は報告で聞いただけであったが、別の人間との別れを経験した。風神と雷神である。そして天敵であったサイファーが泣いて自分に助けを求めてきたということもショックであった。
 幸いユリアンという人物を見つけることができたため彼の任務は達成されたわけであるが、そうでなければおそらくは停滞してしまったであろうガルバディアの惨劇。それに伴う悲劇は彼にとって少なからず衝撃を与えていたのだ。



 ヴァルツもまた悲劇を経験した人物である。アーヴァインの補佐として最初行動していた彼であったが、その死後は合流したセルフィに従った。ガーデン内では一ランク下に考えられている人物ではあるが、その沈着冷静な判断と行動には定評がある。
 マスター戦においては躊躇せず学園長とシュウに協力し、年少組を守って奮闘した。それを高く評価したのがシュウであり、以後魔女戦においては主に通信や情報部門において活躍していた。
 とはいえ、スコールらの覚えはあまりよくない。最前線に立っていた中では唯一アーヴァインがその能力をかっていたくらいで、最近まであまり目立ったことはしていなかった。ここにきてようやく彼にも日の目が出てきたということだろうか。
 もう一人、ニーダもあまり目立つことのない人物である。SeeDとしての実力はもちろん劣っているわけではないが、彼はガーデン操縦者として確固たる地位を得ている。最近では年少組の何人かにガーデンの操縦法を教えたりしている。後に続く者を彼なりに育てているのだろう。



 以上一七名がまずそれぞれに自己紹介を行い、お互いを確認しあった。そしてまず最初に口を開いたのはもちろんカインであり、彼からこの戦いで何を成すべきかということを明らかにした。
 それは、収束しつつある八つの世界を救うこと。
 そのために、『代表者』である八人と『変革者』である3人をこのガーデンに集めること。
 その二つが現在最も急務とされることであり、この件について第四世界ペルジスタンの『代表者』のことを知っているというモニカにその内容を尋ねた。






60.伝説の騎士

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