遠く静かな星空から、溢れる命の唄が響く。












PLUS.95

ファイナルファンタジー







the beginning of a long day






 しばらくして、ハオラーンを交えた会議が開かれることとなった。
 今までにも何度か会議は開かれていたが、今回はとりわけ人数が多い。カイン、スコール、ティナ、エアリス、リディア、ブルー、サイファー、ジェラール、ファリス、セルフィ、クライド、レノ、イリーナ、キスティス、ゼル、ヴァルツ、ユリアン、カタリナ、アセルス。ハオラーンを含めて総勢二十名。モニカとゼロ、エルオーネは保健室でサラの付き添い、ニーダとシュウはブリッジ詰めのためそれぞれここにはいない。
 新しく増えたメンバーといえば、サイファー、クライド、レノ、イリーナといったところか。イリーナ以外は殊勝に自己紹介を行うようなメンバーではなかったので、簡単にカイン・スコールの方から紹介されてから会議は始まった。
 今回の会議の目的。それは一にも二にも、ハオラーンから直接話を聞くことである。
 前回の会議で一致した結果は、ハオラーンを探し情報をつかむというものであった。それが今、現実のものとなろうとしている。
 しかも既に代表者は八人勢ぞろいし(一人はいまだ目覚めぬままだが)、変革者も二人までが揃っている。最後の一人は仲間になる気配を見せないが、状況は好転していると言っていい。
「さて、最初に確認しておかなければならないのは、今回ハオラーンから聞かなければならないことだ」
 ブルーが進行役を務めた。頭脳明晰な彼がまとめていくのが一番理想的な進行方法だ。
「一つ、代表者は何をすればいいのかということ。
 一つ、変革者は何をすればいいのかということ。
 一つ、サラを目覚めさせる方法はあるのかということ。
 一つ、これから我々がどうすればいいのかということ。以上だ」
 要約するとこれだけのことなのだ。だがそれを握っているのは全てハオラーンである。
「ハオラーン。もちろん、答えてくれるのだろうな」
 ブルーが尋ねる。だが、ハオラーンは首を振った。
「私は吟遊詩人。歌うことしかできない」
「おい」
「ですが」
 割って入ろうとしたブルーを制して、ハオラーンは続けた。
「意味が分からないというのなら、解説をしなければならないでしょう。それくらいは問題ありません」
 よし、とカインは頷いた。
「では最初からだ。僕たち代表者は何をすればいいのかということだ」
「それでは、歌いましょう」
 ぽろん、とハオラーンは竪琴を鳴らした。

 世界に愛されし者よ
 世界の鍵を持つ者よ!
 汝、戸惑うなかれ
 汝、死ぬことなかれ!
 全ての代表者そろいしとき、
 地獄への道は開かれる
 約束の行為を行え
 世界の独自性を保て!
 閂を外したとき
 FFへの道は開く

 しばらく、誰も何も口にしなかった。
 そして、最初に手を上げたのは、スコールだった。
「質問がある」
「どうぞ」
 ハオラーンは綺麗なテノールで答えた。
「結局代表者が何をすればいいのかということは後回しにさせてくれ。先に俺の疑問を解消させたい」
「かまいませんよ。時間はまだありますから」
「前に地竜が言っていた。全ての鍵はFFにある、と。FFとはなんだ?」
 その話は初耳だ、とカインもブルーも、他のメンバーも思ったが、あえて何も言わなかった。
 全ての謎が明らかになってしまえば、何も問題はないのだ。
「今、世界は十六ある。これはよろしいですね」
「ああ」
「ですが、以前は二五六あったのです」
 ハオラーンは語る。伝説の二五六世界。もはや伝承ですら歌われなくなった世界たち。
「前に楽園でその話があったわね。二五六が一二八になり、六四になり、三二になり、そして今の十六にいたる、と」
 キスティスの言葉にハオラーンが頷く。
「そう。そして全ての世界には、二桁の記号が刻まれているのです。すなわち、世界の番号、ですね」
「世界の番号」
「そうです。あなたがたも普通に使っているでしょう。第十六世界フィールディ、と。ですが本来の二五六世界の呼び方からすれば、この世界は第A八世界フィールディ、なのです」
「A八?」
 カインは顔をしかめたが、はっ、と気付いたのはやはりブルーだった。
「なるほど、そういうことか。それで二五六なのか」
「すまないがブルー、分かりやすく説明してくれ」
 カインが尋ねる。ああ、とブルーは答えた。
「十六×十六だ」
 全員の顔に『意味不明』という言葉が浮かぶ。
「つまり、数え方が違うんだ」
「数え方?」
「十六という数字は数の上から見れば中途半端だ。全十六世界というよりも全十世界とか、キリのいい数字の方が安定感がある」
「それはそうだが」
「でも十六という数字も安定感がある。それは何故か? 答は、十六という数字が二の乗数だからだ二×二×二×二で十六。一七とか十九とかに比べるとはるかに安定する」
「だ〜っ! 結論を言ってくれよ結論を!」
 ゼルが怒鳴る。ブルーは顔をしかめたが、気にせず答えた。
「つまり、世界の数え方は十進数ではなく十六進数だということだ。一つ目の世界を『〇〇』として、これが最初。あとは順番に『〇一』『〇二』『〇三』『〇四』『〇五』『〇六』『〇七』『〇八』『〇九』とくる。ここまでで世界の数は十個だ。だが十一個目の世界は続いて『〇A』となる。そのまま『〇B』『〇C』『〇D』『〇E』『〇F』ときて、これで十六個。これが終わると次は『一〇』から始まって『一一』『一二』……と続く。そして二五六個目の世界が『FF』となって、これで全てだ」
「その通りです」
 ハオラーンが後を続けた。
「これこそが世界の究極の秘密……すなわち、ファイナル・ファンタジーです」
「ファイナルファンタジー……『究極の秘密』か」
「そうです。ですがそれももはや、伝承の話。サーガの中だけで語られるものにすぎません」
「ファイナル・ファンタジー・サーガ、というわけですね」
 ヴァルツの言葉にハオラーンは頷く。
「なるほど、それで分かった」
 スコールが続けて言う。
「地竜はその後続けてこう言ったんだ。『現在はFだ』と。つまりそれは、世界の数が『FF』個から『F』個まで少なくなった、という意味なんだな」
「そうなります。F=十六ですからね。ここは死守しなければなりません」
「その理由は?」
「今ブルーさんが言ったとおりです。十六という数字は安定性がある。『F』という数字に力があるのです。従って、八よりも、三二よりも安定性が高いのです。ゆえに、今が世界の減少に歯止めをかける最後のチャンスになります。もし失敗すれば、世界は最後の一つになるまで減少を続けることになるでしょう」
「最後の一つ?」
 リディアが身を震わせた。
「そうです。まだ滅びていない十六の世界のうち、二五六世界の呼び方でいう『第FF世界』。現在の言い方で言うなれば『第九世界プラス』。そこにいる者が他の全ての世界を滅ぼすことになります」
「それがすなわち、カオス、か」
 そういうことです、とスコールの問に答える。
「カオスが世界の減少を行ったときから、この世界に八人の代表者が集うことは定められていました。二五六が一二八になろうとも六四になろうとも、三二になろうとも……誰も止める者はいなかった。竜たちも、幻獣たちも止めなかった。十六になるまで待った。そしてついに、約束の地へ向かう時が来たのです」
「約束の地?」
「そう。約束の地、FF−PLUS。Final Fantasy - Promised Land Unlimited Secret──『無限の秘密を持つ約束の地』……ここがカオスのいる場所です」

 誰もが、何も口にできなかった。
 各人の心の中にはそれぞれいろいろ思うことがあった。
 何故、そのような重要な情報を今まで隠していたのか?
 もっとも、ハオラーンにしてみれば隠していたつもりなど毛頭ないのだろう。彼はいつでも歌うだけ、世界の趨勢には何の影響ももたらすつもりのない存在なのだ。
「ちょ……ちょっと待って」
 リディアが口を挟んだ。
「どうぞ」
「もしそうなのだとしたら……カオスが十六の世界の中にいるのだとしたら、幻獣界からだって行くことが……」
「それは不可能です」
「何故ですか?」
「相手が“混沌”だからです。実際にあなたは『PLUS』に行ったことがありますか?」
「いいえ。でも、道は幻獣界にあります」
「ええ。いわば幻獣界と世界との道は一種のトンネルのようなもの。もしあなたが世界の支配者だとして、自分の世界に誰も来てほしくないと思ったら、そのトンネルをどうしますか?」
 それならば話は簡単だ。トンネルは塞いでしまえばいい。
「そういうことです。道は途中で途切れてしまっているのです。幻獣たちはそのことを知っている。だからアスラはあなたをここに寄越したのですよ」
「でも、試してみないことには……」
「もし道が途切れていたら、あなたは永遠に二五六世界のどこの世界にも行くことができず、永遠に世界の間を彷徨うことになりますよ。飢えることも渇くこともなく、未来永劫、時の流れのないまま思考だけが永遠にそこに存在する。その代償を恐れないというのなら、実行なさい」
 さすがにそれは遠慮したい、と誰もが思った。リディアもかすかに足が震えた。
「要するに、新しく道は作らなければならないのです。その道を作るのが代表者の仕事なのです」
「どうやって?」
 ファリスが簡潔に尋ねる。
「それがすなわち『閂を外す』ということです」
「どういうことだ?」
「地獄には世界と世界の間をふさいでいる門を塞ぐ閂がかけられているのです。このA八……フィールディからPLUSへの門を塞ぐ閂をあければ、世界と世界はつながり、道ができます」
「それが『約束の行為』か」
「そうです。まず地獄へは八人が揃わないと行くことはできません。そして地獄で閂を開けられるのはその世界の代表者。すなわち……」
「俺、ってわけか」
 へん、とサイファーがふんぞり返って言った。
「そういうことです。ですが問題があります」
「それは?」
「簡単なことです。そんな重要な場所を、カオスが放置しておくと思いますか?」
「……なるほど、門番がいるというわけだな」
 ブルーが忌々しげに言った。
「閂が開けられては障害なく通行可能になるわけですからね」
「なら、問題はあと一つだ」
 ジェラールが言う。
「地獄にはどうやって行けばいいんだ?」
 地獄、と聞いてこの世界の住人たちは閃くものがあった。そしてそれは、外れてはいなかった。
「この世界には地獄に通じる場所があるのですよ。このガルバディア大陸の西に位置する『地獄に一番近い島』から行くことができます」
「あそこかよ……恐ろしいモンスターが山ほどいるぜ」
「相変わらずだな、チキン野郎」
「んだと!」
「やめろ、ゼル、サイファー」
 スコールが二人を止める。
「代表者の話はだいたい分かった。じゃあ次だ。変革者は何をするんだ?」
 スコールの質問で議題は次に移った。
「変革者はクリスタルを起動し、カオスの闇を暴くことが使命です」
「闇を暴く?」
「そうです。クリスタルを起動させることができるのは、三騎士のみ。それを一つとし、カオスの“混沌”の力を封じます。すなわち、空と海と大地の力が合わさった“秩序”のクリスタルです」
「どうやって一つにする?」
「重ねるだけで。既に大地と海のクリスタルは一つとなっています。あとは空のクリスタルのみ。ですが空のクリスタルを起動させることができるのは天騎士だけです」
「使用方法は?」
「かざすだけで。クリスタルから放たれる光がカオスの“混沌”の力を弱めます」
 たいした難しいことはないということだ。そして、何より。
「確認したいことがある」
 スコールが強い口調で言った。
「どうぞ」
「一度クリスタルを起動させてしまえば、もう変革者に用はないんだな?」
「一人二人欠けても問題はありません。一つとなったクリスタルを使うことができるのは、三騎士の誰でもできます」
「よし」
 スコールは言った。
「それなら心おきなくセフィロスを殺せる」
 リディアも強く頷いた。サイファーがにやりと笑う。
(……復讐のことしか考えていないのはまずいな)
 もっともリディアとサイファーには別の使命がある。それを放り投げることはよもやないだろう。
「では聞きたい。空のクリスタルはどこにある?」
 カインは尋ねた。詩人は竪琴を鳴らした。

 空にそびえる天空城
 全ての者を退ける
 大樹が守る浮遊石
 静かに眠るクリスタル
 集いし騎士の邂逅と
 障害となる強き敵
 戦いの野に花束を
 やがて世界はつながらん

「天空城か……」
 カインは天井を見上げた。
「だとすると場所の予想はつくな。地獄行きが地獄に一番近い島なら、天空城行きは天国に一番近い島だ」
 スコールが言うと、ハオラーンはその通りですと答えた。
「私が天空城へお連れしましょう。ただし、その人数は四人が限界です。人員はしっかり選んでください」
 カインは頷いた。
「変革者の話は分かりました」
 ユリアンが今度は言う。
「次に、サラの目覚めさせ方を教えてください」
 そう、代表者が地獄を目指したとしても、サラが目覚めていないのでは話にならない。
「それはじきに……」
「じきに?」
「時が来れば自然に目覚めるでしょう。心配の必要はありません」
 あえて何もハオラーンは言わなかった。その物言いにひっかかるところもあったが、追及しても答えるとは思えなかった。
「その言葉を信じるとしたら、あとは今後の動きだな」
 ブルーがカインを見つめる。方針を決定しろ、という意味だろう。
「ガーデンは地獄に一番近い島に向かう。そして一部のメンバーだけが天空城を目指す。その方がいいだろう」
「なるほど。それで、そのメンバーとは?」
「ラグナロクで移動することになるな。代表者を連れていくことはできないから、クリスタルを起動させなければならない俺と、それから運転者としてセルフィ」
「おっけ〜」
「あと二人か……」
「まさか、俺をぬかすということはないだろうな」
 スコールが気迫のこもる声で言う。
「だが、俺の変わりにガーデンを率いてもらわなければならない」
「そんなものはキスティスとシュウで充分だ。俺は天空城へ行く。クリスタルがあるのなら、奴が……セフィロスが来る。必ずだ。ならば俺は天空城で奴を待ち受ける」
 セルフィの顔が曇ったのをカインは見逃さなかった。
 彼女はセフィロスのことが好きなのだ。そして信頼する仲間と敵対関係にある。この状況でセルフィがどう行動するのか……。
「いいだろう」
 カインは最終的には認めた。何はさておき、地竜の爪の力は無視できるものではない。
「ではあと一人か」
「もちろん、ご指名は私、だよね?」
 アセルスが悠々と発言する。代表者を除けば実力的に上に来るのはやはりアセルスあたりが妥当なところだろう。ここでレノやクライドに声をかけたところで断られるのは目に見えている。
「そうだな。これで四人か」
「あたしも行く」
 最後に挙手したのはイリーナだった。
「だが、限界は四人だ」
「天空城に行くのは四人かもしれないけど、ラグナロクには何人乗ってもOKでしょ?」
「それはそうだが」
「じゃあついていく。ラグナロクで待ってる」
 やれやれ、とカインは呟く。
「方針は決まったな」
「ああ。後は行動するだけだ」
「では、」
 と、最初に立ち上がったのはハオラーンだった。
「私は一足先に天国に一番近い島に行っています」
「一足先に?」
 カインが尋ね返す。
「はい。私にできることは全てしました。後は、あなたたち次第です。では……」
 かつん、と扉の方で音がした。一瞬、全員の意識がそちらの方を向く。
 だが、そこには何もない。
「あっ!」
 ティナが声をあげた。
 再び視線を戻した場所に、ハオラーンはいなかった。
「……まさか、こんなトリックにひっかかるとはな」
 ブルーまでがその単純なトリックに騙されたことにショックを隠せないでいた。
「奴は敵か? 味方か?」
「さあな。それを議論しても答は出ないだろう」
 スコールの問に、カインは平然と答えた。
 だが、目的が同じ以上はこちらの不利になるようなことはしないはずだ。何を目的としていようとも。
「それでは……」
 カインは会議を終了させようとした。
 まさに、その時であった。ガーデン全域に、シュウの声で非常事態宣言が流れたのは。

『総員、対ショック姿勢! 急げ!』

 理由もなく、その言葉だけが放送で流れる。だがさすがは歴戦の戦士たち、誰もがその言葉で床に伏せる。
 直後、ガーデンに大きな衝撃が走った。






96.戦闘開始

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