『どこにも行かないよね』

 確かめた言葉は果たされることはなかった。
 消えた影は、二度と自分を振り返りはしなかった。

『目的の達成のためには、お前は邪魔だ』

 何を目的にしていたのかは知らない。
 でも、自分が邪魔なのだとしても、それでも傍にいたい。

 それすら、許されていない──?












PLUS.118

火花散る戦闘







blade






 スコールとセルフィは天空城内をひたすら探し回っていた。
 カイン・アセルスがどこにいるのかも分からない。この城のどこかにいるはずのセフィロスも、そして天竜も、クリスタルルームも見つけられない。
 だが、それは全て『どこかに』あるはずなのだ。
「なかなか見つからないな」
 スコールは方向感覚には自信がある。可能なかぎり同じところには行かずに城の中をくまなく探し回っているつもりだ。
「うーん」
 セルフィも首をかしげながら答える。
 だが、セルフィはスコールほど落ち着いていられたわけではなかった。
 鼓動を感じる。
 彼が、近くにいるということが分かる。
(どうすればいいんやろ)
 頭の中はトラビア弁で埋め尽くされていた。
(セフィロスが現れたら、アタシ──)
「こっちだ」
 スコールが分岐点で左の道を選ぶ。セルフィもその後に続く。
 そしてさらに進んでいくと、小さな部屋が出てくる。部屋の数もおそろしく調べてきたがほとんどが普通の客室であったり、何もないがらんどうの部屋だったりした。
 だが、ここは今までの部屋とは全く違っていた。壁にかけられているたくさんの剣や斧などの武器類、そしてさんぜんと並んでいるフルアーマー。そこは、武器庫であった。
「これは……すごいな」
 バトルオタクであり、月刊武器の購読者でもあるスコールにとってみると、そこは宝の山に他ならなかった。古い時代に失われたとされる伝説の武具が一通りそろっているようなものだ。
 その中には珍しいガンブレードもあった。月刊武器創刊号に出ていたフレイムタン、はるかな太古に失われたとされるブレイクブレイド、ガンブレードにはありえない連射機能を魔法で付加させたショックウェイブ。どれもガンブレードマニアには一度は触れてみたいと思わせるものばかりである。
 だがもっとも、今のスコールはここにあるどの武器よりも強い『地竜の爪』があるのだが。
 もちろんバトルオタクとしては全ての武器がだいたい何かということが分かる。まさに武具辞典に描かれているものがそのままここにはある。
「セルフィ」
 その中から短刀を一つ取り上げて、セルフィに投げてよこす。
「なあに、これ?」
「見て分からないか、ナイフだ」
「それは分かります〜。どうしてこれをアタシによこすのかが知りたいんです〜」
 ぷん、と頬を膨らませてセルフィはさらに質問を投げかける。
「それくらいなら腰につけておけるだろう。どんな戦いになるか分からないんだから、装備は充分にしておいた方がいい。それに、その武器は魔法がかかっている。重さはほとんど感じないはずだ」
 そう言われてみるとたしかに重さは感じない。
 剣を抜いてみる。刃渡り三十センチ程。ダガーより少し短いくらいか。軽く壁を切りつけてみると、その壁がバターのようになめらかに切れた。それも腕にはほとんど反動がなかった。
「すご……」
「いい武器だな。俺がほしいくらいだ」
 武器マニアのスコールをもうならせるほどの凶悪な武器にセルフィは怖くなった。
「こんなの使えないよ〜。はんちょにあげます〜」
「俺には必要ない。もう、他のどんな武器にもな」
 スコールは腰のガンブレード、地竜の爪に触れる。
「う〜ん、それじゃ、使わないとは思うけど一応持っておくね」
 セルフィは短刀を腰に装備する。
「さて、それじゃあ次の場所へ移動するか」
「は〜い」
 そしてまた二人は城内の探索に戻った。
 しばらく迷宮が続き、さらに上の階へ向かう。
「最上階に何かがあるっていうのが鉄則なんだけどな」
「そうだね〜。でも、クリスタルルームって言ったら地下の方にあるっていうイメージもあるんだけど。はんちょ〜もセントラ遺跡で地下にあったんでしょ?」
「ああ」
 その言葉には、言外に『セフィロスもそうだった』という意味が含まれていることに、スコールは気がつかなかった。セルフィも無意識に出た言葉だった。
「随分と昇ってきたが、ここは今どのあたりなんだろうな」
「マップとかあるといいのにね〜」
 上へ、上へと二人はのぼり続ける。随分と長い階段だった。
 そして一番上へとたどりつく。
「最上階だな」
 そこはドームになっていた。無色透明のクリスタルドームで、上も四方も全てが見渡せる。
「絶景〜!」
 セルフィはそのクリスタル状のドームに両手と額をつけて、外を見渡す。四方に広がる雲海。たしかにそこは絶景だった。そしてここが天空城であるということを否応なしに見せ付けられた。
「だが、クリスタルルームというわけではないようだな」
 天空城に最後のクリスタル、天騎士の持つ空のクリスタルがある。
 クリスタルはクリスタルルームにある。壁も天井も何もかもがクリスタルの輝きを放つ部屋。それを見つけなければならないのだ。
 スコールは辺りを見回すと、もう一つ別のところに下りの階段があるのを見つけた。
「そっちか」
 スコールが足を踏み出した瞬間だった。
 その階段から、誰かがこちらに上ってくるのが分かった。
 そのことにセルフィも気づき、二人はいつでも戦えるように体勢を整えてその人物を待つ。
 カインやアセルスなら、それにこしたことはない。
『もしも──』
 スコールの手が汗ばみ、セルフィの鼓動が高まる。
 そして、ついに現れたのは、二人が思い描いていた通りの人物だった。

「セフィロス!」

 既にセフィロスは臨戦体勢だった。海竜の角を手にした銀髪の妖精はスコールを見るとその目を輝かせる。
「陸騎士か」
「リノアの仇!」
 スコールは地竜の爪を抜くと、セフィロスに斬りかかった。
 セフィロスはそれを海竜の角で受ける。クリスタルルームで戦った時と同じように火花が散った。
「まだ、呪縛から解かれないのか」
 リノアは死んだというのに、という言葉が言外に込められていたのを感じ、スコールの怒りはさらに高まる。
「呪縛は解かれた。だが、リノアは仲間だった。お前が俺の仲間を殺した」
「あの魔女が、貴様を戦場へ導く存在だったというのにか?」
「そんなことに何の関係がある!」
 許すつもりも、和解するつもりもない。この男とはただ、戦うだけだ。どちらかが倒れるまで。
 ぶん、と地竜の爪を振るう。セフィロスは飛び上がり、長いローブをなびかせて空中でひらりと一回転すると後方に着地した。
 この男は強い。
 それを今さらながらにスコールは感じ取っていた。
 前回の戦いでは、自分がリノアとリディアのことで動揺したこともあり、冷静に戦うことができていなかった。
 だが今回は全てを理解した上で、こうして戦いに望んでいる。怒りを抑えることはできないが、それでも冷静だといっていい。
 その冷静な頭で判断したところ、このセフィロスという人物。
 ──自分よりも、強い。
 その事実を認めるのは辛い。だが、冷静に考えて彼のパワー、スピード、テクニック、いずれも自分を上回っている。それが分かる。
 自分が勝っているのはたった一つ。目の前の相手を倒したいという、その気持ちだけ。
 それがどこまで通用するか。おそらくは彼にはそうした精神力で力が上下するようなところは微塵もないだろう。あとは自分がいつも以上の力を出しきれるかどうかが勝負だ。
 普段以上の力を出すためには、戦闘にただひたすら集中するだけだ。集中力は全ての能力を高める。そのことを今までの戦闘でよく理解している。
「クリスタルは返してもらう」
「修正されたお前にこのクリスタルを使うことはできん」
 二人が動く。竜の武具が、互いの皮膚を切り裂いていく。
 変革者同士の戦い。それは、世界にとって果たして有益なのか、それとも有害なのか。
 だが、当の本人たちはそんなこととは全く関係なく、ただ目の前の相手を倒すことのみに全力をつくしていた。
 スコールが動き、剣で薙ぐ。
 だが、セフィロスはその動きをかいくぐって、上からの逆撃を行う。
 スコールは剣で受け流し、接近したセフィロスに膝をあてた。
 一瞬、妖精の顔が歪む。だが、すぐさま肘でスコールの頬を打つ。
 お互いによろめき、再び剣を構えあった。



(セフィロス……)
 その間、彼女はずっと呆然としていた。
 銀色の妖精が目の前にいる。ずっとずっと探していた相手がそこにいる。
 自分の一番好きな男性は、自分がもっとも信頼するリーダーと剣を交えている。
 竜の剣が火花を散らせ、死闘が展開されていく。
(セフィロス)
 言いたいことがある。
 伝えたい言葉がある。
 今度こそ、彼と共に行くのだとずっと願っていた。
 今度こそ、彼に置いていかれるようなことはないようにずっと考えていた。
 自分は、この戦いを終わらせる義務がある。
(セフィロス!)
 彼に、そう、彼に。
 ただ彼に、伝えたいことがある。
 そのためだけに。



 セフィロスが空高く舞う。そして、空中から鋭く斬りおろしてくる。
 真っ直ぐに振り下ろされる剣を回避し、スコールは逆激を加える。水平に剣閃が生じる。だが、それより早くセフィロスはステップバックしていた。
 その剣の鋭さ、反応の速さ、そしてそれらを支える肉体の強さ。全てがスコールを上回っている。それがよく分かる。
 だが、戦いは必ずしも強いものが勝つとは限らない。
 勝敗を決めるのは集中力。より強く、深く集中し、戦いにのみ全力を注いだ者が勝つのだ。
 仇を討てるのだ。
 次の瞬間。
「ファイガ!」
 セフィロスが突如魔法を放つ。そして、その魔法の向こうから接近してきて攻撃をしかけた。
 だが、その攻撃はスコールにとって苦ではなかった。
「見慣れてるんだよ、その攻撃は!」
 一瞬、悪友の顔が脳裏をよぎる。
 集中力をさらに高める。炎の恐怖を乗り越え、目を見開き、炎の向こうに見えた人影を狙って、スコールは大きく剣を振った。
 鋭い斬撃が、セフィロスの武器を弾き飛ばす。
「なっ」
 スコールは炎の魔法に耐え切ると、得物を失ったセフィロスに対して、とどめの一撃を与えようとさらに一歩踏み込んだ。
「死ねっ、セフィロス!」
 スコールは大きく剣を振り上げた。セフィロスは完全に足が止まっていた。回避する術は──ない。
 渾身の力を、スコールは剣に込めた。






119.修正

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