リディアとエウレカの戦いを見て思った。
アフラマズダ、アルゴ、アルテミス。いずれも彼らに関係のある相手との戦い。
次の地下五階は、きっと自分に関係する者との戦いになる。
自分に関係する者は誰か。
自分にとってまだ決着がついていない『幻獣』は誰か。
そう考えると、たった一人しか出てこない。
これは、神がくれたチャンスだろうか。
けじめはつける。
PLUS.218
戦いの続き
crystal
地下五階の試しの間に勇んで入っていったのはスコールだ。
リディアとの戦いの後から彼の様子はどこかおかしかった。いつも無口だが、それ以上に頭の中で必死に考え事をしているようだった。そして、その目にはどこか決意のようなものまでが現れていた。リディアが話しかけても上の空だ。
試しの間に入っていったスコールを心配そうに見つめる。
「大丈夫かな、スコール」
「あいつなら心配ない」
だが、それを後押ししたのはカインだ。
「どうして?」
「あいつはそれだけの男だ。信じてやれ」
カインからそんなことを言われる日が来るとは思ってもみなかったが、その心遣いはありがたく受け取っておくことにした。
(大丈夫だよね、スコール)
試しの間の中にいるスコールは既に『地竜の爪』を抜いている。
「どうやら、スコールは誰が来るのか予想がついているようだな」
カインの言葉に驚いた表情を見せたのはリディアだけだった。
「どうして?」
「さあな。だが、あいつの様子を見ているとそうとしか思えない」
これから出てくる相手をただじっと待つスコール。
そして、試しの前に現れた男。
それはカインやリディアにとっても見知った相手だった。
「セフィロス」
そう。
そこにいたのは英雄、セーファ・セフィロス。
カオスとの戦いで亡くなり、ドクターの力によってGF化した男だった。
「驚いた様子ではないようだな」
「エウレカがここにいたのなら、お前もここにいていいと思った。俺との決着をつけるために、わざわざ来てくれたのだろう?」
「半分はな」
「もう半分は?」
「俺自身の存在意義を確かめるため」
セフィロスはその長い刀を抜いた。正宗──海竜の角。
「俺は不完全な幻獣だ。たとえ条件が揃っていたとしても、幻獣界に存在することはできん。このラビリンスは人間界と同じように、存在を固定する力がはたらいている。ここでならば俺は存在できる」
「自分が存在するために、番人をかってでた、ということか」
「その通りだ。そして、お前が決着をつけたがっていたことも分かっている。もっとも」
ゆらり、と剣先が揺れた。
「お前に、この俺を倒せるとは思わないが」
そして、同時に跳んだ。
閃く妖刀と、轟くガンブレード。
同じ剣だというのに、どこか異種格闘戦を思わせる二人の戦いが、最初の火花を散らした。
「力と速さは互角」
「だとすると、勝負を決めるのは精神力の強さだな」
リディアとカインが手に汗を握って戦いを見守る。
経験のあるセフィロスが勝つか、この相手にだけは負けたくないと願うスコールが勝つか。
「けじめをつけると言ったな、スコール」
セフィロスが剣を振りぬきながら相手に問う。
「ならば、この俺に勝って、自分の何を満足させるつもりだ」
「満足なんかない」
ガンブレードからは銃弾が放たれる。だがセフィロスはその軌道を読んで先に回避する。
「ただ俺は、アンタとの戦いが中途半端に終わってしまったあの戦いの続きがしたいだけだ」
「戦う理由もないのにか」
「理由はある」
一段と、剣を振りぬくスピードが速くなる。ほう、とセフィロスは呟いた。
「その理由を聞こうか」
「アンタは強い」
火花が散って、お互いの顔が鈍く光る。
「それがなんだというのだ?」
「そのアンタを超えることで、俺はもっと強くなる。大切なものを守れるくらいに」
「──ほう」
セフィロスの口端がつりあがる。
「そういう考え方は嫌いではないな。よかろう。お前が目指す壁は高いぞ。心して臨め!」
振りぬいた剣を素早く引き、気を溜める。それが何を意味するかスコールも分かった。同じようにして気を溜める。
「ドラグーン・ショット!」
セフィロスから放たれた衝撃波がスコールを襲う。だが、
「ドラグーン・ショット!」
同じ衝撃波を放って相殺する。
「互角か。腕を上げたな」
「いつまでも同じでいられるか!」
既に後ろを取っているスコールが連続技につなげる。
「ラフディバイド!」
「甘い」
下から切り上げる剣を、セフィロスはなんと柄尻で受け止める。
「な」
「守るための強さならば、剣にばかり頼るな」
至近距離から放たれたのはフレアの魔法。セフィロスは剣だけで英雄になったわけではない。魔法と剣。全てにおいて他者を超越していたからこそ英雄と称されたのだ。
「お前が守りたいと思っているものはその程度か」
スコールは歯を食いしばって立ち上がる。
確かに、魔法が使えるのに剣にこだわるのは、剣士としての自分にこだわっているだけだ。誰かを守りたいだけならばそんなものにこだわってはいけない。何があっても敵を倒し、味方を守り抜かなければならないのだ。
(アンタの言っていることは全て正しい)
ガンブレードを構えながら相手の動作に注意を向ける。
(でも、許せないことだってある)
リノアのことをどういう言うつもりはもうない。
だが、今のスコールにとって大切なものを傷つけようとするセフィロスを許すことはできない。
「行くぞ!」
「……」
セフィロスは半ば警戒しつつスコールと剣を合わせる。
「何かをしてくると思えば、相変わらずの剣技か」
「魔法で戦うことの方が少なかったからな」
剣を振り切る際に銃を放つが、そうした攻撃はセフィロスに通じない。あくまでも威嚇にすぎない。間を取り、確実に攻撃できるタイミングで仕掛ける。
「フェイテッドサークル!」
今度は衝撃波だ。だが、それもセフィロスは見切って回避する。
「ウォータ!」
水の魔法を放って相手の動きを止めようとするが、その魔法も完全に無効化される。
「その程度か? ならばお前に勝ち目などない」
セフィロスの左手に『影』が集まる。この魔法は、まずい。
「シャドウフレア!」
体内から焼き尽くす、焼滅の魔法。外から焼くフレアよりも質が悪い。
「スコール!」
リディアの叫びが聞こえた。
もちろん、死ぬわけには行かない。だが、回避する術がない──
『スコール!』
その窮地を救ったのはグリーヴァだった。突如実体化したグリーヴァがスコールを乗せて魔法の発生地点から遠ざかる。
「助かった、グリーヴァ」
「今の技はまずい。死にたくないのなら、あの技を出させるな」
「出させるなと言っても」
「できるはずだ。お前なら」
そしてグリーヴァは距離を置く。一度は助けてくれたが、二度助けるつもりはないらしい。
これは一対一の勝負。グリーヴァが乱入したのはただの気まぐれとでもいうのだろうか。
「それがお前の守護獣か。たいしたものだな。召喚獣としてまだ若いのに、その気高い精神はバハムートをも凌ぐのではないか」
「褒めすぎだ。私はスコールのために現存する特殊な召喚獣。評価されるのはありがたいが、決して他と比較されるようなものではない」
「己をわきまえる謙虚さもある。俺が人間のままであればすぐにでも契約したいところだが」
そのセフィロスがそもそも召喚獣、GFなのだ。そうするわけにはいかない。
「グリーヴァの協力なくして俺に勝てるのか?」
「勝つさ」
攻略法など見つからない。だが勝つ。この相手にだけは勝たなければならない。
自分の前にずっと立ちはだかっていた壁。超えなければならない壁。
より高みにいくためには、このセフィロスを倒さなければならないのだ。
「行くぞ!」
とにかく攻める。待っていたら魔法でやられるだけだ。こちらから攻撃を続けて、魔法を使わせる暇を与えない。
シャドウフレアを使わせない──?
(……その方法があったか)
攻略法を見つけた。
はからずも今、セフィロスが自分に対して仕掛けた攻撃が、セフィロス攻略の糸口となった。
(あとはどうやってそこまで持っていくかだ)
再びガンブレードで弾を放つ。相手の動きをじっくりと見て、攻撃を繰り返す。
「ブラスティングゾーン!」
今度は正面からの衝撃波。セフィロスが回避したところを目掛けて、さらに技を放つ。
「百鬼・烈日の破邪!」
現れた数十の剣が重なり、一本の炎の刃と化してセフィロスを貫くべく高速で解き放たれる。
「くっ」
その攻撃にはさすがに動揺したか、セフィロスは奥義スーパーノヴァでその攻撃を弾き飛ばす。
だが、それこそスコールが待っていた『隙』だ。ここから接近戦に持っていく。
賭だ。
賭に勝てばセフィロスを倒せる。だが、そのタイミングが手に入らなければおしまいだ。
「エンドオブ、」
セフィロスの背後を取る。
「ハート!」
そして攻撃をしかける。一撃、二撃、三撃。だが、セフィロスはその攻撃を何とか凌ぐ。瞬時に場所を入れ替えて攻撃を仕掛けるスコールに対し、確実に相手を正面に迎えてその攻撃を防ぐ。
最後の八撃目すら完全に防ぎきった瞬間、セフィロスは刀を翻した。
「もらったぞ、スコール!」
技を出し終わって完全に隙ができたスコールに、背後から切りかかる。
(くらえ!)
だがスコールはその背後のセフィロスに向かってガンブレードを乱射した。さすがにこれは予想外だったか、セフィロスが慌てて飛び退く。
「メルトクリムゾン!」
そのセフィロスに向かってスコールは殴りつけた。同時に巨大なエネルギー弾をセフィロスに叩きつける。
セフィロスが転じて間を取る──このタイミングだ。
「ドロー!」
その、セフィロスに向かって両手を伸ばした。
あいての持つ魔法を確実に捕らえ、そして、吸収する。
「シャドウフレア!」
相手の魔法を吸収して放つ魔女魔法。このドローという技はSeeDにしか使えない技。魔女の魔法を知る者にしか使えない技だ。
ダメージこそ上下差はあるものの、もともとのダメージ値が高い技なのだから、多少の差など問題はない。
決まれば、勝利だ。
「があああああああああああああああああああっ!」
セフィロスの体が内側から焼かれる。そして、全身から煙を発して倒れた。
「倒したのか」
だがセフィロスは、なおもその場に立って戦意の残る瞳で立つ。だが、それで限界だったのだろう。がくり、と膝をついた。
「たいしたものだな、お前は」
致命傷ではないにせよ、戦闘不能に追い込むことはできたということだ。
「アンタ自身が攻略の方法を示してくれた。運がよかっただけだ」
「その運を引き寄せたのは、お前が仲間を守ろうとする気持ちからだ。誇るがいい。お前は英雄セフィロスに勝ったのだ」
「勝ったのは俺じゃない」
スコールは懐からクリスタルを取り出した。地のクリスタル。カオス戦の後に三つに分かれたものの一つだ。
「海のクリスタルは今、セルフィが持っている」
「……」
「セルフィはアンタのことしか頭にない。あいつがハオラーンと戦うのも、アンタの仇を討つためだ。それ以外のことを本当に考えていない」
「そうか」
「アンタは、セルフィに会うつもりはないのか?」
そう。
自分が負けられないもう一つの理由はこれだ。仲間であるセルフィのためにも、セフィロスとセルフィをもう一度会わせなければならない。
「無理だな」
だがセフィロスは首を振る。
「俺が実体化できる場は限られている。今回はこうしてラビリンスが築かれたが、これも長くはもつまい。次に実体化できるのがいつ、どこかなど俺には分からん」
「だが可能性はある。それなら、セルフィは絶対にアンタを探しに来るだろう。俺が伝えるからな」
「好きにするがいい。だが、徒労に終わるぞ」
「終わらせない。アンタだって、セルフィに会いたいはずだ。そうだろう」
「否定はしないが」
セフィロスは苦笑した。
「だが、そのためにセルフィの時間を奪うつもりはない」
「たとえ一生会えなかったとしても、セルフィがこのことを知れば、そのために一生を費やす方をあいつは選ぶだろう」
スコールはゆっくりと言って、相手を見つめる。
「それは、アンタにも分かっているはずだ」
「ああ、分かっている。お前を刺してまで俺の傍にいることを望んだ娘だからな」
セフィロスは笑って立ち上がる。そして、真剣な表情になった。
「俺はあいつが幸せでいてくれればいいと思っている」
「アンタを探すことの方が、セルフィにとっては幸せなんだろう」
「だろうな。分かってはいたが、可能性の低いものに付き合わせることはないと思っていた」
「たとえ可能性が一パーセントでも、セルフィはそうする」
「お前の言うことが正しい。だが、お前が俺の立場なら、それを願うか?」
リディアは幻獣界の娘だ。たとえそうなっても彼女は困るまい。だが、幻獣と何のかかわりもない人間なら──
「確かに願わないだろうな。だが、いい方法がある」
「なに?」
「俺とリディアが、セルフィに協力してお前を探す。それならあいつも寂しくないだろう」
あっさりと言うスコールに、さしものセフィロスも驚愕の色を見せる。
「──かまわないか、リディア」
「もちろん」
部屋の外から、リディアも微笑んだ。
「ぜひ、協力させてください。セフィロスさん」
「……いい仲間をもったな。セルフィは」
「違う」
セフィロスの言葉にスコールが首を振る。
「アンタも仲間だ。そうだろう」
しばらく考えてから、セフィロスは鼻で笑った。
「仲間か。そんなものが、俺にあったとはな」
そして徐々に笑いが大きくなり、肩を震わせて笑った。
「これだけ罪を重ねた俺が、仲間か……」
「罪を重ねたというのなら、お前よりもカインの方が重いのだろう。だが、俺たちはともにカオスを倒した仲間だ。違うか」
「違わない。いいだろう。お前に説得されよう」
笑いを止めたセフィロスの体が徐々に薄くなる。
「だが、忘れるな。俺と会える可能性は極めて低い。こんな妙なものでもできない限りはな」
「何とかしてみるさ。というより、セルフィが何とかするだろう」
「そう願おう。スコール」
その美麗な顔に綺麗な笑みを見せたセフィロスは、
「ありがとう」
闇の中に溶けて消えた。
219.目覚めの時
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