セルフィは海竜の角からヌンチャクに装備を変える。
 使い慣れた武器だ。こちらの方が自分の力は最大限に発揮される。それは間違いない。だが、武器の力だけならば、海竜の角の半分にも満たない。
 そんな武器でレイラにかなうのか。
 きっとかなわない。だが、負けるわけにはいかない。
 ここでレイラを倒さなければ、他の誰もレイラを倒すことはできない。
(どうしよ)
 これほど明確に『倒せない』と思ったことはなかった。あのカオスですら。
 スコールやカインがいれば無制限に信じられる。ブルーがいれば作戦を立ててくれる。
 今、自分は一人。












PLUS.237

魔女決着







the battle was finally settled






 レイラからの魔法の攻撃はさらに続く。魔法王の力を吸収したというのは伊達ではない。アルテマやホーリー、フレアといった高魔法を連発し、さらにはアポカリプス、エクスティンクションといった魔法まで容易に放つ。しかもその魔法力が尽きるどころか、いつまでも回復し続ける。
(リディアのおししょさんの力か〜)
 ひたすら回避し続けながら隙をうかがうが、近づくことすらできない。次々に放たれる魔法にこちらがいつまでもつのか。
「最初の威勢はどこへいったのかしら?」
 レイラがさらに魔法を放ってくる。この反則じみた強さに辟易する。
(やっぱジエンドしかないかなあ)
 この場所でなら問題なく使える。他に仲間はいない。ただ、確実に相手をとらえないといけないし、集中しないとジエンドは使えない。この連続攻撃中では無理だ。
「ええよ」
 セルフィは足を止めた。
「お望み通りに」
 スロット魔法、オーラを放って自分の力を高める。
「ふうん、そうくるか」
 レイラは笑うとセルフィの接近を待つ。
 肉弾戦。レイラを倒す一番の方法はそれだ。今までにレイラが吸収したのは代表者、魔法王、魔女、指導者。肉弾戦を得意とする者は一人もいない。接近戦になればセルフィの方が上なのは間違いない。
 もちろんその攻撃が届けば、だが。
「アイギス!」
 セルフィが振り下ろすヌンチャクを、絶対防御壁が弾く。
「くっ」
 続けてフレアの魔法が連発で来る。なんとか回避して距離を置く。
(あれ、なんとかならんかなあ)
 肉弾戦をためらわせていたのはあのアイギスの存在だ。レイラは自分の弱点をよく分かっている。だからこそ魔法で遠距離から攻撃し、近づかれたらアイギスで守る。その繰り返しをしている。
 そして、相手を弾いた直後に、
「トライデント!」
 この最強の矛で襲いかかるのだ。
「アレキサンダー!」
 GF召還で何とか相殺しようとするが、トライデントはそのGFすら簡単に消滅させた。
(そんな)
 接近戦も駄目、GFも駄目となると、本気で方法がない。
「いよいよ追い詰められてきたね」
 レイラが一歩近づく。
「それとも、ジエンド、使ってみる?」
 誘っている。相手は明らかにその魔法を誘っている。
(返し技、あるんやろな)
 魔女ですら消滅を可能にする修正魔法ジエンド。これでしか魔女を倒せないということは、返されれば自分も消滅させられるということ。
 特殊な魔法であるジエンドを、魔法王は使えないとしても防いだり返したりする術はいくらでも持っている。だからこそレイラは強気なのだ。
 もし返されて自分にジエンドを使われたらおしまい。
「さあ、行くよ」
 リノアの顔をした魔女がさらに攻撃を増す。アポカリプスの連発から、最強魔法。
「エクスティンクション!」
 回避しきれない。光の洪水の中に飲み込まれる。
(くうううううううっ!)
 フルケアで回復しながらのたうちまわる。だが、確かに感じた。
(今のがエクスティンクション?)
 おそらく直撃を受けても死ぬことはないだろう。逆に言えば、その程度の威力でしかないということ。理由ははっきりしている。
 レイラは魔法王の力をかすめとっただけ。完全に使いこなしているわけではないのだ。
 もちろんレイラの使う魔法の直撃をくらえば死ななくとも戦闘不能に追い込まれるのは間違いない。簡単に魔法を受けることはできない。ただ、即死にならないというのはありがたいというだけだ。
(それに)
 今のエクスティンクションで思い出した。
 マレブランケと戦っていたときのリディアの様子を。マラコーダに言われていたことを。
(それに賭けるしかあらへんな)
 スロット魔法をフルケアに設定。そしてヌンチャクをかまえてまた詰め寄る。
「また? 接近戦ではかなわないって分かってるのに」
 アイギスの発動。そして弾かれるヌンチャク。
 だがセルフィは背後に回りこんでまた攻撃。もちろんアイギスがそう簡単に破れるわけではない。
「しつこいよ」
 トライデント発動。そのトライデントめがけて、セルフィもヌンチャクを振り下ろした。
 粉々にくだけるヌンチャク。また武器を失う。
(やっぱり)
 確信する。レイラはまだそれに気づいていない。
 だが、自分も武器を失った。残っているのはもう──
「これでもう武器もなくなったね」
 レイラが笑って言う。凶悪な笑み。だが、彼女はまだ気づいていない。
(いける?)
 いや、まだだ。
 もう少し、必要。
(守って、セフィロス)
 いましばらく、まだ攻撃を続ける。突進したセルフィをアイギスが阻む。近づくことすらできない。そのセルフィに向かってまたアポカリプスが放たれる。
(くっ)
 直撃を受ける。すぐにフルケアで回復し、スロットをフルケアに再セット。
 アルテマ。フレア。そしてメテオ。黒魔法の三連がけを回避しきれずにダメージを受ける。
(も〜、本当に反則なんだから!)
 フルケアで回復してもすぐに魔法で削られていく。この圧倒的な力量差。
(オーラも切れたか)
 スロットでオーラを使っている暇もない。こちらも間断なく攻撃しなければならないのだ。
(トライデントだけは防がんと)
 レイラは瞬間的に魔法を放つことができるが、アイギスとトライデント、エクスティンクションだけは例外だ。それらの魔法は集中力が半端ではない。
(あと一回)
 それで勝負が決まる。ならば、こちらから仕掛けた方がいいか。
 一回でいい。一回トライデントなり、エクスティンクションなりを使わせればいい。それで勝負は決まる。だが、その魔法を使わせて自分が無事でいられるには──
(やるしかあらへんな)
 覚悟を決める。失敗すれば、そこでスロット魔法を使っている暇はない。ただ自分が消滅するだけ。だが、その可能性にかけなければ、自分は勝てない。
「いくよ!」
 セルフィが詰め寄る。レイラが笑って魔法を唱える。
「トライデント!」
 生み出される三叉の矛。だが、そのレイラに向かって、
「目には目!」
 セルフィは思い切り両手を突き出した。
「ドロー・トライデント!」
 SeeDにだけ使えるドロー魔法。相手の魔法を掠め取り、逆に攻撃を仕掛けるという離れ技だ。
 その時に応じて攻撃力が大小してしまうが、最強の矛であれば効果のほどは変わらないはず。
 トライデント同士がぶつかりあい、互いに消滅する。
 舞台はこれで、整った。
(勝負)
 まだ、レイラは気づいていない。自分だけが『そのこと』に気づいている。
 彼女が気づいたときには、もう勝負は終わっている。
「何するつもり?」
 すぐにレイラが魔法を唱える。迫るセルフィの攻撃を受けるつもりなど彼女にあるはずがない。
「アイギス!」
 最強の盾を生み出し、防御行動を取る。
 だが。
「それが、命取りだよ」
 服の中、目立たないところに隠してあった、魔法のダガー。かつて自分がスコールを刺したときに使った武器。スコールが自分との絆を信じてたくしてくれた武器。
 これが、セルフィの正真正銘、最後の武器だ。
「そんな武器で、このアイギスを崩せると思ってるの?」
 レイラは笑う。
 だが、セルフィは振り上げた腕を、ためらわずに力強く振り下ろした。
 一瞬、アイギスの盾によりその動きが止まる。
 が、次の瞬間にそのダガーはアイギスの防御陣を切り裂いて、そのままレイラの胸に突き刺さった。
「うそ、どうして」
 こふ、と咳と一緒に吐き出される少量の血液。
「簡単なことだよ」
 セルフィは肩で呼吸しながら言う。いくらアイギスを破ったとはいえ、こちらも全力を振り絞った攻撃だった。疲れないはずがない。
「だって、その魔法、魔力がいくら回復したとしても、体力まで回復するわけじゃない。エクスティンクションもアイギスもトライデントも、使えば使うほど体力がなくなって、攻撃力や防御力が弱まっていく。回数を重ねれば重ねるほど弱くなっていく。そのことに気づかなかったレイラの負け」
 そして、スロット魔法に集中する。
「じゃ、修正者の最強魔法、見てみようか」
 レイラの表情がこわばる。胸にダガーをつきたてられた状態で、魔法を返すことなど不可能だ。
「嘘。嘘。嘘。そんなの、嘘」
「嘘じゃない。魔女を倒せるのは、魔女の力を持って、なおかつ修正者の力を備えたアタシだけだから」
 そして、彼女は唱えた。
「ジエンド」
 消滅の光がレイラを襲い、そしてはじける。
 一面の花畑が現れたと思ったら、急激に彼女の体温が下がり、生命活動が停止していく。
 冷たくなっていく、魔女の体。
 そしてレイラはもはや手遅れになったことを悟ったか、諦めたように笑った。
「ねえ」
「なに?」
「最後に一つだけ、お願い、聞いてくれる?」
「ええよ」
 セルフィは軽く頷く。
「じゃ、ちょっと、こっち来て」
 それは明らかに罠。行く必要はない。このままにしておけば、彼女は消滅し、この世界から自分を除いて魔女は完全にいなくなる。
「なに?」
 だがセルフィは近づいていく。レイラが何を企んでいるのかは知らない。だが、何か仕掛けてくるのなら絶対に迎撃してみせる。
 レイラは近づいてきたセルフィに、リノアそっくりの笑顔を浮かべると、そのまま抱きついてきた。
「なに?」
「ん、ただ死ぬまで、こうしててほしいって思っただけ」
「レイラ」
 そう。
 セルフィはこのときようやく、レイラが求めているものを悟った。
「そっか」
 セルフィはその腕を彼女に回す。
「レイラはただ、こうやって抱きしめてほしかっただけだったんだね」
 親の都合で、親を殺すためだけに生まれてきた子供。
 愛する男性ができても、どれだけ力をつけても、誰からも望まれなかった子供。
 彼女が求めていたものは何でもない。
 ただ、彼女への愛情。
「世界を征服すれば、誰かが愛してくれると思ったの?」
「分からない」
 徐々に動かなくなっていく体をセルフィに預けて答えた。
「ただ、誰も私を見てくれないなら、無理やり見させてやろうと思っただけ。世界制服なんてどうでもいい。せめてお母さんが私を見てくれたら」
「うん」
 ぎゅう、とセルフィは力強く抱きしめる。
「最初からそういえば、こうしてあげたのに」
「そうだね」
 レイラは安心しきった表情のまま、意識を途切らせた。



 それが、魔女の終焉。
 セルフィ以外の、全ての魔女がこの世界から消えた瞬間だった。






238.神々決戦

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