約束の場所まで行こう。
あの空の果てまで。
この世界の果てまで。
その先で待っているから。
PLUS.244
深遠の闇
promised land unlimited secret
「秩序を示す理、六芒の力よ、汝がすべてを解き放ち、混沌を成すものに久遠の安らぎをもたらせ」
ティナの呪文と共に、場に六芒の星が描かれる。その中心に立つカオスの体がスパークして、六本の手に持つ剣が一本ずつ消滅していく。
「すごいな」
スコールが素直に感心する。その光は確実にカオスの力を封じ、消し去っていく。
「でもまだ終わりじゃない」
リディアが注意深くカオスの様子を凝視する。
こんなに簡単に終わるような相手なら苦労はしない。
「それよりも」
カインは自分から見て右手前にいるセルフィと、そして左奥にいるセフィロスを交互に見比べる。
「セフィロス」
セルフィはカオスを挟んで反対側にいるセフィロスに向かって話しかけた。
「セフィロス、あたし」
だがセフィロスはただ微笑を浮かべると、その手にした剣を掲げる。
正宗。その剣に青白い光がともる。
「前にも言ったな、カオス」
セフィロスの声がその場に流れる。
「お前に、絶望を贈る、と」
そして、セフィロスの最大奥義が発動する。
「スーパーノヴァ!」
正宗から放たれた光がカオスを直撃する。さすがのカオスもその直撃を受けてノーダメージとはいかない。それにあわせてカインとスコールが動いた。
六芒の力は既にカオスを弱めた。あとは倒すだけ。
ティナもリディアも次の攻撃に移るために動きだす。
だが、その中でセルフィだけが石化したかのように動けなかった。
「セフィロス」
もう顔は涙があふれんばかりで、言葉をかけようにも名前のほかに何も出てこない。
「セルフィ」
ふわり、とその幻獣は飛翔するとセルフィの傍に舞い降りる。
「辛い思いをさせたな」
ぶんぶんと首を振る。セフィロスさえいてくれたら自分は何もいらない。セフィロスだけがいてくれればいい。
「あたし」
「分かっている。俺に会いに来るというのだろう」
セフィロスは優しい笑顔で言う。
「全ての世界を超えたその先、最果ての地」
召還魔法が解けていく。うっすらとその体が消えていく。
「そこでお前を待っている」
「セフィロス!」
消え行くセフィロスにしがみつく。そのまま強引に唇を合わせた。
「必ず行く」
「お前なら、何があってもたどりつけそうだな」
セフィロスの手が優しくセルフィの髪をなでる。
「もっちろ〜ん! だって、天下無敵のセルフィちゃんなんだからね!」
最後くらいは笑顔で。
セフィロスもまた、笑顔で。
二人の、束の間の逢瀬は終わりを迎えた。
セフィロスのぬくもりが。
この体に。そして唇に。
残っている。
セフィロスに会える。
いつかまた、会える。
そのためにも。
「こんなところで、立ち止まっているわけにはいかない」
修正魔法スロットが激しく動き回る。
オーラやジエンド、フルケアといった最強魔法をこれまで何度も使いこなしてきたが、今回はそれ以上のものを。
カオスそのものを吹き飛ばすくらいの、強烈なやつを。
今、セルフィは覚醒した。
「くらえ!」
修正魔法の真髄。
「リバイス!」
全てを修正する光が照射される。混沌から秩序へと移ろうこの場の中で、光はカオスを吹き飛ばさんとその体を包み込む。
「スコール、私の力を使って!」
リディアが叫ぶ。何を言われているのかはスコールにはすぐに分かった。
「ドロー!」
リディアから魔法をドローする。あまりの魔法力の高さに一瞬気を失いかけるが、踏みとどまって魔法を構築する。
『お主なら大丈夫だ』
頭の中にグリーヴァの声がする。大丈夫だといわれたら、やらざるをえない。
「ドロー・エクスティンクション!」
リディアの最強魔法を放つ。リバイスの光で力を失っているカオスにさらなるダメージ。そして、
「私も便乗させてもらおうか」
ティナが左手に力を込める。
「ダブル・エクスティンクション!」
幻獣ティナが、リディアの魔法を見様見真似で放つ。だが威力のほどはリディアにも劣らない。ティナはそもそも魔法のエキスパート。幻獣となればその力はさらに高まっている。
そして、本命。
「トリプル・エクスティンクション!」
最強の魔法の使い手、リディアが自ら最強魔法を放つ。封印の六芒を使った後で、修正魔法リバイスに、エクスティンクションの三重がけ。現状、これ以上の攻撃方法は存在しない。
そして、すべての光がスパークした。
白い光に包まれたカオスの影が消えていく。
が、その最後に残った黒い点一つ。それがカインの前までやってきて、黒い人影へと代わった。
「あなたたちの力はたいしたものですね」
『カオス』が相手を褒め称える。
「俺の力ではない。みんなの力だ」
「ですが、私はまだここにこうして生きています」
影の右手から剣が伸びる。
「最後にもう一度、あなたと決着をつけたい」
「二度と御免だと、言ったはずだがな」
だがカインはオメガウェポンを構えると相手の挑戦に応じた。
「何度やっても同じ結果だ」
「そうかもしれません。ですが私は、あなたと戦うためにずっとここにいたのです」
カインと影がその場で対峙した。
まだ光は完全に治まっていない。スパークする光の中。一度つけたはずの決着を、ここで再び終わらせる。
「これが最後になるのなら」
影は瞬時にカインに近づいた。
「悔いなく、全力を尽くすのみ」
鋭い一撃がカインを襲う。だがカインも身を引いてその一撃をかわす。
「カオスを操っていたのはお前の仕業か?」
カインが剣を交えながら尋ねる。だが影は笑った。
「まさか。ただ私はカオスの中で待っていただけですよ、この時を。あなたと戦うことができるこの瞬間を。それがうまく廻ってきただけのこと」
影が光を切り裂く。だがカインにはその攻撃は当たらない。
それが『先読み』の力。
「俺はカオスとの戦いで学んだことがある」
その影の軌跡を読みながらカインは冷静に言葉をつむぐ。
「闇を消すのは光。では、闇と闇がぶつかった場合はどうなるのか」
剣が繰り出されてくるのを紙一重で回避して、カインは左腕を突き出す。
「答えは、より強い闇によって、弱い闇は消されてしまうということだ」
そのまま、カインは左手で相手の頭をつかんだ。
「俺の闇はカオスより深い」
そしてカインは自分の力を高める。
「お前のように、カオスの一部でしかないものが、俺を消すことはできない」
「馬鹿な。ただの人間に」
「俺はもう人間じゃない」
影より深い闇の炎がその接した部分に灯る。
「俺はカイン。カオスより深い闇」
カインという名が示すその意味は罪。闇よりもなお重い罪。
「これが闇の炎だ」
「まさか、それほどの力を」
その影が燃え上がる。
「カインフレイム」
影をその闇で燃やし尽くす。スパークする光の中、消滅していく影と、さらに力を増す闇。
「あなたのような人間が」
影は消える瞬間、捨て台詞を残す。
「人間と共に生きていくことができるのですか?」
「俺には友も愛する者もいる。問題はない」
だがカインはもう迷わない。
この道をただ進んでいくだけだと既に決めている。
「だからもう俺の前に出てくるな、マラコーダ」
影は少し苦笑したようにして、消えた。
そして光も消える。
それまで巨大化されていたカオスの本体は完全に力を失っていた。既に通常のサイズまで戻っている。翼や尾、六本の腕などもなくなり、ただの人間体となった。
「我をここまで追い詰めるとはな」
こふぅ、とカオスは呼吸する。
「だが、この姿となってもまだお主たちを倒すだけの力は備えているぞ」
「ならば、決着をつけるとしよう」
カインが手にオメガウェポンを握り締めながら近づく。
「カイン」
「大丈夫だ。ここまでくれば、後は俺の──守護者としての役目を果たすだけだ」
ティナが近くまで浮遊してくるが、それに向かって笑顔を見せて応える。
「リディア」
そのオメガウェポンの切っ先を彼女に向ける。
「頼みがある。お前の最強魔法をこの剣に」
「最強魔法って、エクスティンクションのこと?」
「いや違う。お前がエウレカから受け継いだ最後の魔法だ」
言わんとしていることは分かった。だが、リディアもまだその魔法を唱えたことは一度もない。というより、うまく効果を発動させられるか自信がない。
だが、ここは断れる雰囲気ではなかった。
「いいよ」
リディアは力を込めてその剣に魔法をかける。
「カタストロフィ」
その剣が鈍く輝き、そして灰褐色の刀身が生まれる。
「助かる」
「カイン」
スコールとセルフィも近づいてくる。二人に頷いてみせると、カインはそれ以上は何も言わなかった。
(最後の戦いだな)
カインはこちらの準備を待っていてくれたカオスに向かって歩み寄る。
カオスは言った。最後くらいは死力を尽くして戦いたいと。ならばそれに応えよう。
「カイン、俺たちも──!」
こらえきれなくなったか、スコールが声をかける。だがカインは首を振った。
「邪魔になる」
そう。
もはや、この段階においてはスコールやセルフィ、ティナにリディアの役目は終わった。
この世界を守る役割はカインにしか果たせない。
そしてこの戦いはもう、他の誰も入り込むことができないものに代わってしまった。
そう。
闇と闇の、純粋な力の勝負。
(セシル、ローザ)
目を閉じれば二人の姿が見える。
長い、長い旅の果て。
自分は、あの二人のところに還る。
(そして今度こそ、言えなかった言葉を言うよ)
カインと、カオス。
ふたりの間で、闇が弾けた。
245.闇の終幕
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