……お疲れ様。もう、ゆっくり、休んでいいんだよ?












PLUS.247

伝えたい言葉







Thank you for calling.






「ルナ!」
 母のごとき笑みを浮かべたルナにリディアは迷わず抱きついていた。
「よくがんばりましたね。あなたのことはずっと見ていました。あなたのおかげで世界に平和がもたらされました」
「ううん。私は何もしてない。カインがいてくれたから」
「そうですね。ですがみんなもうお分かりでしょう。ここにいる全ての者がいたからこそ、世界に平和がもたらされたのだということは」
 四人とも後ろで頷いている。カインが近づいてきてリディアの肩を叩いた。
「カイン。あなたのおかげです。ありがとうございます」
 ルナが深く頭を下げる。
「いや。俺ではなくセシルだったらもっと犠牲も少なくなっていたと思う。申し訳ない」
 逆にカインも深く頭を下げる。まったく、彼はどこまでもこうだ。
「カロンが会わせたかったのって、ルナ?」
「まあの。それに、ここの方がそれぞれの世界に戻るのが楽でよかろう?」
「そう。ありがとう、カロン」
 ルナは普段会うことはなかなかできない。月の化身として全ての世界を見守っているルナにとって、人と会うということ自体が非常に制限されている。
「さて、勇者たち」
 ルナの言葉に五人が改まって姿勢を正す。
「あなたたちのおかげで世界は救われました。無論、あなたたちの仲間もそうです。ラグナロクで宇宙に出た者たちは今、全員こちらへ呼んでいますから、もう少しで再会できるでしょう」
「ありがたい」
「今、幻獣界は特別に時間の流れを止めています。この世界にどれだけいても、他の世界ではほとんど時間が流れませんので、ここで好きなだけ体を休めていってください。あなた方は世界の英雄。今はあなたたちにこそ休息が必要でしょう」
「そうだな。確かに体中ボロボロだ」
 それだけカオスとの戦いが壮絶だったということだ。
「ここには世界の運行を司るアスラがおります。彼女に言えばいつでも自分の世界へ戻ることが可能です」
「いつでもおっしゃってくださいませ」
 アスラが丁寧に礼をする。それを言われてから急に意識が覚醒したかのようだった。
「そうか。もう、元の世界に戻れるんだな」
 カインが少し重い口調で言う。
「帰るのが怖い?」
 リディアが尋ねる。
「いや、もうふっきれている。あいつに会いに行くのはかまわないのだが、緊張するのは仕方のないことだな」
「ずっと後回しにしてた罰だよ」
「そうだな。お前はどうするんだ?」
「私はスコールやセルフィと一緒に、セフィロスを探しに行く」
「セフィロス?」
 先ほどの召還されたセフィロスだが、召還されるということはこの世界のどこかにはいるということだ。
「うん。セフィロスは最果ての地で待ってるって言ってた。だから迎えに行く。行っておもいっきりひっぱたく」
 セルフィが危険な発言をする。彼女がやると言ったら必ずやる。それはブルーのときで実演済みだ。
「じゃあ三人は決まりか。ティナは──一度自分の世界に戻るんだったな」
「はい。全てのことが終わりましたらカインのところへ行きます」
「ああ。じゃああとはこれから来る連中か」
「すぐには来ないでしょうから、まずは体を休めてはいかがですか」
 ルナの提案に乗ろうとしたときのことだ。
「僕ならもう到着したよ」
 その部屋に入ってきたのはブルーだった。
「ブルー! 無事だったか」
「何とかね。それに」
「それに?」
「アセルスも無事、人間に戻ったよ」
 それを聞いたティナとリディアが思わず顔を見合って笑う。
「おめでとう」
「ありがとう。みんなのおかげだ。本当に感謝する」
 ブルーが深く頭を下げる。
「みんながいてくれなかったら、アセルスが人間に戻ることはなかったと思う。本当にありがとう」
 スコールが居心地悪そうにカインを見る。カインは少し微笑んで「よかったな」とだけ答えた。
「憑依させていた四体はどうなった?」
「ああ。ディオニュソスとオルロワージュ、エデンは分からないけど、レオンは一度バハムートに会いに行くって言ってた。しばらくぶりに会うって」
「なるほど。じゃあディオニュソスもどこかで生きてるっていうことか」
「そうだと思う」
「だそうだが、どうするセルフィ?」
 うにゃっ? と突然ふられたセルフィが疑問符を浮かべる。
「セフィロスの仇だろう。討ちにいくのか」
「ん〜、正直大元はやっつけちゃったし、どこにいるか分からんのを倒しに行くよりセフィロスに会う方が大事」
 この割り切りの良さがセルフィのいいところなのだろう。スコールも頷いて「わかった」と答える。
「それとみんな、もう一つ頼みがあるんだ」
 ブルーが言いづらそうにする。
「なんだ?」
「もし元の世界に戻るとしても、アセルスが目覚めるまでは待ってやってほしいんだ」
「それはかまわないが、何かあったのか?」
「いや、アセルスは仲間に置き去りにされた過去を持っているから、今回目が覚めてまたみんながいなくなっていたとしたら辛いと思うんだ」
「なるほど、道理だな。どのみち休息は必要だ。しばらくここで厄介になることにしよう。じきに他の連中も来るだろうしな」
 一通り話が終わるとルナが再び話しかける。
「それでは、私はそろそろ参らねばなりません」
「いろいろとありがとう、ルナ」
「いえ。お礼を言うのはこちらの方です。世界を救ってくださって、本当にありがとう。それでは」
 母の笑顔を見せたルナがその場から消え去る。
「では、ワシも行くとするかの」
 カロンの言葉にリディアが不安そうな顔を見せる。
「でも、カロンは」
「なに、お主にはもう守護役などいらんじゃろうて。いざとなればグリーヴァに頼るといい。それに、お主には幻獣に多くの仲間がいるじゃろ。それで充分。ワシはもう不要じゃて」
「カロン」
 リディアが呼びかけて頭を下げた。
「いろいろとありがとう」
「ワシは何もしておらんよ。世界を救ったのはお主たちで、ワシはただそれを見ていただけじゃからの」
 そうしてカロンもまたこの場から立ち去っていく。
 戦いが終わるというのはこういうことだ。一つの目的を達するために集い、それが終われば解散する。
 戦いが続いている間は苦しく、辛いことが多いが、仲間という存在がいたからこそ耐えられた。
 そしてその仲間とも別れる時が来たということなのだ。
「まあ、まずは休むがよい。ゆっくりとな」
 リヴァイアサンが声をかけると、小さなシルフたちが現れて、部屋へと案内していく。ブルーだけは再びアセルスの元へ戻り、そして最後の戦いを終わらせた五人はそれぞれ別の部屋へと入っていった。
 それから丸一日、彼らは昏々と眠り続けた。






 夢の中にいる。
 カインはそのことを自覚した。夢を見ているということは、もうすぐ目が覚めるということだ。少なくとも自分はもうすぐそうするだろう。
 ただそうしないのは、この夢があまりに昔の場面に酷似していたから。
 ここは、月。
 彼女とたった二人で過ごした、あの時。
(懐かしいな)
 そう。あの会話がどういう流れだったのかはよく覚えていない。ただ一つ、はっきりとしているのは、
『いつか、幸せになれるから』
 そう言われた。
 だから、答えた。
「それなら、俺と来てくれないか、ローザ」
 だが彼女はゆっくりと首を横に振り、
『それでは幸せになれないでしょう?』
 ああ。
 そうだ。
 お前はそう言って、俺を拒んだ。
 だが。
「お前の言う通りだ。俺は加害者で、お前は被害者だ。そこに幸せが生まれるはずもない」
 今なら分かる。彼女が何を言いたかったのか。
「俺は、俺を本当に理解してくれる人を探すべきだったんだな」
 ローザはただ笑う。
「見つけたよ、ローザ。俺が愛し、愛されるべき相手を」
『そう』
「だから、今度連れていく。お前とセシルに見てもらいたい。俺の愛する女性が、どれだけすばらしい相手なのかということを」
『もう、幸せに、なれた?』
 この戦いを通じて。
 確かに自分は、それを感じていた。
「ああ。幸せだ、ローザ」
『よかった』
 そして彼女の姿が消える。
「本当によかった」
 それからもっとはっきりとした声が聞こえた。
「エアリス」
「自分の気持ちに素直になるのがヘタだよね、カインは」
 二人の距離は十メートルもあるだろうか。近づけば一瞬だが、その距離は永遠に縮まらない。この夢の中ではきっと、彼女に触れることはできない。それを理解した。
「そうかもな」
「星の一部になっても、ずっとカインを見てきた。私もいろんな人を好きになったつもりだけど、カインほど自分に絶望してる人は知らなかったかな」
「褒めてるつもりか、それは」
「もちろん。そして、カインを選んでよかった。カインにこの世界を救ってもらえてよかった」
 そういえば、とカインは苦笑した。
「俺を呼んだのはお前だったな、エアリス」
「うん。私もすっかり忘れてたけど」
「まあ、今さら何故俺だったのかを聞いても意味のないことだな。お前は俺を選び、俺はそれに応えた」
「うん、それでじゅ〜ぶん」
 ふふっ、と笑って振り返る。
「もう、大丈夫?」
「ああ」
「それじゃ、そろそろ行くね」
「また会えるのか?」
「もう駄目だよ。世界は救われて、私のいる場所はなくなった。これが本当に最後」
「そうか、ならお前に伝えたいことがある」
 相手が自分を見ていないのを承知で、カインは頭を下げた。
「お前のおかげで幸せになれた。本当にありがとう」
「私がその相手だったらよかったのにな」
 だが、すぐに笑ってエアリスは否定した。
「でも、死ぬ予定の人間を好きになったら幸せになれないもんね」
「エアリス」
「さよなら、カイン。ティナを大切にしないと、しょ〜ちしないからね!」
 そして、消えた。顔を上げたとき、既にそこには誰の姿もなかった。
 静寂と、そして胸にあいた空白。
 だが。
 それを埋めてくれる存在が、現実にある。
「起きるか」
 彼女に会うために。
 そして、自分の物語を完結させるために。






248.忘れないように

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