だから、覚えていよう。












PLUS.248

忘れないように







It's important to remember.






「お目覚めですか」
 目を覚ますと、その目の前に求めていた女性の姿がある。
 今まで自分が何をしてきたのかを一瞬忘れかけていたが、すぐに思い出した。
「そうか、カオスを倒したんだったな」
「はい。お見事でした」
「お前がいたからだ」
 カインは立ち上がると、その女性を抱きしめる。
「カイン」
「お前を守りたいと思ったからこそ強くなれた。昔のままの俺だったらかなわなかっただろうな。お前が俺と一緒にいてくれるからこそ、俺は強くなれる」
「はい。私はずっと一緒にいます、カイン」
「勝手に離れていったとしても追いかけるがな」
「よく分かっています」
 確かに。彼女を追ってラビリンスを踏破したのはほんの数日前のことにすぎない。
「お前をもう離さない」
「離れません」
 そして二人は接吻をかわす──
「カイン、起きたー?」
 と、ちょうどいいタイミングで入ってきたのはリディア。あ、と口をぽかんとあけてから「失礼しましたっ!」と大慌てで出ていく。
「相変わらずタイミングの悪い奴」
 カインが言うとティナも苦笑した。
「少し恥ずかしいですね」
「ノックもしないで入ってくるなど、年頃の女のすることじゃないな」
 やれやれ、とカインは愚痴る。
「やっぱりカインはリディアさんと仲がいいんですね」
「まあ、一番戦い方もよく分かっている間だからな」
「本当は、私が援護射撃をしたかったんです」
 あの最後のカオス戦のことだろう。ティナは少しむくれて言った。
「でも、リディアさんの方が適任だと思いました。私では完璧にタイミングを合わせることはできなかったでしょうから」
「リディアのことであまり俺を苛めるな」
 カインは苦笑する。
「カインにとって、私は共に戦う仲間ではなく、守る対象なんですよね」
「違う」
 カインはきっぱりと応えた。
「じゃあ、何ですか?」
「お前は俺の半分だ。そう言っただろう」
 罪を半分背負う。言うなれば、自分の分身。
「納得はできませんが、理解はすることにします。あまり嫉妬しすぎてカインに嫌われるのはイヤですから」
「お前が何をしようと俺の気持ちは変わらないさ」
 ぽん、と頭に手を置く。そして扉を開けた。
「悪かったな、リディア」
「あ、ううん! こっちこそごめん!」
 おもいっきり頭を下げるリディア。この辺りは何も変わらない。
「他のメンバーは?」
「もうみんな来てるよ。アセルスだけ目が覚めてない。後はカインで終わり。ティナが起こしに行ったけどなかなか来ないから様子を見にきたの」
 そして少しふくれた様子を見せる。
「そうしたらそんなことしてるんだもん」
「あいにくと目が覚めたばかりだ。それに──」
 夢を見た、と言いかけてやめた。
 このことは自分が分かっていればいいことだ。
「それに?」
「いや、少し寝すぎたかな。体がだるい」
「ずっと戦い続きだったんだもん。もっと休んでもいいくらいだと思うけど」
「いや、さすがに体がなまる。そろそろ起きないとな」
 そうして三人は仲間たちのいる広間へとやってくる。
「カイン!」
 イリーナが笑顔で手を振る。レノがニヒルに笑い、アリキーノが会釈をする。シャドウは壁に寄りかかっており、ユリアンとモニカは笑顔で出迎えている。
「やったな」
 ファリスが近づいてきてカインの胸を軽く叩く。カインも頷いて「ああ」と答えた。
 ブルーはアセルスの部屋だろうか、ここには来ていない。そしてスコールにセルフィ。これで全員。
 そう、これで全員。
「一つだけ確認したいことがある」
 重い空気を放ちながらスコールが言った。
「ラグナは、どうした?」
 ラグナ・レウァール。魔女の館で消えた、自分達の指導者。
「ラグナおじさんはね」
 答えたのはセルフィだ。
「レイラに殺された。ごめん、スコール。言うのが遅れて」
「──そうか」
「仇は討っておいたから」
「いや、分かった」
 だが、当然この青年が簡単に気もちを制御できるはずがない。
 彼にとっての禁忌は、己に近い人間がいなくなること。
 それがたとえ苦手な人間であろうと。
 ラグナは、彼にとって実の父親なのだから。
「すまない。少し、一人にしておいてくれ」
 スコールはそう言い残すと広間を出ていった。
「リディア」
 カインが囁く。
「ついていってやれ」
「でも」
「こんなときについていてやらないで、何が彼女だ」
 辛いときだからこそ、誰かにいてほしい。その気持ちはリディアにだって分かっているはずなのだ。
「うん、ごめん。そうだね」
 リディアはすぐにスコールを追いかけていった。
「やれやれ、全部終わってハッピーエンド、というわけにはいかないぞ、と」
 レノが愚痴をこぼす。それはみんな同じ気持ちだ。
「最初の犠牲者が出た段階で、既にハッピーエンドなんていうものはなかったんだ」
 だが冷静にカインが答える。
「だから生き残った人間は、死んでいった奴らの分まで生きて、そして思い出話をしてやらないといけない」
 たくさんの人間がなくなった。

 アーヴァイン・キニアス。
 キスティス・トゥリープ。
 リノア・ハーティリー。
 ゼル・ディン。
 ウォード・ザバック。
 ラグナ・レウァール。
 カタリナ・ラウラン。
 ハリード。
 サラ・カーソン。
 ゼロ。
 ジェラール・アバロン。
 ミルファ。
 ヴァリナー。
 ドクター。
 セーファ・セフィロス。 

 そして。

 エアリス・ゲインズブール。

「生きていくことこそが、生き残った人間の使命だからな」
「そーだよな。だいたい、どいつもこいつも早く死にすぎなんだよ。後味悪いったらありゃしねえ」
 ファリスが盛大に悪態をつく。もちろんそれは悪気があってのことではない。死んでほしくなかったという意味の裏返しだ。
「それじゃあ僕らは死ぬわけにはいかないですね。死んだら、今ここにいるみんなに何を言われるか分かったものじゃない」
 ユリアンが言うと、思わず何人かが笑う。
「ま、ここまで生き残った奴がそう簡単にくたばるとは思えないぞ、と」
 レノも軽口につきあう。さすがにこの男でもすべてが終わると気が緩むものらしい。
「私たちはみんな、大切な人をなくしました。もう還ってくることはありません。でも、思い出はいつまでも残ります」
 モニカの言葉に、そうだな、とカインが頷く。
「全てが終われば、みんな自分の世界に戻るのか?」
 その問いに、それぞれが思いおもいに頷く。
「じゃあ、アセルスが目を覚ましたら、盛大にお別れパーティだな!」
 ファリスが言うと「さんせい!」とイリーナが手を上げた。
 別れは名残を惜しむものではない。元の世界に戻ればまたいろいろな困難があり、新たな出会いもあり、いつまでも人生は続いていく。
 だが、世界が異なる自分たちが再びめぐり会うことは、もうないだろう。
「じゃあ、アセルスの様子を見てくるか」
 カインが言うと「じゃ、ウチも」とセルフィが続く。
 ティナもそれに続こうとしたが、ふと目を止めた。
 さっきまでそこにいたはずのシャドウがいなくなっている。
(シャドウ)
 自分にとっては唯一故郷を同じくする者。インターセプターを失って辛くしているはずだったが、今はどういう心境なのか。
「カイン、私ちょっと」
 言いづらそうにすると、カインはただ黙って頷いた。ありがとう、と答えていなくなったシャドウを探しに行く。

 宴までは、まだもう少し時間が必要なようだ。






249.仲間と共に

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