REDEMPION4






 Cブロックのもう一試合はノワールの順当勝ちで、Cブロックの二回戦はアルベルvsノワールとなる。
 そしてDブロック。こちらはマクウェルが三本先取で勝利。そしてもう一試合はミイラのように包帯で体をぐるぐる巻きにした一般参加のレッサーが三本選手で勝利。



 続けて、試合はEブロックに入った。
『それではみなさん、ここで私はまた選手として戦わせていただきます。グレイ・ローディアス、vs、マリア・トレイター!』
 自分でコールをしながら、リングの中央でマリアと正面から向かい合う。
「二足のわらじっていうのも、大変なものね」
「まあ、正直自分がここまで勝ち残るっていうのも予測してなかったんですよ」
「その割には随分と余裕の表情みたいだけど?」
「余裕なんかないですよ。でも、やるからには負けるつもりはありません」
 グレイとマリアがにらみ合ってからお互い腰を落とす。顔見知りとはいえ、お互いに手加減などするつもりはない。
 コールが行われるより早く、二人は動きだした。
 マリアがグラビティビュレットを連射する。だが、さすがは【光】の二級構成員。素早いステップで重力の檻を回避し、マリアの懐に飛び込む。
「ジャンケン!」
 グレイが大きく『足』で蹴りつけてきた。
「ポン!」
 その足からオーラが放たれる。それがジャンケンのパーの形に広がり、拳を握り締めていたマリアを横から弾き飛ばした。
「キャアアアアアアッ!」
「マリア!」
 観客席にいたフェイトが思わず立ち上がる。ここまで圧倒的な強さを見せてきたマリアがついに一ポイントを取られたのだ。
「今のは、アペリスジャンケン術奥義、足転闘気法」
 ネルが呻くように言う。
「足転闘気法?」
「ああ。かつてアペリス神がトライア神から最後の一ポイントを奪ったときに使った奥義さ。まさか会得している者がこんな身近にいたとは思わなかったよ」

 足転闘気法……
 かつてこの世界を創世しようとしたアペリス神とトライア神がジャンケンでその決着をつけようとしたとき、二人の実力が伯仲していたために決着がつかなかった。そのためアペリス神は『足』により技を繰り出したという。これが足転闘気法の始まりとされる。
 足転闘気法は、素早くステップを踏みながら自らの内に施力とは異なる『闘気』を高め、それを足で蹴る動作をすることによって放つ。その際に自分が思った通りに闘気を形づくることが難しく、これを実際に会得したという例は少ない。北方諸島にこの足転闘気法を使うことができる一族がいるということだが、実際にそれを見たものはいない。
 闘気を放つときは必ず横からの蹴りで放たれる。相手からみると予測不可能な闘気が不規則に変形してジャンケンを繰り出してくることになるため、これを事前に読み取って防ぐことは不可能に等しい。
 なお余談ではあるが、体操の技で横に回転することを『側転』というのは、この足転闘気法に由来する。
──アペリス書房刊『世界のジャンケン』

「なかなかやるわね」
 マリアの口の端からかすかに血が流れている。倒れた際に口の中を切っただけなのだが、やけにダメージが大きそうに見えるのは仕様というものだった。
「あなたでは私には勝てません。できればこれ以上怪我をする前に、棄権していただけると助かります」
「あら、そんな簡単に棄権なんかしないわ。それに、私が負けるなんて冗談じゃないわよ」
 マリアは笑って、銃をしまった。
「そっちが足で勝負なら、こっちも足で勝負よ」
「馬鹿な、やめるんだマリア!」
 ネルが声を飛ばすがマリアはいたって余裕の表情だ。
「いくわよ、グレイ!」
「やむをえません」
 そしてお互いにステップを踏んで牽制しあう。そして、技が放たれた。
「足転闘気法!」
「トライデント・アーツ!」
 そのグレイの攻撃に合わせて、マリアも足を出す。そのマリアの足からも闘気が放たれた。
「なっ!」
 グレイのチョキを、マリアのグーがかき消し、さらにその闘気がグレイに襲いかかった。
「もう少し先までこの技を見せるつもりはなかったんだけれどね」
 まさにその技は、足転闘気法だった。マリアもまた、この不可能といわれた奥義を会得していたのだ。
「馬鹿な、この奥義をこうも簡単に」
「簡単じゃないわよ。私のは少しアレンジしているけれどね」
「アレンジ? そうか、マリアのやつ!」
 フェイトには全てからくりが読めた。マリアの技は単純に闘気を放っているのではない。おそらくは、アルティネイションの応用型。空気を変質させて闘気に見せて放っているのだろう。
(こんな短期間でその技を身につけるなんて、さすがはマリアだな)
 フェイトはこの同志を心強く思った。と同時に、彼女の目的が分からない現状を不安にも感じた。
(いずれにしても、これで決着はついたな)
 ポイント三対一。残りは一方的だった。
「手間かけさせてくれたわね」
 マリアは美しい笑顔と共にそう言い残した。



 Eブロックのもう一試合はサラが順当に勝利した。
 Fブロックの一試合目はエデンの勝利。そしてもう一試合が、一回戦の最注目カード。アクアvsエレナであった。
 礼儀正しく出てくるエレナに対し、ちょこちょこと歩み出てくるアクア。
 対極的な二人の初顔合わせであった。
「あらあら、随分と可愛いお子さんですこと」
「パパはあてにならないから、私が勝って賞金を手に入れるのです」
 鋭く辛らつなことを言う娘。草場の陰でエヴィアが泣いていた。
「いいわよ。それじゃあ私も本気を出そうかな〜」
「問題ありません。私には自分で発明したこれがありますから」
 アクアが掲げたものは、掌サイズの細工物だった。
「な〜に、それ?」
「ジャンケンマシンです。こうやってボタンを押すと、次に何を出せばいいかが分かるのです」
 そして早速ボタンを押すアクア。
「決まりました」
「そう。なら、本気で行くわよ」
 エレナが構えにならない構えを見せる。そして先ほど敗れたグレイがコールをかける。
『三回勝負! ジャン、ケン、ポン!』
 アクア、チョキ。エレナ、パー。
 その結果にエレナが驚愕の表情を見せる。アクアは全く表情を変えずに、もう一度ボタンを押した。
「次ですの」
「……どうやら、本気みたいね」
 エレナも真剣な表情に変わる。
『ジャンケン、ポン!』
 アクア、チョキ。エレナ、パー。またしても同じ結果になった。
「強いぞ、アクアちゃん」
 エレナから二連勝したアクアに驚愕を覚えるフェイト。
「あの機械、何かにおうね。ただの確率的なものじゃない」
 ネルが近くで囁く。
「確率じゃない?」
「ああ。確率論ならジャンケンの勝率はあいこを除けば50%だろう? あの機械の勝率も50%のはずだ。それなのに連勝したというのは、あの機械が相手の次の手を読み取っているとしか思えない」
「まさか、そんな機械が」
「ああ、あるはずがない。だから何かあると思うのさ」
 三回目。アクア、パー。エレナ、グー。
 なんと、あのエレナに一ポイントも許さずにアクアは勝利した。
『勝者、アクア!』
 大番狂わせに、客席から座布団が飛んだ。



 Gブロックはイライザがあっさりとアイーダに勝利。
 そして問題のウェルチvsソフィアとなった。
「負けないもん!」
 ソフィアがネコ飾りのついたステッキを手にリングに上がる。一方、いつもの体のラインが美しく浮き上がる格好のウェルチが反対側のコーナーに上がる。
「たとえクリエイターだからって、手加減はしませんからね」
 ウェルチもまた例の指型ステッキを手にしている。そのウェルチをじっと見つめるソフィア。
 その視線が妙に、ウェストラインの方に集中していた。
「負けないもんっ!」
 ボルテージが上がる。ヒートアップゲージはMAXだ。
『それでは、位置について! ジャンケン、ポン!』
 ウェルチ、チョキ。ソフィア、パー。いきなりヒートアップゲージが壊れる。
「ううう〜、こうなったら、本気出すんだから!」
 ヒートアップゲージMAXだったくせに何を言うのか。と思いきや、突如ソフィアは紋章術を唱え始める。
「お、おいソフィア! それは問題だぞ!」
「大丈夫、殺しはしないから!」
 目が血走っている。ヤバい。あれはもう止められる状態じゃない。
「イフリートソード!」
 ソフィアは本気でイフリートを召喚した。そして──
『ジャンケン、ポン!』
 そのイフリートにジャンケンをさせた。イフリート、グー。ウェルチ、チョキ。
「見た、フェイト!?」
 ソフィアは一ポイントを取ってはしゃぐ。だがそれを見たフェイトはため息をついた。
「お前バカだろ」
「な、なによぅっ!」
 いきなり冷や水をかけられてソフィアは素に戻る。
「そんな無駄なことに召喚して何になるんだよ」
「それでも一ポイント取ったもん! このままの勢いで勝つんだから!」
「くっ、こうなったら」
 ウェルチも構えなおす。そしてソフィアが右手を構える。
『ジャン、ケン!』
「チョキチョキチョキ〜!」
 ウェルチのチョキに、ソフィアのパーが敗れる。これで二対一。
「い、今のはまさか」
 ネルが呻くように言う。
「今のも何か、ジャンケンの技なのかい?」
「ああ。あれは、伝説の十二使徒の一人、フォー・リーヴズが使った奥義、チェック・イットさ」
「伝説の十二使徒!? アペリス教にそんな人たちがいたのかい?」
「正確にはアペリス教じゃないんだ。アペリス神でもない、トライア神でもない、全く別の神。あまりにも神聖ゆえに、みだりにその名すら呼んではいけないとされる神だ。私たちはその神の俗称を使って、シス=プリ、と呼んでいる」
「シス=プリ?」
 えらく可愛らしい名前だな、とフェイトは素直に思う。
「馬鹿にしちゃいけないよ。なにしろシス=プリは、今でもまだ一部の熱狂的な信者たちによって神としての力を保ち続けている、おそろしい神だ。特にその十二使徒と呼ばれる人物たちに対する信仰が強い。何しろ、十二使徒それぞれに信者が分散しているくらいなんだから。それにしても、どうしてウェルチがあの技を」
 ネルがそこまで言うと、ソフィアはウェルチを指さして言った。
「その秘密は、声です!」
 その言葉にウェルチが顔をしかめる。
「どういうことだ?」
「ウェルチさんの声は、フォー・リーヴズの声とそっくり──いえ、全く同じ、Hanba-voiceなんです!」
「Hanba-voice?」
 その言葉の意味が分からないフェイトだったが、ウェルチには充分分かっていたらしい。
「よくお分かりですね。でも、それを知ったからといって、私の技はとめられませんから」
「いいえ、止められます。その声さえ封じればいいんだから! サイレンス!」
 その紋章術により、ウェルチの発言が封じられる。これでHanba-voiceは封じられてしまった。
「……っ!」
「今です! ジャンケン、ポン!」
 コールに合わせて腕が振られる。ウェルチ、チョキ。ソフィア、グー。これで二対二。
「……っ! っ!」
「声を出そうとしても無駄ですからっ!」
 そして、最後の一振り。ウェルチ、グー。ソフィア、パー。見事な逆転劇だった。
「見ててくれた?」
 ソフィアがリング下にいるフェイトに微笑む。
 だが、この戦いに妙な感じしかしなかったフェイトは下手な笑顔しか見せることができなかった。



 こうして、ついに優勝候補筆頭のいるHブロックとなった。
 初戦のエリザvsレスターは、強運を発揮したエリザが勝利。
 そして一回戦最終試合は【水】の師団長ブラウン対、元クリムゾンブレイドのアドレーという組み合わせであった。
「いやあ、まさかアドレー様とやることになるとは思いませんでした」
「ふん、お前程度ではまだワシにはかなわんわ」
 かくしてアドレーの【タイタン・ボイス】が炸裂。師団長ですら防ぐことができないその奥義に、会場が震撼した。



 こうして、ベスト16が出揃った──

 フェイト  vs ブルー
 クレセント vs クレア
 アルベル  vs ノワール
 マクウェル vs レッサー
 マリア   vs サラ
 エデン   vs アクア
 イライザ  vs ソフィア
 エリザ   vs アドレー












 もう続くでいいよ。





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